
米連邦議会上院(定数100)は24日、ドナルド・トランプ大統領の指名を受けて、元FOXニュース司会者のピート・ヘグセス氏(44)を国防長官に承認した。賛成50、反対50と票数が拮抗(きっこう)したため、上院議長を兼ねるJ・D・ヴァンス副大統領が賛成票を入れ、わずか1票差で新国防長官が決まった。
上院での指名承認議決にあたり、共和党からミッチ・マコネル元上院院内総務(ケンタッキー州)、リサ・マーコウスキ議員(アラスカ州)、スーザン・コリンズ議員(メイン州)の3人が反対に回ったため、上院議員による投票は賛成50、反対50となった。
このため、あらかじめ上院に到着していたヴァンス副大統領が賛成票を投じ、ヘグセス氏はわずか1票差で国防長官に承認された。
上院による閣僚承認のために副大統領が上院議長として投票する必要が生じたのは、アメリカ史上わずか2回目。1回目は2017年にトランプ氏が指名した教育長官候補を承認するため、マイク・ペンス副大統領(当時)が投じた。
ヘグセス氏は米軍兵士としてイラクやアフガニスタンに派遣された経験をもち、トランプ大統領をかねて熱心に支持してきたものの、飲酒トラブルや女性暴行などさまざまな問題行動の疑いが指摘されていた。ヘグセス氏はそうした疑惑を一貫して否定していた。
ヘグセス氏はさらに、ミネソタ州から上院選に出馬して落選したほかは、政界での経験がほとんどない。
国防省は8500億ドル近い予算の巨大組織で、約130万人の現役米軍兵士を束ねる。それだけに、ヘグセス氏の国防長官就任については、与党・共和党からも異論が出ていた。
マコネル議員が異例の批判
承認後にマコネル上院議員は、なぜヘグセス氏の国防長官就任に反対したのか、異例の声明で説明した。共和党重鎮のマコネル氏が、トランプ氏に公然と異論を唱えるのは珍しい。
マコネル氏はヘグセス氏について、巨大予算と職員300万人を擁する国防省を取り仕切り、世界中の同盟諸国と提携できる能力が備わっているとは思わないと批判。
国防長官とは「アメリカ国民の安全に愕然(がくぜん)とするほどの影響をもたらす挑戦に、日々直面する」のがその役割であって、「自分がその試練に見事応えられるとは、ヘグセス氏は今のところ示すことができていない」と、マコネル元上院院内総務は書いた。
「アメリカの安全保障と繁栄を裏付ける秩序を破壊しようとする複数の敵が、連携して繰り広げてくる攻撃に、アメリカは直面している。ヘグセス氏は公の発言や上院軍事委員会での証言において、この現実を受け止めていなかった」とも、マコネル議員は指摘した。
さらに上院での証言でヘグセス氏が、中国が台湾やフィリピンを攻撃した場合にアメリカはどう対応すべきか計画を示すことなく、そもそもアメリカが台湾やフィリピンを中国から守るために介入すべきなのかについても言明しなかったとマコネル議員は批判。ヘグセス氏は、中国とどう取り組むのか「戦略的なビジョンを詳細に示すことが、まったくできなかった」ともマコネル議員は述べた。
マコネル氏はさらに、ヘグセス氏が「戦士の文化」復活をかねて強調していることから、「『戦士の文化』復活とは、社会文化のために戦うカルチャー戦士たちを、別のカルチャー戦士たちと入れ替えたからといって、実現できるものではない」とくぎを刺した。
そのうえで議員は、「ヘグセス長官の大成功」を願うと声明を結んだ。
同様に、承認に反対した共和党のマーコウスキ議員はこの日の議決より先に、ヘグセス氏の「過去の行動は、この国の軍隊の指揮を執る人にふさわしい判断力の欠落を示している」と批判していた。
共和党のコリンズ議員は、「この仕事で成功するために必要な経験と視点を、(ヘグセス氏が)備えていないのではないかと心配している」と述べていた。
かつて女性兵の戦闘参加に反対
承認手続きのための上院軍事委員会公聴会では、特に多くの女性上院議員が、ヘグセス氏がかつて、女性が兵士として戦闘に参加すべきでないと発言していたことについて問いただした。これに対してヘグセス氏は、自分は女性兵の戦闘参加に反対しているのではなく、アメリカ軍の水準維持を重視しているのだと答えていた。
公聴会では、女性に対する問題行動疑惑が繰り返し取りざたされた。2017年にはカリフォルニア州のホテルで女性を性的に暴行した疑惑があるものの、ヘグセス氏は一連の疑惑をすべて否定している。
さらに、職場での飲酒を含むアルコールによるさまざまな問題行動や、かつて2度の結婚の間に不倫関係をもっていたとも批判されている。
公聴会でヘグセス氏は、「私は完ぺきな人間ではないが、(罪の)あがないは本物だ」と発言していた。
(英語記事 Ex-Fox News host Pete Hegseth confirmed as Trump's defence secretary)