2025年2月28日(金)

BBC News

2025年1月31日

アンソニー・ザーカー北米担当編集委員

ドナルド・トランプ米大統領は30日、ホワイトハウスの記者会見室のカメラの前に立ち、伝統的な大統領の役割である「悲劇の時の慰め役」を果たした。

29日夜にアメリカの首都ワシントンの近郊でアメリカン航空の旅客機と米軍のヘリコプターが空中衝突した事故について、トランプ大統領は国が悼んでいると述べ、「苦悩の時間」における哀悼の意を表し、初動対応者と犠牲者に敬意を示した。

しかしその後、大統領は急に話題を変え、新しい政権がこれまでとは大きく異なることをあらためて示した。

それは好戦的で、原稿にはない内容で、そして速やかに責任を追及するものだった。

トランプ氏は、「この事故の原因はまだ分かっていないが、我々は非常に強い意見と考えを持っている」と発言。

続けて、ジョー・バイデン前大統領とバラク・オバマ元大統領の政権下で、連邦航空局(FAA)の航空管制官の採用基準が引き下げられたことが、この悲劇の一因である可能性があるとの見方を示したのだった。

トランプ大統領と共和党の同僚たちは、連邦政府の「DEI(多様性、公平性、包摂性)」プログラムを繰り返し攻撃している。こうしたプログラムがアメリカ国民を分断し、国を弱体化させたと主張し、トランプ大統領はその撤廃を就任初日の重要な仕事とした。

そして、アメリカでは10年以上ぶりとなる大規模な航空事故から24時間もたたないうちに、トランプ大統領は運輸長官、防衛長官、副大統領と共に、連邦政府の採用慣行がこの事故に関係しているとの主張を、証拠を示さないまま繰り返した。

調査が始まったばかりの段階で、どうやって多様性プログラムを事故の原因だと言えるのかと問われると、大統領は「自分には常識があるからだ」と答えた。

一方で、これまでに確認された原因はないことを認め、「すべては調査中だ」と大統領は述べた。

トランプ大統領は、FAAの多様性・包摂性プログラムの採用指針には、「聴覚、視覚、四肢欠損、部分まひ、全身まひ、てんかん、重度の知的障害、精神障害、低身長症」を含む障害のある人々を優先することが含まれていると述べた。

昨年12月に削除されたと思われるFAAの多様性・包摂性採用プログラムのウェブサイトのアーカイブ版には、同様のリストが含まれていた。これは当時、連邦政府が採用を優先していた「特定の障害」がある人々を求めるものだ。

しかし、トランプ大統領が「生まれつき才能のある天才」である必要があると述べた航空管制官の数に、採用の多様化がどのように影響したかは不明だ。FAAには3万5000人以上の職員がいるが、航空管制官はそのごく一部に過ぎない。

多様性採用慣行に対する批判を受け、FAAは昨年に声明を発表し、すべての新規採用者が「職位ごとに異なる厳格な資格」を満たす必要があるとした。

FAAは、特に新型コロナウイルスのパンデミックが民間航空路線に大規模な混乱を引き起こした後、長年にわたる航空管制官不足について批判を受けている。

報道によると、衝突のあった29日夜、レーガン空港は人員不足だった可能性がある。

トランプ大統領はまた、バイデン政権で運輸長官だったピート・ブティジェッジ氏を名指しで非難。侮辱的な言葉で呼び、運輸省を「地に落とした」と述べた。

ブティジェッジ氏はソーシャルメディアで自身の実績を擁護し、トランプ大統領のコメントを「卑劣だ」と非難した。また、「家族が悲しみに暮れるなか、トランプ大統領はうそをつくのではなく、指導力を発揮すべきだ」と述べた。

民主党のチャック・シューマー上院少数院内総務も、トランプ大統領の発言を批判。「インターネットの評論家が陰謀論をまき散らすのとは訳が違う。アメリカ合衆国大統領が、遺体がまだ収容されている最中に根拠のない憶測を述べるのは問題だ」と述べた。

しかし、準備された原稿から離れたトランプ大統領にとっては、憶測の提示こそが最も関心のあることのようだった。

トランプ氏はDEI政策への非難に加え、2機の航空機の飛行角度と高度、衝突当夜の天候、ポトマック川の水温、そして陸軍ヘリコプターの行動について詳しく語った。

そのうえで、「ヘリコプターはあの時点で停止することができたが、何らかの理由でそのまま進み続けた」と述べた。

トランプ政権はこの日、前任者とDEI政策を非難する姿勢をさらに強めた。大統領は、航空分野での多様性政策を終了し、バイデン政権下で行われたすべての採用決定と安全手順の変更を見直すための文書に署名した。また、FAAの新しい長官を任命するための大統領令にも署名した。

この日のトランプ大統領の発言から明らかになったことが二つある。

一つ目は、主要なニュースに自ら関与しようとする熱意が、新任期でも衰えていないこと。そして二つ目は、国家的な悲劇に政治を持ち込み、対立相手を攻撃し、自身の政策を推進することにおいて、早すぎることはないと大統領は思っていることだ。

(英語記事 Combative Trump blames diversity policies after air tragedy

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cj91yvzmr7xo


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