
アメリカのドナルド・トランプ大統領がカナダに高率の関税を課すと1日に発表した数時間後、カナダの首都オタワであった北米プロアイスホッケーNHLの試合で、現地のファンらがアメリカ国歌の演奏に大ブーイングを浴びせた。
米プロバスケットボールNBAのトロント・ラプターズ対ロサンゼルス・クリッパーズの2日の試合でも、同じことが起きた。15歳の歌手が米国歌を歌っている間、ブーイングがずっと続き、歌声はほとんどかき消された。
普段は礼儀正しいファンのこうした行為は、トランプ氏がカナダに懲罰的な税金を課したことへの、同国民の深い不快感をはっきりと示している。この課税は、北米大陸で前例のない貿易戦争の火種となる恐れがある。
トランプ氏はカナダからアメリカへの輸入品すべてに25%、エネルギーには10%の関税を課すとしており、4日に発動の予定。
この関税措置は、トランプ氏がカナダをアメリカの51番目の州にしようという動きを強めている中で打ち出された。一連の問題は、もはや冗談として片付けられなくなっている。
多くのエコノミストは、関税によってガソリンや食料品など、アメリカ国民の日常必需品の価格が上がると予測している。ただ、影響はカナダのほうが大きいとみている。この関税措置が何カ月か続けば、カナダは痛みの大きい経済不況に陥る可能性がある。
カナダでは怒りが高まっており、同時に、反撃を望む気運も高まっている。そうした欲求は、人口約4000万人のこの国の政治家らも口にしている。
ジャスティン・トルドー首相は1日夜の演説で、「私たちの多くがこれによる影響を受け、大変な時期を迎えるだろう。みんなが互いのためになることを願う」、「今こそカナダを選ぶ時だ」と述べた。
連帯示すカナダ国民
こうした連帯への呼びかけを、一部のカナダ人はすでに聞き入れている。ソーシャルメディアでは、アメリカ製品を回避する案内が出回っている。Xに投稿された写真によれば、トロントの食料品店は商品のヨーグルトにカナダ産との表示を始めた。
アメリカへの旅行のキャンセルや、訪米の見送りを宣言する人もいる。
カナダの作家セス・クライン氏は2日、ソーシャルメディアのブルースカイに、「昨日、トランプ関税への対応として、3月のアメリカ家族旅行をキャンセルした」、「列車のキャンセル代が少しかかったが、そうする必要があった」と書き込んだ。
カナダの州で人口が最も多いオンタリオ州では、アメリカで製造された酒類が2日から無期限に、商店の棚から撤去される。
このほかカナダは、1550億カナダドル(約16兆3400億円)相当の米製品に報復関税をかけるとしている。野菜、衣料品、スポーツ用品、香水などが対象。フロリダ州のオレンジジュースなど、共和党主導の州からの製品を特に狙っている。
アメリカは、カナダからの石油の輸入が世界で最も多い。トルドー政権は、さらなる報復のために「すべての選択肢を残してある」としている。
当惑と見えない今後
トランプ氏の高率関税の脅しは、何十年にもわたってアメリカと経済、社会、安全保障の面で緊密な関係を保ってきたカナダの人々を当惑させている。
トルドー首相は1日の演説で、なぜアメリカは世界の「もっと挑戦が求められる地域」に目を向けず、カナダを標的にするのかと疑問を呈した。
アメリカがこの関税をいつまで続け、カナダがトランプ政権をなだめるためにどんな措置を取ることができるのかも、大きな未知数として残っている。
トランプ氏は、非常に強力で致死性の高い合成麻薬フェンタニルが、カナダとメキシコからアメリカに流入していることが、関税措置の重要な理由の一つだと述べている。米当局は「危機が緩和されるまで」課税を継続するとしている。
これに対しカナダ政府は、同国からアメリカに流入するフェンタニルや違法国境通過者は、全体の1%にも満たないと指摘。アメリカとカナダの国境の安全確保に13億カナダドルを追加支出すると提案している。
トランプ氏は、カナダとの貿易におけるアメリカの赤字に対する不満や、関税がワシントンの財源になるという考えについても、公言している。
トランプ氏は2日、自らのソーシャルメディアのトゥルース・ソーシャルに、アメリカはカナダ製品を必要としていないと投稿。アメリカは「カナダへの補助として数千億ドルを支払っている」と書いた。
そして、「この巨額の補助金がなければ、カナダは存続可能な国ではなくなる」とし、カナダはアメリカの州になるべきだという主張を繰り返した。
(英語記事 Canadian fans boo US anthem as tariffs spur 'buy local' pledge)