
アレックス・フィリップス記者、ジョー・パイク政治調査担当編集委員
仏パリで17日、ウクライナでの戦争をめぐる緊急会談が開かれ、欧州各国の首脳が集まった。アメリカが18日にサウジアラビアでロシアと単独で和平交渉を開始することを受けたもの。イギリスのキア・スターマー首相は会談後、ロシアが再び隣国を攻撃するのを抑止するためにも、ウクライナの和平協定には「アメリカの後ろ盾」が必要だと述べた。
首相はさらに、恒久的な和平協定が成立した場合、イギリス軍をウクライナに派遣することを検討すると繰り返した。
しかし、「ロシアを効果的に抑止する唯一の方法は、アメリカがウクライナの安全保障を保証することだ」とスターマー氏は述べ、自分が来週ワシントンでドナルド・トランプ米大統領と会談する際に、和平協定の「重要な要素」について話し合うと約束した。
その上で、ロシアがもたらす「世代を超えた」安全保障の課題に直面する中、ヨーロッパは「もっと多くのことをしなければならない」とスターマー氏は述べた。
スターマー氏は、アメリカの「後ろ盾」が具体的に何を意味するのかの説明を避けた。欧州首脳らは、これには航空支援、物流、情報機関の協力が含まれる可能性があるとしている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ウクライナ政府は米ロの交渉について知らされていなかったと述べ、自国が関与しない合意を認めないと強調した。
アメリカの当局者は、ロシアとの和平交渉について欧州諸国に相談するものの、欧州が直接関与することにはならないと示唆している。
今月12日にはアメリカのピート・ヘグセス国防長官がブリュッセルで開催された会合「ウクライナ防衛コンタクトグループ」で、欧州は今後自国の安全保障を自分自身で保証する必要があると発言していた。
パリ会談後の記者会見でスターマー首相は、アメリカが「北大西洋条約機構(NATO)を離脱することはない」と述べつつも、「我々の安全保障、我々の大陸の責任を取る時が来た」とも強調した。
ポーランドのドナルド・トゥスク首相は、大西洋を越えた関係が「新しい段階」に入ったと述べ、パリ会談では「ヨーロッパがこれまでよりはるかに大きい防衛力を持つ時が来た」と各国が確認したと説明した。
スターマー首相は、イギリスからの部隊派遣は、ウクライナ支配地域とロシア支配地域の境界を監視する多国籍軍の一部となることを示唆している。
しかし専門家らは、これを効果的に行うには防衛費の大幅な増加が必要で、きわめて大きい取り組みになると指摘している。
英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のマルコム・チャーマーズ副所長は、状況の監視のみを目的とする国連平和維持軍と異なり、政府が提案する部隊がロシアの攻撃抑止を目的としているならば、「それは全く違う話になる」と述べた。
「それには信頼できる、十分に武装した部隊が必要で、前線部隊だけでなく、後方支援部隊や空軍その他も必要だ」、「求められるものがはるかに大きくなる」とチャーマーズ副所長は指摘した。
元NATO司令官のサー・エイドリアン・ブラッドショー将軍は、「象徴的な部隊では済まされない。悪い行動を観察して傍観する存在では済まされない」と述べた。
BBCラジオ4番組に出演した将軍は、その部隊は「NATOが域内で行っているように、実際に侵略を抑止する」必要があると指摘。そして、将来の紛争がウクライナに限定されないことを明確にする、「ロシア封じ込めのための大戦略」による裏打ちが必要だと話した。
「基本的に、この部隊は侵入を撃退できるだけの規模のものでなくてはならない」と、ブラッドショー将軍は述べた。
元イギリス陸軍総司令官のダナット卿は以前、こうした部隊には約10万人の兵士が必要で、イギリスはそのうちの約5分の2を提供する必要があると推定した。
ダナット卿は15日、「そのような人員はまったく確保できていない」と指摘。この役割に向けて軍を整えるにはかなりの費用がかかると付け加えた。
イギリスは現在、国内総生産(GDP)の約2.3%を防衛に費やしている。政府は防衛費を2.5%に引き上げることを約束しているが、いつ達成されるかは明言していない。
