
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は23日、ロシアによるウクライナへの全面侵攻から満3年を前に、平和のためなら大統領職を「手放す」と発言した。
ゼレンスキー大統領は記者会見で出た質問に対し、「和平実現のために本当に、私がこの地位を離れる必要があるなら、私にはその用意がある。そして、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟と自分の地位を交換することもできる」と述べた。
また、ドナルド・トランプ米大統領がゼレンスキー氏を「選挙を経ていない独裁者」と呼んだことについては、「私は(そのコメントに)侮辱されたとは感じなかったが、独裁者ならそう感じただろう」と答えた。
「自分は現在、ウクライナの安全保障に集中している。20年先まで残るつもりはない。何十年も政権を持ち続けるつもりはない」とも、大統領は述べた。
ゼレンスキー氏は2019年5月に民主的に選出され、昨年5月に任期を終えるはずだった。しかしウクライナでは、ロシアの全面侵攻を受けて戒厳令が出されたことで、選挙が実施されていない。
欧州連合(EU)など西側首脳は24日、ゼレンスキー氏と会談する。一部は実際にキーウを訪れ、一部はオンラインで協議に参加し、アメリカがウクライナの長期的な安全を保証しない状況で、どうやってウクライナの安全を確保するか話し合う。
協議には、スペインのペドロ・サンチェス首相、欧州理事会のアントニオ・コスタ議長、欧州委員会ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長なども出席する予定。
ゼレンスキー大統領は、この会議では、ウクライナのNATO加盟が「議題に上る」だろうが、議論がどのように「終わる」かはわからないと述べた。一方で、この会議が「転機」になることを望んでいると述べた。
また、トランプ氏については、アメリカの大統領をウクライナのパートナーとして見たいと発言。アメリカの大統領には、ウクライナとロシアの間の仲介者以上の存在であってほしいと話した。
「本当に仲介以上の存在になってほしい(中略)仲介だけでは不十分だ」
欧州の指導者たちは、この戦争を終わらせるためのロシアとの交渉で、ウクライナが脇に追いやられていることを懸念している。
トランプ政権が推進している、アメリカがウクライナの希少鉱物(レアメタル)にアクセスするための取引の可能性については、「進展している」と述べ、両国の当局者が連絡を取り合っていると付け加えた。
「分け合う用意がある」とゼレンスキー氏は述べたが、そのためにはまずアメリカが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に「この戦争を終わらせる」と確約させる必要があると明言した。
ウクライナ各地に最大規模のドローン攻撃
この日の記者会見の数時間前には、ウクライナ当局が、ロシアが現在の紛争中で最大規模のドローン(無人機)攻撃を行ったと発表した。
ウクライナ空軍司令部のユーリ・イグナット報道官は22日夜、ロシアが「記録的な」267機のドローンを一斉に、連携攻撃に使用したと述べた。
この攻撃では13地域が標的となった。多くのドローンが撃墜されたが、消防当局によると、撃退されなかったドローンはインフラを破壊したほか、少なくとも3人を死傷させた。
ウクライナ空軍は、138機のドローンを撃墜し、おとりドローン119機をジャミングによって無害化したという。
首都キーウでは、この攻撃により6時間の空襲警報が発令された。
ゼレンスキー大統領は声明で、ロシアがこの1週間でドローン1150機、爆弾1400発、ミサイル35発を投入・発射したと主張した。
大統領は22日夜の攻撃に対する消防当局の対応に感謝するとともに、ヨーロッパとアメリカの支援を求め、「持続的で公正な平和」を実現するための協力を呼びかけた。
ファースト・レディー(大統領夫人)のオレナ・ゼレンスカ氏はソーシャルメディア「X」に、「数百機のドローン」が一夜にして「死と破壊をもたらした」と投稿した。
「またしても爆発があり、家や車が燃え、インフラが破壊された夜だった」、「またしても人々が愛する人々の生存を祈った夜だった」とゼレンスカ氏は書いた。
侵攻開始から3年、欧米で分かれるビジョン
ウクライナでの戦争は、24日に4年目に突入する。
それに伴い、潜在的な和平合意をめぐる外交的な駆け引きが続いているが、ウクライナ、ヨーロッパの同盟国、アメリカは、紛争を終わらせるためにそれぞれ異なるビジョンを提示している。
アメリカとロシアは18日、サウジアラビアで予備的な会談を行ったが、ウクライナを含むヨーロッパの代表は出席しなかった。この結果、欧州首脳は前日の17日に急きょパリで首脳会談を開いた。
ゼレンスキー氏は、アメリカとロシアの会談からウクライナが除外されたことを批判し、トランプ氏がロシア政府が支配する「偽情報の空間に生きている」と述べた。これに対し、トランプ氏はゼレンスキー大統領を「独裁者」と呼んで反発した。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は24日に、イギリスのキア・スターマー首相は27日に、それぞれアメリカを訪問する予定。
スターマー首相は公にゼレンスキー大統領を支持し、ウクライナへの「揺るぎない支持」を約束した。また、トランプ氏と会談する際にはウクライナの主権の重要性について話し合うと、ゼレンスキー氏に伝えた。
呼吸器疾患で入院中のキリスト教カトリック教会のローマ教皇フランシスコは、23日に発表された声明で、戦争が3周年を迎えることは「人類全体にとって痛ましく恥ずべき出来事」だと述べた。
(英語記事 Zelensky willing to give up presidency in exchange for Nato membership )