2025年2月11日(火)

BBC News

2025年1月21日

サム・フランシス政治担当記者、ヘンリー・ゼフマンBBC主任政治担当編集委員

イギリスのデイヴィッド・ラミー外相は20日、キア・スターマー首相が数週間以内にアメリカ・ワシントンを訪問し、ドナルド・トランプ大統領と会談する予定だと見通しを示した。トランプ氏は20日、大統領に就任した。

トランプ氏の就任を前にラミー外相は、英米関係は「強固」なので、首相が早い段階で大統領と会談するものと「確信している」と述べた。

ラミー外相は記者団に対し、「過去の首相を見ても、ワシントンを訪れるまでに1週間から最大1カ月かかっている。重要なのは関係の強さと、真剣に協議をすることだ」と述べた。

「結局のところ、ヨーロッパでは戦争が起きている。中東では停戦合意があるが、非常にもろい合意だ。そして、イランなど主要な敵対勢力についてアメリカと協議する必要がある。それにもちろん、米国との貿易関係の拡大もある」とラミー外相は記者団に述べた。

その上で、「つまり、話し合うことはたくさんある。キア・スターマー氏はこれから数週間の内にドナルド・トランプ氏とこうしたことについて話し合うはずだと確信している」と述べた。

英政府にとって対米関係の懸案は

トランプ氏の就任式を前に、スターマー首相は声明を発表し、新しいアメリカ大統領を祝福し、英米が「歴史的な同盟の揺るぎない基盤を、引き続き強化していく」と述べた。

首相は、英米両政府が「世界的な課題に取り組み」、「成長のための共有された機会に焦点を当てる」として、「イギリスとアメリカの特別な関係は今後も繁栄し続ける」と述べていた。

スターマー氏率いる労働党政権にとって、アメリカの新政権との関係では、提案されている貿易関税や、チャゴス諸島の主権移譲をめぐるイギリス提案についてなど、いくつかの外交的課題が迫っている。英政府は、米英共同軍事基地があるインド洋のチャゴス諸島の主権をモーリシャスに譲渡する案を昨年秋に発表。これについてトランプ氏は「検討」する意向を示している。

スターマー首相はこれまでに、トランプ政権下で「イギリスとアメリカの特別な関係は引き続き栄える」はずだと発言している。

昨年7月に労働党政権が発足して以降、政府幹部はトランプ氏側との関係構築に努めてきた。スターマー首相は昨年11月の大統領選に先駆けて、ニューヨークのトランプ・タワーでトランプ氏と会談している。さらに大統領選の結果を受けて、首相とその周辺は両国関係の重要性から、トランプ政権発足に対する準備を加速させてきた。

スターマー首相は、「偉大な両国の平和、繁栄、安全を確保するため、共通の使命に取り組み続ける中、次の会談を楽しみにしている」とも述べている。

トランプ氏が輸入品への関税引き上げ方針を示していることや、ウクライナ支援の今後が不透明なことなどを、イギリスは第2次トランプ政権の早い段階で取り上げるかもしれない。

トランプ新大統領が実際にどう動くのかは不透明だが、いくつかの主要課題についての方針はイギリス政府とはかなり異なるだけに、スターマー政権の閣僚たちは政策上の対応に注力してきた。

イギリスの閣僚たちは現在、中国政府との関係再構築に取り組んでいる。しかしトランプ氏は、西側にとって中国こそ西側の最大の戦略的脅威だという考えだ。同様に、スターマー政権の閣僚たちが欧州連合(EU)との関係を「リセット」しようとしているのに対して、トランプ氏はEUをひどく嫌っている。

トランプ大統領はイギリスなど複数の国に大幅な関税を課す可能性があり、それはイギリス経済に甚大な影響をもたらし得る。

ダレン・ジョーンズ財務首席政務次官は19日、BBC番組「サンデー・ウィズ・ローラ・クンスバーグ」番組で、トランプ氏がアメリカへの全輸入品に20%の関税を検討しているものの、アメリカはイギリスに対して「貿易赤字」状態にないため、イギリスは高関税を回避できるかもしれないと話したほか、閣僚たちは「あらゆるシナリオに備えて準備している」とも述べた。