スターマー首相は以前、記者団に対し、戦略的防衛レビューが完了した後に2.5%の目標を達成するための道筋を示すと述べた。
「欧州の我々は能力と支出、資金調達の両方で、すべての同盟国が前より大きい役割を担う必要がある。これは、欧州の同盟諸国に私が伝えたことの一部だ」と、スターマー首相は明らかにした。
「それにはイギリスも含まれており、だからこそ私は、追加支出と約束した」
一部の欧州の指導者たちは、これに賛同している。
デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は、「ロシアが今やヨーロッパ全体を脅かしているため、ヨーロッパは防衛費とウクライナ支援を増やさなくてはならない」と述べた。また、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、防衛費の「急増」を求めた。
パリ会談には、イギリスと主催国のフランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダ、ポーランドの各首脳に加え、欧州理事会のアントニオ・コスタ議長、NATOのマルク・ルッテ事務総長が参加した。
会談に先立ち欧州の指導者たちは、ヘグセス米国防長官が、「ウクライナが2014年以前の国境に戻ることを期待するのは非現実的だ」と述べたことに懸念を示していた。2014年以前とは、ロシアがクリミア半島を併合し、2022年の全面侵攻でウクライナ南部と東部の一部を占領する前の状態を意味する。
ヘグセス氏はまた、ウクライナがNATOに加盟する可能性は低いとほのめかしたが、スターマー氏はウクライナのNATO加盟は「不可逆的な」道だと述べている。
元NATO司令官のブラッドショー将軍は、こうしたロシアへの譲歩の可能性に言及し、「ウクライナは主権国家であって、ウクライナを今回の戦争前の状態に戻せないならば、何としてでも持続的な平和を確保する必要がある」と述べた。
イギリス政府は17日に、スターマー首相の訪米を確認した。閣僚の一人は、イギリスがアメリカとヨーロッパの「橋渡し」としての役割を果たすことができると述べた。
BBCの取材で、首相がワシントン訪問後、欧州首脳のフォローアップ会議を主催することを提案したことが分かった。
ポーランドのトゥスク首相は、ウクライナに部隊を派遣しないものの、軍事的、財政的、人道的支援を続けると述べた。
一方、ドイツのオラフ・ショルツ首相はパリ会議後の記者会見で、現時点でウクライナに部隊を派遣することについて議論するのは「完全に時期尚早」で、この話題に「少しいら立っている」と述べた。
イギリスの政府関係者は、指導者間で意見の相違があるのは「驚くべきことではない」とし、すべての国がまだ自分の立場を明らかにする準備ができているわけではないと述べた。
イギリスの外交筋は、すべての国が部隊の派遣を約束する必要はないと考えているものの、一部の国はそうするだろうと見ている。そして、ヨーロッパの最終的な役割がどうであれ、アメリカの関与は依然として必要だと考えている。
RUSIのチャーマーズ副所長は、「停戦後にNATO軍がウクライナの地に多数駐留することはロシアにとって失敗を意味する。それだけに、現時点でロシアがそのような存在を受け入れるとは考えにくい」と述べた。
イギリス軍の派遣には議会の承認が必要となる。野党・自由民主党のサー・エド・デイビヴィー党首は「全会一致で賛成されるだろう」と自信を示した。
首相報道官は、議会には「適切に」相談するとしつつも、この件の議会手続きを現時点で取りざたするのは各国首脳との協議内容の「先を行ってしまっている」と指摘した。
一方、ウクライナでは週末も地上戦が続き、16日にはロシアの攻撃で少なくとも3人の民間人が死亡したと、地元当局が発表した。
ウクライナの複数の地域では、エネルギー・インフラへの攻撃のため緊急停電が発生している。また、ロシア国防省は16日夜、ウクライナのドローン(無人機)90機を迎撃・破壊したと発表した。
(英語記事 Starmer says US 'backstop' needed for Ukraine peace deal)