
バーンド・デブスマン・ジュニア、BBCニュース(米ホワイトハウス)
ドナルド・トランプ米大統領は20日、移民の取り締まりを目的とした一連の大統領令と法令に署名した。
出生地主義の見直しを求める命令や、国境の不法移民の状況を国家緊急事態と宣言する命令を出すなど、トランプ氏は米・メキシコ国境を強化するという約束を迅速に実行に移した。
ただし、特に出生地主義の定義変更に関する計画には、大きな障害が予想される。
トランプ政権はすでに、大統領の発表に激しく反発している移民擁護団体から訴訟を起こされている。
ある団体は、大統領の計画は「アメリカの価値観を反映していない」と述べた。別の団体は、トランプ政権が「私たちの生活を積極的に破壊しようとしている」と非難した。
トランプ氏は20日午前に行われた就任演説で、「すべての不法入国を阻止する」と誓い、数百万人の「犯罪者の外国人」を追放すると述べた。
また、メキシコの麻薬カルテルをテロ組織に指定する命令にも署名。「私にとって、脅威や侵略から我が国を守ること以上に重要な責任はない」と説明した。
首都ワシントンのキャピタル・ワン・アリーナで行われた別のイベントでは、ジョー・バイデン前大統領が出した約80本の大統領令を正式に撤回した。トランプ氏は以前、「5分以内に」バイデン政権の政策を廃止すると誓っていた。
就任後には、南部国境での「侵略が停止するまで」移民を「撃退、送還、または排除」する権限を当局に与える宣言に署名した。
出生地主義は変更できるのか
大統領令の詳細はまだ明らかにされていないが、当局者は、トランプ氏が出生地主義を終了させる計画を持っていると述べている。
出生地主義とは、アメリカの領土で生まれた人は、両親の移民ステータスに関係なく、出生時からアメリカ市民と見なされるという、アメリカ政府の方針を指す。
トランプ大統領は、アメリカに住む不法移民の子供たちが自動的にアメリカ市民と見なされなくなるように規則を変更しようとしているとみられる。この変更は過去にさかのぼっては適用されない。
しかし、出生地主義は憲法に明記されており、これを変更するには連邦上下院の3分の2の賛成票が必要となる。トランプ氏がどのようにこれを達成しようとしているのかは不明だ。
トランプ大統領は、アメリカに不法滞在している親や一時的なビザ(査証)で滞在している親から生まれた子供に対して、連邦機関が書類を発行するのを停止するよう指示した。これにより、こうした子供たちが公共サービスを利用できなくなる可能性がある。
人権擁護団体「アメリカ自由人権協会(ACLU)」は、直ちにトランプ政権に対して訴訟を起こすと発表した。ACLUは声明で、「アメリカ生まれの子供に市民権を与えないことは、憲法違反であるだけでなく、アメリカの価値観を無謀かつ冷酷に否定するものだ」と述べた。
亡命申請アプリも廃止、面会予約もキャンセルに
新政権は、移民が入国手続き地での面会予約を行うために使用していたモバイルアプリ「CBP One」を迅速に廃止する措置も講じた。
バイデン政権は、このアプリが2023年1月に導入されて以来、国境での拘束者数の減少に役立ったと評価していた。このアプリは、米・メキシコ国境で亡命を申請する唯一の合法的な手段だった。
現在、米税関・国境警備局のウェブサイトには、このアプリが「利用できなくなった」と記載されている。
またアプリのユーザーには、「CBP Oneを通じて予定されていた既存の予約は無効です」とのメッセージが表示されるようになっている。
BBCがアメリカで提携するCBSの報道によると、バイデン政権時代にCBP Oneを通じ、移民のアメリカ入国の面会が今後3週間で約3万件予定されていた。
他の推定では、CBP Oneを利用してアメリカに入国する機会を待っている移民がメキシコに約27万人いるとされていた。
メキシコの国境都市ティフアナでは、CBP Oneの終了を知った後、多くの移民が落胆し、意気消沈していると報告されている。
カルテルの暴力から逃れ、てんかんの息子と共に故郷の州を離れたというメキシコ人女性オラリアさんは、「神がトランプ氏の心に触れてくれることを願っている」と語った。「私たちには本当に助けが必要だ」。
オラリアさんはCBP Oneを通じた予約を7カ月間待っていたという。
トランプ氏は就任初日にこのほか、キューバ、ハイチ、ニカラグア、ヴェネズエラからの移民について、毎月最大3万人がアメリカに飛行機で入国できるというバイデン政権の取り組みも停止するよう命じた。CBP Oneアプリと同様、この取り組みも不法入国の数を減らすことを目的としていた。
移民擁護団体は、トランプ氏のさまざまな大統領令に激怒している。
「ナショナル・イミグレーション・フォーラム」のジェニー・マレー会長兼CEOは、一連の命令に「失望したが驚きはない」と述べた。
マレー氏は声明で、「予想される命令は家族を引き離し、経済を弱体化させる」、「これらはアメリカの価値観を守るものではない」と指摘した。
全国的な移民青年団体「ユナイテッド・ウィー・ドリーム」のエグゼクティブ・ディレクターを務めるグレイサ・マルティネス・ロサス氏は、トランプ氏の大統領令は「政権が今後4年間、私たちの生活を積極的に破壊しようとしていることを示している」と述べた。
「トランプ氏の大規模摘発と強制送還の実行の誓約は、全国のコミュニティーに壊滅的な影響を与える。議員らが直ちに公然と反撃しない限り、何百万もの家族や個人が混乱に陥るだろう」
追加取材:ウィル・グラント(メキシコ)
(英語記事 Trump declares border emergency and seeks to end US birthright citizenship)