ジョーンズ財務次官は、イギリス政府としては「トランプ政権が何をするかを見る必要がある」ものの、トランプ氏は「良い取引をしたがる」人でもあると話した。

イギリス政府はまた、米英合同軍事基地があるチャゴス諸島の主権をモーリシャスに引き渡す提案について、トランプ政権と外交的にもめることを避けたい構えだ。バイデン前政権はすでにこの主権譲渡を承認しているものの、トランプ政権に詳細検討の余裕を与えるため、実施は保留されている。

20日に米上院で国務長官として承認されたばかりのマルコ・ルビオ氏は、モーリシャスと中国の結びつきから、チャゴス諸島ディエゴガルシアにある英米合同基地に不安があるとして、イギリス提案のリスクを懸念している。

一方、ラミー外相はBBCラジオ4の番組で、イギリスとモーリシャスの合意をトランプ氏は支持するだろうと話した。

「新政権に検討の余地を与えるのは正しく適切なことだが」とした上で外相は、「この合意を詳しく検討した。国際社会の安全を守るためにふさわしい合意内容だ」と話した。

トランプ氏は伝統に反して、数人の外国指導者を就任式に招待した。式典でのイギリス政府代表は、退任するイギリスのキャレン・ピアス駐米大使が務めた

後任の駐米大使にスターマー政権は、イギリス政界で名高い労働党重鎮のピーター・マンデルソン卿を選んだ。トニー・ブレア、ゴードン・ブラウン両首相の労働党政権で閣僚を務めたパンデルソン卿は、数週間の内にピアース大使と交代する見通し。

ただし、マンデルソン卿が過去にトランプ氏を「世界にとって危険な存在」と呼び、「白人国家主義者に近い」と発言したことから、アメリカではその着任に異論が出ている。

マンデルソン卿の大使着任についてトランプ大統領の承認を、スターマー政権は待っている状態で、ダウニング街の首相官邸とホワイトハウスを結ぶ重要な存在としてマンデルソン卿は適任だと自信を示している。

官邸報道官は20日、マンデルソン卿を「優れた」候補者で、「相当の専門知識」を持っていると称賛した。

英野党とトランプ政権は

最大野党・保守党からはプリティ・パテル影の外相が、就任式で共和党が主催するイベントに出席するためにワシントン入りした。

BBCに対してパテル氏は、トランプ政権への期待を示し、「実にたくさんの世界的な課題に直面している中(中略)イギリスと結びつきが最も強くて近い同盟国と、確実に足並みをそろえる必要がある」と話した。それには、貿易協定の再交渉も含まれるとパテル氏は話した。

野党・リフォームUKのナイジェル・ファラージ党首は、トランプ政権とかかわる際に政府は「型破りな考え方」をする必要があると述べた。

BBCラジオ4番組に出演したファラージ氏は、「(イギリスの)この政府は、あらゆる政府と同じように行動する。人選でも、決まりきった確立した方法で人を選ぶ。(中略)けれども(トランプ氏は)、国際政治でいまだかつて誰もみたことのない形でいろいろなことをする」のだと話した。

長くトランプ氏を支持してきたファラージ氏は、トランプ氏との交渉仲介役を申し出たが、スターマー政権は拒否している。

「(英政府は)私など必要ではないと思っているが、近いうちに、もしかして必要かもしれないと気付くかもしれない」とも、ファラージ氏は話した。

一方、野党・自由民主党のエド・デイヴィー党首は、トランプ氏のホワイトハウス復帰は「イギリスや世界中の何百万という人々にとって非常に心配なことだ」と述べた。

「貿易戦争を約束し、北大西洋条約機構(NATO)を弱体化させ、ウラジーミル・プーチンを称賛する大統領だ。我々の国家安全保障と経済に対する脅威は明らかだ」と述べた。

(英語記事 PM will meet Trump within weeks, Lammy suggests

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c8xq89yyr9do


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