
デイヴィッド・グリッテン(BBCニュース、ロンドン)、ヨランド・ネル中東特派員
パレスチナの保健省は21日、イスラエル軍が占領下のヨルダン川西岸地区ジェニンで大規模な軍事作戦を実施したと発表した。パレスチナ人9人が殺され、35人が負傷したという。
パレスチナのメディアによると、多数の兵士がドローン(無人機)やヘリコプター、装甲ブルドーザーを伴って、ジェニンとその難民キャンプに進入。空爆も行われた。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ジェニンで「テロを打倒する」ため、「広範かつ重要な」作戦を開始したと述べた。ジェニンは長らく、パレスチナの武装組織の拠点と見なされてきた。
イスラエルとイスラム組織ハマスがガザ地区での停戦と人質解放で合意し、パレスチナ人受刑者が大規模に解放されたことにより、ヨルダン川西岸地区では緊張が高まっている。
今回の軍事作戦は、パレスチナ・ガザ地区での停戦開始から3日後に行われ、西岸地区でのさらなる暴力の脅威を浮き彫りにしている。西岸地区では20日夜にも、イスラエ人入植者とみられる人々が暴動を起こした。
ジェニンのカマル・アブ・アルルブ知事はAFP通信に対し、「これは難民キャンプへの侵略だ」と述べ、「アパッチ(ヘリコプター)が空に、イスラエル軍の車両が至る所に、あっという間に現れた」と付け加えた。
パレスチナの政府系通信社WAFAは地元の情報筋の話として、イスラエル軍がジェニンのキャンプを「完全に包囲」し、装甲ブルドーザーがいくつかの通りを掘り起こしたと報じた。
また、ジェニン政府病院のウィッサム・バクル院長の話として、イスラエル軍の銃撃で医師3人と看護師2人が負傷したと伝えた。
イスラエル軍が21日朝に進入する前に、ジェニン難民キャンプ周辺のいくつかの拠点から、パレスチナの治安部隊が撤退したと報じられている。
パレスチナ治安部隊のアンワル・ラジャブ報道官はAFP通信に対し、イスラエル軍が「民間人と治安部隊に発砲し、多数の負傷者が出た」と述べた。
パレスチナ保健省は21日夜、ジェニンでイスラエル軍によって男性8人と、16歳の少年ムタズ・アブ・トベイクさんが殺害されたと報告した。
さらに、ジェニンから北西約8キロにあるティアニク村で、別の男性がイスラエル軍に射殺されたと付け加えた。
イスラエルのネタニヤフ首相は声明で、ジェニンでの「アイアン・ウォール(鉄の壁)」作戦は、「ヨルダン川西岸地区の安全を強化する目標を達成するための追加の一歩」だと説明した。
「我々はガザ地区、レバノン、シリア、イエメン、(ヨルダン川西岸地区)など、イランの枢軸が及ぶすべての場所で、計画的かつ決然と行動しているし、現在も活動中だ」
イスラエルは、イランがハマスやパレスチナ・イスラム聖戦機構(PIJ)および他の武装組織に武器と資金を密輸し、ヨルダン川西岸地区での不安をあおっていると非難している。
イスラエルのメディアは軍事筋の話として、作戦の目的はヨルダン川西岸地区での「行動の自由」を維持し、武装組織のインフラを解体し、差し迫った脅威を排除することだと報じた。この情報筋はまた、作戦は「必要な限り続ける」と述べた。
WAFAによると、ヨルダン川西岸地区に拠点を置くパレスチナ自治政府のムハンマド・ムスタファ首相はこの襲撃を非難し、イスラエルが新たに西岸地区のパレスチナ人に対し「攻撃的な措置」を行ったと述べた。
一方、ハマスとPIJはヨルダン川西岸地区のパレスチナ人に対し、ジェニンでの作戦に対抗し、イスラエルへの攻撃をエスカレートさせるよう呼びかけている。
ジェニンでは過去にもイスラエル軍の軍事作戦が行われてきた。
最近では、パレスチナ自治政府の治安部隊が、ハマスやPIJを含む武装組織に対して数週間にわたる物議を醸す作戦を実施し、支配権を再確立しようとしている。
2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃とその後のガザでの戦争以来、ヨルダン川西岸地区では暴力が急増している。
イスラエル軍は襲撃を強化し、ヨルダン川西岸地区とイスラエルでの致命的なパレスチナ人の攻撃を食い止めようとしており、これまでに数百人のパレスチナ人が殺害されている。
イスラエル入植者による襲撃、米新政権が方針転換するなか
これとは別に、ヨルダン川西岸地区では21日夜、覆面をしたイスラエル人の過激派がカルキリヤ東部のジンサフートとアル・フンドゥクの二つの村でパレスチナ人を襲撃し、家や車に火を放ち、財産を破壊した。
パレスチナ赤新月社によると、少なくとも21人のパレスチナ人が負傷した。また、イスラエルの警察官が暴力に対応する際に発砲し、イスラエル人2人も撃たれたという。
燃やされた園芸センターの数メートル先に家族の家があるというモハメドさんは「昨夜そこにいたら、女性や子供たちの叫び声しか聞こえなかっただろう」と語った。
「結局、私たちには自分たちを守るものが何もない。しかし、向こうには私たちを攻撃するためのすべてがある」
イスラエル軍は、イスラエルの民間人が「暴動を扇動し、財産に火を放ち、損害を与えた」として、事件を調査していると述べた。また、このイスラエル人らが石を投げ、イスラエルの治安部隊を攻撃したとも述べた。
この事件の直前には、アメリカのドナルド・トランプ新大統領が、ヨルダン川西岸地区での攻撃に関与したとされるイスラエル人入植者に対する制裁を解除すると発表した。
バイデン前政権が科した、過激なイスラエル人を対象とした制裁を撤回したことは、新政権ががユダヤ人入植地の拡大に、より寛容な姿勢を示す可能性を示している。
極右で入植推進派のベザレル・スモトリッチ・イスラエル財務相は、アメリカの動きを歓迎。Xへの投稿で、トランプ氏の「イスラエル国家への揺るぎや妥協のない支持」を称賛した。
一方、パレスチナ当局はアメリカの政策変更を非難した。パレスチナ外務省は声明で、「過激派入植者に対する制裁を解除することは、入植者がパレスチナの人々に対し、さらに犯罪を犯すことを奨励するものだ」と述べた。
アル・フンドゥクのルアイ・タイヤム市長はBBCに対し、「これは入植者に対するゴーサインのようなもので、『どうぞ、好きなことをしてください。あなたたちは処罰されない』と言っているようなものだ」と語った。
「入植者たちはこのニュースを喜んでいる。そして昨夜はこれが大きな後押しとなったと思う。入植者たちはアメリカの発表に勇気づけられている」
ガザでの戦争開始以来、入植者による攻撃は著しく加速している。アル・フンドゥクでの攻撃は、今月初めに3人のイスラエル人が射殺された地域で発生した。
イスラエルの入植活動を監視するNGO「ピース・ナウ」によると、2024年には入植者がイスラエル政府の許可のない前哨地を59カ所新設した。これは、記録的な数となった2023年の2倍以上に当たる。
イスラエルは、1967年の中東戦争でヨルダン川西岸地区を占領して以来、約160カ所の入植地を建設し、約70万人のユダヤ人が住んでいる。これらの入植地は国際法に違反しているとされているが、イスラエルは異議を唱えている。第1期トランプ政権も「違法ではない」との立場を取っていた。
(英語記事 Nine Palestinians killed as Israeli forces launch major operation in Jenin)