
ドイツ連邦議会は1月31日、保守派の野党が提案し、極右が支持した移民対策法案を否決した。
この法案は、移民の数と家族との再会権を抑制するもの。この法案を提出したキリスト教民主同盟(CDU)のフリードリヒ・メルツ党首は、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持に頼ろうとしたが、オラフ・ショルツ首相率いる社会民主党(SPD)を含む複数の政党が反対し、法案は350対338で否決された。
メルツ氏が議会でこの戦略を取ったのは、この1週間で2度目となる。
この戦略は、極右勢力とは協力しないという独政界の長年の「ファイアウォール(防火壁)」を破るものとして広く非難されている。CDU前党首のアンゲラ・メルケル前首相も、議会でAfDと協力しないという約束をメルツ氏が守らなかったと批判した。
一方、メルツ氏は自身の行動を「必要なもの」と擁護し、AfDの支持を求めたわけではないと述べた。また、「間違った人々が支持しているからといって、その政策が間違っているわけではない」としている。
メルツ氏は、移民に対する厳しい姿勢を強めることで、AfDに投票しようとする右派有権者の支持を取り戻せると考えている。しかしこの戦略では、中道派からの支持を失うリスクがある。
CDUは29日にも、連邦政府に国境および亡命規則の厳格化を求める動議を提出。この決議案はAfDの支持を受けて可決された。
これに対し30日夜には、ドイツ各地で数千人が抗議デモを行った。
CDUは現在、支持率調査で1位となっており、メルツ氏は次期首相と目されている。AfDは2位につけているが、メルツ氏は、AfDとのいかなる形の連立も否定している。
ショルツ首相は、メルツ氏がAfDに頼ったことを「許しがたい過ち」と批判。「ドイツ連邦共和国が設立されてから75年以上、我々の議会におけるすべての民主主義者の間には常に明確なコンセンサスがあった。それは、極右と共に行動しないということだ」と述べた。
政界を引退しているメルケル前首相もめずらしく発言し、昨年11月にメルツ氏がSPDや緑の党と協力して法案を通すと約束したにもかかわらず、AfDと協力したことを非難。この約束は「大きな国家的政治責任の表れ」だったと述べた。
一方、AfDのアリス・ヴァイデル共同党首は29日、主要政党がAfDと協力しないことでドイツの有権者を軽視していると非難した。
AfDの一部は、ドイツの情報機関によって右派過激派と分類されている。
ドイツでは、かねて緊迫化している移民をめぐる議論が、亡命希望者による一連の死傷事件で再燃している。22日には、南部バイエルン州アシャッフェンブルクで刃物襲撃事件があり、2歳の幼児を含む2人が死亡した。
この問題は、昨年11月に3党連立が崩壊したことで始まった選挙活動で主要な争点となっている。解散総選挙は2月23日に行われる予定。
(英語記事 German immigration bill rejected despite far-right backing)