2025年3月20日(木)

BBC News

2025年2月18日

銃を手にした兵士

ウクライナでの戦争にとって今週は、その行方を決める1週間になりそうだ。

和平をめぐって、17日には欧州諸国がフランスで緊急会合を開いた。18日にはアメリカとロシアがサウジアラビアで協議する。

関係各国はそれぞれ何を望んでいるのか。特派員らが解説する。

イギリス

ハリー・ファーリー政治担当編集委員(ロンドン)

キア・スターマー首相は、欧州首脳らとドナルド・トランプ米大統領との間の架け橋になろうとしている。そしてトランプ氏は欧州を、防衛支出が不十分だとして非難している。

スターマー氏は、ウクライナにイギリス軍を派遣する考えを示している。首相が果たしたいと思っている役割の一部に、この英軍部隊の派遣が含まれる。

政府はこれまで、和平協定の条件はウクライナが決めるとしていた。しかし、同国の国境線を2014年当時に戻すのは「非現実的」だと、トランプ米政権が見解を示したことで、その考えを改めた。

スターマー氏は代わって、和平協定を確実なものにし、ロシアの再侵攻を防ぐために自国軍を派遣するという取り組みに、多くの欧州諸国の参加を取り付けたい考えだ。

スターマー氏がパリにいる間、英議会は防衛にどれだけの予算をかけるべきかの議論を続けている。

与党・労働党は防衛支出について、国内総生産(GDP)比で2.3%から2.5%に引き上げる「道筋を示す」と約束している。防衛関係者らによると、これは大幅な増額になるという。

ただ、実現の時期は示されていない。そして多くの人が、今や喫緊の急務だと訴えている。

ドイツ

デイミアン・マクギネス・ドイツ特派員(ベルリン)

総選挙を目前に、オラフ・ショルツ首相がパリに滞在している。これは、トランプ氏のウクライナ和平へのアプローチに対し、ドイツの指導者らがいかに動揺しているかを示すことだ。

すべての主要政党が、ウクライナや欧州連合(EU)抜きで和平協定を結ぼうとしているアメリカを非難している。極右やポピュリスト左派の政治家らは、プーチン氏との協議を歓迎し、ウクライナへの兵器供与をやめさせたい立場だが、そうした人たちがドイツで政権を握ることはないだろう。

つまり、ドイツの次期政権がどのようなものになるにしろ、同国のウクライナ支持は強固なままだ。ウクライナの主権を損なう悪い取引は、ドイツにとっても悲惨なものになると、政治エリート層が認識しているからだ。

ただし、有権者は軍事化を警戒している。念頭には、ドイツが戦争で荒れ果てた20世紀の歴史がある。

ドイツは過去3年間、ロシアのエネルギーからの脱却に成功するとともに、防衛支出を大幅に増やした。しかし、経済が大きな打撃を受け、予算案をめぐる対立によって政権は崩壊した。

そのため政治家らは、少なくとも総選挙が終わるまでは、北大西洋条約機構(NATO)への支出目標の引き上げや、ウクライナへの平和維持軍の派遣など、難しい問題を公に議論するのを避けようとしている。

ポーランド

サラ・レインズフォード東欧特派員(ワルシャワ)

ロシアがウクライナへの本格侵攻を始めて以来、ポーランドはウクライナの主要支援国として、ウクライナへの軍事・人道支援の重要な物流拠点であり続けた。

また、ロシアが自分で仕掛けた戦争に勝利することは許されないと、ポーランドは明確に主張している。欧州全体の安全がかかっているというのが、その理由だ。ポーランドがロシアを侵略者で危険だと見ている一方で、アメリカは協議が始まる前からロシアの主な要求に譲歩しているように見えるため、困惑が生じている。

ポーランドが自国の軍事費に多額の資金(現在はGDPのほぼ5%)を投入しているのは、ロシアの脅威があるからだ。他の欧州諸国も同レベルの軍事支出をすべきだという点で、アメリカと意見が一致している。

