2025年2月11日(火)

BBC News

2025年2月1日

5年前の2020年1月31日、イギリスは欧州連合(EU)を離脱した。

この日、イギリスは47年間続いた政治的な結びつきを断ち切ったが、貿易を円滑に維持するための「移行期間」としてさらに11カ月間、EUの単一市場と関税同盟内にとどまり、2021年1月1日に離脱が完了した

また、北アイルランドは別の取り決めをしていた。

ブレグジットは政治的にも社会的にも大きな分裂を招き、政治的な議論を支配し、その影響についても何年も議論が続いた。

BBCヴェリファイ(検証チーム)は、ブレグジットがイギリスに与えた重要な影響を検証した。

1. 貿易

経済学者やアナリストは全体論として、2021年1月1日にEU単一市場と関税同盟を離脱したことが、イギリスの物品の貿易に対してネガティブな影響を与えたと評価している。

イギリスがEUとの自由貿易協定(FTA)を交渉し、物品の輸出入に関税が課されることを回避したにもかかわらずだ。

このネガティブな影響は、いわゆる「非関税障壁」に起因している。これは、EUとの輸出入時に企業が記載しなくてはならない、時間と手間のかかる、時には複雑な新しい書類作業を指す。

ブレグジットが具体的にどういう否定的な影響をもたらしたかについては意見が分かれている。

最近の研究には、単一市場と関税同盟を離脱していなければイギリスの物品輸出は現状より30%多かったはずだと示すものがある。他方、6%少なくなっただけだとする研究もある。

確かなことは言えない。これは研究者が「反事実的条件」、つまりイギリスがEUにまだ残っていたら物品輸出はこうだったはずだと、実際とは異なる状態を計測するため、どういう手法を選んだかが調査結果を大きく左右するためだ。

ただし、ブレグジットの影響をより強く受けているのは、イギリスの大企業ではなく中小企業のようだ。これだけは、ある程度の自信をもって言える。

中小企業は、ブレグジット後に必要になった新しい越境手続き対応するため苦労しているという。これは、小規模ビジネスに対する調査でも裏付けられている。

また、広告や経営コンサルティングなどといったイギリスのサービス輸出が2021年以降、予想外に好調ことも明らかになっている。

しかし、政府の独立した経済予測機関の予算責任局(OBR)は、ブレグジットが長期的に物品およびサービスの輸出入を15%減少させるとの作業仮説を立てて、今も変えていない。この見解は2016年以来、保守党前政権下でも維持されている。

また、OBRのもう一つの作業仮説は、貿易の減少が長期的に英経済の規模を約4%縮小させるというもので、これは現在の金額で約1000億ポンドに相当する。

OBRは、新しい証拠や研究に基づき、これらの仮説を修正する可能性はあるとしている。たとえば、貿易の影響がそれほど深刻でないと判断されれば、経済的にマイナスの影響の予測は下がるかもしれない。しかし、これがプラスの影響に転じることを示す証拠は、これまでのところ出ていない。

ブレグジット後、イギリスは他国と独自の貿易協定を結ぶことができるようになった。

オーストラリアやニュージーランドとの新しい貿易協定が結ばれ、政府はアメリカやインドとの新しい協定も追求している。

しかし、政府の公式な影響評価によると、こうした個別の協定が経済に与える影響は、ブレグジットがイギリス・EU間の貿易に与えた負の影響に比べて、小さいとされている。

一方で、EUの法律や規制に従う必要がなくなったことで、人工知能(AI)などの分野でイギリスに長期的な経済的利益がもたらされる可能性があると主張するエコノミストもいる。

2. 移民

ブレグジットの是非を問う2016年の国民投票では、EU域内の自由な移動が議論の中心だった。EU市民は、加盟国内を自由に訪れ、学習、就労、居住することができる。

国民投票以来、EUからの移民とEUの純移民(EUからの流入移民数とEUへの流出移民数の差)は大幅に減少し、2020年以降、自由移動の終了によってこの傾向は加速した。

しかし2020年以降、世界の他地域からの純移民は大幅に増加している。

2021年1月、ブレグジット後の新しい移民制度が施行された。

この制度では、EU市民と非EU市民の両方が、イギリスで働くためには就労ビザ(査証)を取得する必要がある(ただし、アイルランド国民はビザなしでイギリスに住み、働くことができる)。

非EU移民が2020年以降に増えた主な要因は、医療・介護分野を主とした就労ビザと、留学生およびその扶養家族だ。

イギリスの大学は財政状況が悪化する中で、非EU留学生の募集を拡大した。

ボリス・ジョンソン政権が、卒業後の滞在・就労権を再導入したことも、イギリス留学をより魅力的なものにした。

その後の保守党政権は、就労ビザ学生ビザを持つ人々の扶養家族の権利を制限。労働党政権もこうした制限を維持している。

3. 旅行・観光

ブレグジットによって域内の自由な移動が終了したことが、観光客やビジネスでの出張者にも影響を及ぼしている。

イギリスのパスポート保持者は、EUの国境検問所で「EU・欧州経済領域(EEA)・スイス」レーンを利用できなくなった。

イギリス市民は、パスポートの有効期限が帰国時に少なくとも3カ月以上残っている場合、180日の期間のうち90日間はビザなしでEUを観光目的で訪問できる。

一方、EU市民は最長6カ月間ビザなしでイギリスに滞在できる

しかし、旅行に関してはこれまで以上に大きい変化が待っている。

EUは今年、新しい電子出入国システム(EES)を導入する。これは、非EU諸国からの旅行者を登録するための自動ITシステムだ。

このシステムは、旅行者の名前、旅行書類の種類、生体データ(指紋と顔画像)、入出国の日付と場所を登録する。

これにより、パスポートの手動スタンプが廃止される。ESS導入による影響は不明だが、旅行業界の一部では、イギリスを出国する際の国境での待ち時間が増加する可能性があると懸念されている。

