2025年2月11日(火)

BBC News

2025年1月27日

レバノン保健省は26日、同国南部でイスラエル兵が22人を殺害、124人を負傷させたと発表した。昨年11月27日に発効したイスラエルとレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの停戦合意に基づき、イスラエル軍は60日以内にレバノンから撤退することになっていた。しかし、撤退期限を迎えたこの日も、レバノン駐留を続けている。

レバノン南部で多くの住民は、同地域が安全でないという警告にも関わらず、イスラエルとの国境に近い街や村に戻った。

イスラエル軍は「複数の地域で威嚇射撃を行った」と発表したが、被弾した人がいたかどうかは明確にしなかった。また、「差し迫った脅威」を及ぼしていたとする数人を捕らえたとした。

イスラエルは、60日間の停戦合意が完全に履行されていないと主張している。レバノン国内に何人のイスラエル兵が残っているのか、そしていつまで駐留するのかは分かっていない。

撤退期限を迎えても駐留、攻撃も

レバノン保健省によると、イスラエル軍は、レバノン領内における支配地域に入ろうとした人々を攻撃した。死者には複数の女性が含まれ、負傷者には女性や子供、救急隊員も含まれるという。

レバノン軍は、イスラエルの攻撃によってレバノン兵の1人が死亡、1人が負傷したと発表した。

アメリカとフランスが仲介し、14カ月続いた紛争を停止させた停戦合意は、イスラエル軍のレバノン撤退と、レバノン南部からのヒズボラ戦闘員の撤退および武器の撤去を求めていた。同時に、数十年にわたりヒズボラが支配的だった同地域に、レバノン兵数千人が配備されるはずだった。

この停戦交渉に詳しい、西側諸国の外交関係者が匿名を条件に語ったところによると、イスラエルはレバノン南部にあるヒズボラのインフラを破壊するために、もっと時間が必要だと主張。当初は、30日間の延長が計画されていたという。

ヒズボラ系テレビ局アル・マナールはここ数日、市民にレバノン南部への帰還を促している様子だった。いくつかの場所には、ヒズボラの黄色と緑色の旗を掲げた車列が到着した。

9日にレバノン大統領に就任したばかりのレバノン軍統合司令官、ジョセフ・アウン氏は、複数の危機に直面し疲弊している自国に、安定をもたらそうとしている。そうした中で停戦期限が守られず、アウン大統領は就任後初めての大きな試練に直面することとなった。

イスラエルは1982年から2000年までの18年間、レバノン南部を占領していた。そのため、イスラエル軍のプレゼンスはレバノンの大勢にとって悩みの種になるだろう。アウン大統領は26日に声明で、レバノンの「主権と領土保全に交渉の余地はない」とし、「この問題について、最高レベルの注意を向けている」と付け加えた。

こうした中、ヒズボラは、「国際社会は、合意を後押しする国々を筆頭に、イスラエルの違反行為に直面していることへの責任を負い、レバノンからの完全撤退という義務を(イスラエルに)負わせるよう」求めた。

イスラエルとヒズボラの紛争は、昨年9月にエスカレートし、イスラエルによるレバノン全土への激しい空爆作戦や、ヒズボラの複数幹部の暗殺、レバノン南部への地上侵攻へと発展した。レバノンでは多くの民間人を含む約4000人が殺害され、120万人以上が家を追われた。

イスラエル首相官邸は24日、停戦合意に基づくイスラエル軍の撤退は「レバノン南部でレバノン軍を展開し、(停戦)合意を完全かつ効果的に履行する一方で、ヒズボラがリタニ川以南から引き揚げる」ことが条件になっていると述べた。リタニ川は、レバノン南部のいわゆる「ブルーライン」(国連が設定したレバノンとイスラエル、イスラエル占領下のゴラン高原を隔てる非公式な境界線)の北約30キロメートルに位置する。

「停戦合意が依然として、レバノンによって完全に履行されていないため、アメリカの全面協力のもと、段階的な撤退プロセスを継続することになる」と、首相官邸は声明で説明した。

レバノン軍は25日に声明で、イスラエルとの国境沿いの地域で、「(軍)配備強化計画の実施」を継続しているが、「イスラエルの敵が撤退を先延ばしにしていることから、(停戦における)いくつかの段階で遅れが生じ、軍の配備任務が複雑になっている」とした。

ヒズボラ、イスラエルとの戦闘で弱体化

イランの支援を受けるヒズボラは、レバノンにおける軍事的、政治的、社会的な運動。イスラエルとの紛争で著しく弱体化したものの、レバノン国内のイスラム教シーア派の間では、以前として大きな支持を得ている。

イスラエルの攻撃で、ヒズボラはインフラや兵器備蓄を失いつつあり、同組織を長年率いたハッサン・ナスララ師など複数の主要人物や戦闘員数百人は殺害された。そのため、停戦合意は、ヒズボラの降伏を意味すると広く受け止められていた。

撤退期限を前に、いくつかの合意違反はあったものの、戦闘が停止したことで、何十億ドルもの破壊と損害をもたらした暴力行為に終止符が打たれ、何千人ものレバノン住民は自宅に戻れるようになった。

ヒズボラが攻撃を再開すれば、国益に反する戦争にレバノンを引きずり込んだとヒズボラを非難する勢力の反発を招くのは必至だ。一部のヒズボラ支持者さえ、ヒズボラを批判する可能性もある。

ヒズボラの政治的影響力もまた、低下している。

レバノン議会は今月上旬、新大統領を選出した。同国では2年以上にわたり、政治的行き詰まりが続いていたが、その原因はヒズボラにあるとの非難の声が上がっていた。

アウン大統領は、長年汚職まみれだった複数の国家機関を立て直し、長年の危機で破綻した経済を復活させ、武器保有の権利は国家が独占するという、野心的な改革を約束している。武器保有に関する改革は、ヒズボラの軍事力抑制を意味する。

ヒズボラに対してどのような策を実施しても、国内で暴力が起きる火種になりかねないと懸念される、それだけに、レバノン軍が武器を独占できるようになるのか、そのつもりがあるのかは不明だ。

イスラエルは、ヒズボラと戦う目的として、ヒズボラの攻撃によりイスラエル北部から避難した住民約6万人を帰還させ、国境沿いの地域からヒズボラを排除することを掲げている。

ヒズボラと同様にイランから支援を受けるイスラム組織ハマスは2023年10月、イスラエル南部を攻撃し、約1200人を殺害。250人以上を人質としてパレスチナ・ガザ地区へ連れ去った。イスラエルはハマス壊滅を掲げて、ガザでの軍事作戦を開始した。

ヒズボラはガザのパレスチナ人に連帯を示すためだとして、イスラエル側に攻撃を仕掛けた。

(英語記事 Lebanon says 22 killed by Israeli forces after withdrawal deadline missed

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cwyen35k7gyo


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