ドナルド・トゥスク首相はパリの会合に向かう途中、「もし私たち欧州人が今、防衛費に多額を出さず、より大規模な戦争を防げなければ、10倍もの支出を強いられることになるだろう」とソーシャルメディア「Xに書き込んだ。

停戦実施を目的にポーランド軍をウクライナに派遣することについては、政府関係者らは慎重な姿勢を見せており、現時点では否定している。

北欧とバルト3国

ニック・ビーク欧州特派員(デンマーク・コペンハーゲン)

デンマークは北欧から唯一、パリでの会合に参加した。欧州の外交官らによると、同国の東にあるバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の利益も代表している。それら3国は、ロシアと国境を接していることから、将来ロシアの攻撃を受けやすいと感じている。

トランプ政権2期目の衝撃は、すでにデンマークでも響いている。

同国自治領のグリーンランドを所有したいとトランプ氏が再び表明したことを受け、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は先月、欧州の同盟国を次々と訪れ、デンマークへの支持を取り付けることに努めた。

ウクライナに平和維持軍として自国軍を派遣することについては、フレドリクセン氏はまだ、スターマー氏と同じ姿勢を取ってはいない。

デンマークのメディアによると、同国のトールス・ルンド・ポウルセン国防相は、派遣の可能性は否定しないものの、それについて話すのは時期尚早だと述べたという。

フランス

アンドリュー・ハーディング・パリ特派員

エマニュエル・マクロン大統領が仰々しくない形の会合(これは「首脳会合」ではないと政府関係者らは強調した)を17日に招集したのは、欧州に対してますます無愛想になるアメリカと、急ピッチで進められる米ロ交渉で出てくるものの両方に対して、欧州が対応できるようにするためだった。

フランスのベテラン軍事専門家フランソワ・ハイスブール氏は、欧州が結束してウクライナのために平和維持軍を出す準備をする必要性について、「欧州は今、連携が取れていない。だが、それがパリでのサミットの意義であり、連携の始まりだ。(中略)準備はできているのか? 答えはノーだ。準備することはできるのか? 答えはイエスだ」と話した。

ジャン=ノエル・バロ外相は、「新型コロナウイルス(の大流行)以来みられなかった団結の風が、ヨーロッパ中に吹いている」と述べた。

アメリカの地政学的策略を常に警戒しているフランスでは今、特に神経質なムードが漂っている。新聞の見出しは、新たな「トランプ=プーチン枢軸」がウクライナでの戦争をめぐり、欧州を脇に追いやったり「見捨てたり」すると警告している。

ドミニク・ド・ヴィルパン元首相は最近の記者会見で、「欧州全体が非常事態であるべきだ」と警告。「傲慢(ごうまん)な」トランプ氏が「道理も敬意もなく世界を支配しようとしている」と非難した。

ロシア

リーザ・フォクト記者(BBCロシア語、パリ)

プーチン大統領は昨夏以降、戦争終結に向けた交渉を開始する主な条件として、ロシアが占領しているウクライナ領の承認、対ロシア制裁の解除、ウクライナによるNATO加盟申請の不承認――を挙げている。

欧州のほとんどの国は、これらの要求を断固として拒んでいる。アメリカは、ロシアがどのような譲歩を迫られる可能性があるのか話すことに非常に慎重だ。ホワイトハウスも米国防総省も、「双方」からの妥協を期待しているとしている。

ロシアが重視しているのは、明らかにサウジアラビアでの協議だ。ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は、「何よりもまず聞きたい」のは、ウクライナでの戦争の終結についてのアメリカの提案だと述べている。

ロシアは欧州については、交渉のテーブルに招く意味がないと考えている。

プーチン氏が長年にわたり、アメリカとの対話を求めてきたことは周知の事実だ。プーチン氏はアメリカを、ウクライナでの戦争を引き起こした当事国であり、ロシアと対等な唯一の大国だと考えている。

ロシアは、ウクライナに平和維持軍を派遣する用意があるというスターマー氏の発言に注目するかもしれない。この1週間で初めて、ウクライナではなくロシアの譲歩の可能性が、議論の的になった。