EESは2024年11月に導入される予定だったが、2025年に延期され、実施の新しい日程はまだ設定されていない。

さらにEESの導入から6カ月後には、EUは新しい欧州渡航情報認証システム(ETIAS)を導入する予定だ。イギリス市民は、欧州30カ国への渡航にETIASの認証を取得する必要がある。

ETIASの認証費用は7ユーロ(約1100円)で、有効期間は最長3年間またはパスポートの有効期限のいずれか早い方となっている。新しいパスポートを取得した場合、新しいETIAS渡航認証を取得する必要がある。

一方、イギリスは2025年4月2日から、(イギリスとアイルランドの国民を除き)イギリスに入国する人に対して、ETIASに相当する電子渡航認証(ETA)を導入する。イギリス入国時に必要なETAの費用は現在は10ポンド(約1900円)だが、政府は16ポンド(約3000円)に引き上げる方針。

4. 法律

法的主権、つまりイギリスが独自の法律を制定し、EU法に従う必要がなくなることは、ブレグジット国民投票の際にEU離脱派が強調したもう一つの重要な約束だった。

2020年のブレグジット直後の混乱を最小限に抑えるため、イギリスは「保持EU法」として、数千件のEU法をイギリス法に組み込んだ。

政府の最新集計によると、労働時間、同一賃金、食品表示、環境基準などを対象にする6901件の個別の保持EU法が存在する。

保守党前政権は、こうしたEU法を2023年末までに廃止するとしていた。

しかし、多くの法案を検討する必要があるため、すべての法律を適切に見直す時間がないのではないかという懸念があった。

2023年5月、当時のケミ・ベイドノック貿易相(現保守党党首)は、同年末に600件のEU法を廃止し、さらにその後に500件の金融サービス関連法を廃止すると発表した。

ほとんどは比較的地味な規制で、多くはすでに廃止されるか、無関係なものとなっていた。

それ以外のすべてのEU法は維持されたが、閣僚らは将来的にそれらを変更する権限を保持していた。

また、イギリスは一部のEU法を変更した。たとえば、イギリスから食肉用・肥育用の生きた動物を輸出することを禁じたほか、遺伝子組み換え作物に関するEU法を変更した。

ブレグジットにより、イギリスは税法の特定分野でも、多くの自由を得た。

EU加盟国はEU指令により、教育に対して付加価値税(VAT)を課すことが禁止されている。しかしEUを離脱したことで、労働党政権は私立校の授業料にVATを課すことが可能になった。

2021年、イギリス政府はタンポンなどの衛生用品に対するVATをゼロにした。これは、当時のEUのVAT指令がすべての衛生用品に最低5%の税を課すことを義務付けていたため、EU内では不可能だった。しかし、2022年4月にEUの規則が変更され、EUも衛生用品に対するゼロ税率を認めるようになった。

5. 資金の流れ

イギリスがEUに送金していた資金は、2016年の国民投票で物議を醸したテーマだった。特に離脱派が、イギリスは毎週3億5000万ポンドをブリュッセルに送っていると主張したことが注目された。

財務省によると、ブレグジット前の最後の財政年度にあたる2019/2020年において、イギリスのEU予算への公的部門の総拠出額は183億ポンドだった。これは週あたり約3億5200万ポンドに相当する。

イギリスは移行期間中もEU予算に拠出を続けたが、2020年12月31日以降はこれらの拠出を行っていない。

だがEU予算への拠出金は、EUの共通農業政策(CAP)に基づくイギリスの農家への支払いや、「構造基金」として経済的に不利な地域での技術や雇用、職業訓練を支援するための開発助成金を通じて、常に部分的にイギリスに還元されていた。これらの還元額は2019/2020年には50億ポンドに達した。

移行期間終了後、イギリス政府はCAPの支払いをそのまま、税金に置き換えた

閣僚らはまた、EUの構造基金助成金を「イギリス共有繁栄基金」に改称した。

イギリスはEU予算への拠出に対して年間約40億ポンドの「リベート(払い戻し)」を受け取っており、この額は実際には国を出ていなかった。

したがって、EUに予算拠出しないことによるイギリスの純財政利益は年間約90億ポンドに近いが、この数字は不確実だ。イギリスがEU予算に拠出していなかった場合の金額が分からないからだ。

加えてイギリスは、正式なブレグジット離脱協定とその財政合意の一環として、EUへの支払いを続けている。財務省によると、イギリスは2021年から2023年の間に純額149億ポンドを支払い、2024年以降も数年にわたってさらに64億ポンドを支払わなくてはならないという見積りになっている。

離脱協定に基づく今後の支払い額は、為替レートの変動の影響もあるため、不確実なものだ。

イギリスの財政は、EU予算や離脱協定以外でもなお、EUとつながり続けている。

ブレグジット発効後にイギリスは当初、EUが主導する科学研究・イノベーション・プログラム「ホライゾン・ヨーロッパ」への支払いを停止した。

しかし、イギリスは2023年にこのプログラムに再加入した。EUの見通しでは、イギリスはこのために、EU予算に対して年間平均約24億ユーロを支払うことになる。

ただし歴史的に見て、イギリス拠点の科学者が同プログラムの助成金の大変を獲得しているため、イギリスは純受益者だといえる。

今後はどうなるのか

もちろん、ここでは触れていないブレグジットの影響が多数存在する。これには領海の漁業権、農業、防衛などが含まれる。そして、労働党政権がEUとの関係を再構築しようとしていることから、このテーマは今後も長年にわたり、議論と分析の対象となることが分かっている。

(英語記事 Five key impacts of Brexit five years on

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c9qjepv3x2po


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