しかし、ロシアに妥協する用意があるのかは、はっきりしないままだ。

アメリカ

バーンド・デブスマン・ジュニア記者(フロリダ州マール・ア・ラーゴ)

リヤドでの交渉で表向きの米チームの顔となるのは、マルコ・ルビオ国務長官とスティーヴ・ウィトコフ中東特使だ。だが、交渉の席で実際にアメリカを代表するのは、1万1900キロメートル離れたフロリダ州パームビーチにいる人物だろう。

トランプ大統領はここ数日、公にいろいろ発言しているが、舞台裏では、ウクライナの運命をめぐるロシアとの交渉が彼の焦点になっているのは明らかだ。

トランプ氏は16日、最新の進展を把握しており、協議は「前進している」と記者団に話した。

彼の短期的な目標は、ウクライナで戦闘を止めることだ。長期的には、アメリカの関与を減らすことを望んでいるとみられる。アメリカはこれまで数百億ドル相当の兵器をウクライナに送っている。

トランプ氏はまた、支援の見返りや、すでに提供した支援の補償として、ウクライナの希少鉱物を手に入れたい意向を示している。

だが、戦後のウクライナがどのようなものになるかはまだ語っていない。欧州はそれを気にしている。

トランプ氏はさらに、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領について、「会話」の一部にはなるが、リヤドでの交渉には加わらないと述べている。ルビオ氏はサウジアラビアでの交渉を、欧州とウクライナを「当然」含む、長い取り組みの始まりに過ぎないとしている。

こうした発信は、ここ数日間のトランプ氏の発言を耳にしてきたアメリカの同盟国を安心させることには、ほとんどならないだろう。

トランプ氏は12日、BBCの質問に答えて、ウクライナの国境が2014年以前のものに戻ることは非現実的だとするピート・ヘグセス国防長官の評価に、同意するように思うと述べた。一方で、ウクライナが「いくらかの」土地を取り戻すかもしれないとの見方を示した。

今のところ、その解決策はゼレンスキー氏やウクライナの他の指導者らにとって、受け入れられるものではないようだ。

ウクライナ

マリアナ・マトヴェイチュク記者(BBCウクライナ語、キーウ)

ウクライナ国民は、自分たちの未来は2022年2月当時と同じくらい、不確かだと感じている。

ウクライナ人が欲しいのは平和だ。サイレンの音で目を覚ましたりしない、戦場や最前線の都市で愛する人を失ったりしない、そういう日々を望んでいる。

ロシアはウクライナ領土の25%近くを占領している。ウクライナは自国の防衛で、何万人もの国民の命を失ってきた。

ウクライナはこれまで、いかなる和平協定にも、ウクライナ領からのロシア軍完全撤退を盛り込むよう主張してきた。これには、ロシアが全面侵攻によって占領した地域だけでなく、2014年にロシアが併合した黒海のクリミア半島や、同じ年にロシアが分離独立派による戦闘を支援したドネツクとルハンスクの両州も含まれる。

ウクライナ人は、2014年や2015年のような和平合意を恐れている。激しい戦闘は止まったが、国境地域で砲撃の応酬は人命を奪い続けた。

安全が保証されない以上、10年ほどで新たな戦争が起こる可能性もある。

ゼレンスキー大統領は米ロ交渉について、「ウクライナ抜きのウクライナに関する協議は、何の結果ももたらさない。私たち抜きの私たちに関する合意は(中略)認められない」と述べている。

和平交渉がどのような形になるにせよ、ウクライナ人は自分たちの将来を自分たちで決めたいと望んでいる。

ウクライナでは大勢が、ロシアとのこれまでの和平交渉は、ロシアによる全面侵攻への道を開いただけだと考えている。そして、自分たちの頭越しに合意される協定が、戦争の第3ラウンドにつながるのではないかと恐れている。

(英語記事 What key players want from Ukraine war talks

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c5yeyy9819eo


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