2025年3月23日(日)

BBC News

2025年2月25日

プーチン氏とゼレンスキー氏

ジェレミー・ボウエン、BBC国際編集長

ウクライナの首都キーウはもはや3年前とは異なり、戦時下の街には見えない。店舗は開いているし、出勤中の人たちは交通渋滞に巻き込まれている。しかし、ドナルド・トランプ米大統領が今年2月12日にロシアのウラジーミル・プーチン大統領に電話をかけ、90分間にわたる政治的抱擁をホワイトハウスからクレムリンへ送ってからというもの、ウクライナにとって2022年以来となる国家消滅の悪夢が復活した。ウクライナの人たちはかつて、ジョー・バイデン前米大統領が兵器システムの提供を差し止め、ウクライナに到着した兵器の使用方法を制限したことに腹を立てていた。それでも、バイデン氏がどちらの側についているのか、ウクライナの人たちは承知していた。

それとは裏腹にトランプ氏は、プーチン大統領の考えをこだまするように、この戦争についての、誇張された事実に程遠い主張、そしてまったくのうそを次々と口にしてきた。その中には、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を、アメリカとロシアがウクライナの将来を決めるテーブルに着く資格のない独裁者として退けたこともある。トランプ氏が口にした最大のうそは、この戦争はウクライナが始めたものだという言い分だ。

本格的な協議がまだ始まりもしない内から、譲歩を提供する――。これがトランプ大統領の交渉戦略だ。国際法に違反して隣国を侵略し、甚大な被害と数十万人の死傷者を出した国に圧力をかける代わりに、トランプ大統領はウクライナに矛先を向けた。

トランプ氏は公式声明で、ウクライナはNATOに加盟しないと宣言し、ロシアが武力で奪取した領土の一部はロシアがそのまま保持することを認めるなど、ロシアに重要な譲歩を申し出た。プーチン大統領が力を尊重することは、過去の言動からも明らかだ。そしてプーチン氏は、譲歩を弱さの表れとみなす。

ロシア軍がすでに占領している以上のウクライナ領をプーチン氏は要求し続けており、その姿勢は不変だ。2022年の侵攻開始以来、アメリカとの間で初となる直接会談がサウジアラビアで行われたが、その直後にロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は、ウクライナの安全を保証するために北大西洋条約機構(NATO)の部隊がウクライナに入ることは許されないと繰り返した。

米ロの両方と交渉経験のある欧州のベテラン外交官は、白髪交じりで経験豊富なラヴロフ外相が、トランプ政権の新米国務長官マルコ・ルビオ氏と会った時、「(ラヴロフ氏は)ルビオ氏をまるで半熟卵のように食べたはずだ」と私に言った。

難しい日々

数日前のことだが、トランプ大統領がウクライナ大統領をますます侮辱し続ける最中、私は政府庁舎が並ぶキーウの厳戒態勢地区へ向かい、ゼレンスキー大統領の上級顧問で大統領府副長官のイーホル・ブルシロ氏を取材した。

ブルシロ副長官は、自分たちへのトランプ大統領の圧力がいかに大きいか認めた。

「とても、とても厳しい。とても困難で、難しい日々だ」とブルシロ氏は言った。「2022年の当時よ​​り今の方が楽だとは言えない。まるで、もう一度同じことを経験しているようだ」。

ブルシロ氏は、ウクライナ国民と大統領は2022年と同様、自分たちの独立を維持するために戦う覚悟だと話した。

「我々は主権国家だ。我々はヨーロッパの一部であって、これからもそうだ」

まるで前世紀の白黒画像

プーチン氏がウクライナへの全面侵攻を命じてから数週間の間、キーウ近郊で続く戦闘の音が、ほとんど無人の首都の道路に響き続けた。検問所やバリケード、土嚢(どのう)の壁、鉄骨を溶接して作られた戦車用の防護壁が、首都の広い大通りに急ぎ設置されていた。鉄道駅では5万人もの民間人が連日、ロシア軍から逃れて西に向かう列車に乗っていた。そのほとんどが、女性と子供だった。

駅のホームは満員だった。列車が到着するたびに、乗ろうとして押し合う人たちはもみくちゃになり、パニックが押し寄せた。凍てつく寒さの中、寒風と吹雪の中、3年前のこの光景は、まるで前世紀の欧州のようだった。21世紀の色彩が次第に薄れて、白黒の古いニュース映像と見分けがつかなくなる感覚があった。とっくに歴史の倉庫にしまい込んだと欧州の人々が安心していた光景が、再び出現したかのようだった。

バイデン氏によると、ゼレンスキー大統領は侵攻が差し迫っているというアメリカの警告を、「聞きたくなかった」のだという。プーチン氏の脅しはともかくとして、数万人の兵士と装甲車の車列を繰り出す本格的な軍事侵攻など、前時代のもののはずだと、ゼレンスキー氏はそう思っていたのだと。

しかしプーチン大統領は、強力で近代的なロシア軍が、強情で独立心の強い隣国とその反抗的な大統領をあっという間に打ち負かすはずだと信じていた。ウクライナに協力的な西側諸国も、ロシアがあっという間に勝つと考えていた。テレビでは退役将軍たちがニュース番組に出演し、西側諸国の政府がロシアに制裁を科して、できるだけうまくいきますようにと願っている間にも、ウクライナに小型武器を密輸して抵抗勢力を支援してはどうかなどと話していた。

ロシア軍がウクライナ国境に集結するなか、ドイツは攻撃兵器の代わりに防弾ヘルメット5000個をウクライナに届けた。キーウ市長でかつてボクシングのヘビー級世界チャンピオンだったヴィタリ・クリチコ氏は、ドイツの新聞に対し「まったく冗談のような話だ。ドイツは次にどんな支援を送ってくるんだ、枕か?」と不満をあらわにした。

ゼレンスキー氏は、亡命政府樹立のための首都離脱を勧める提案をいっさい拒否した。大統領らしいダークスーツを脱ぎ、軍服を身に着け、ウクライナ国民に共に戦うと動画やソーシャルメディアで訴え続けた

ウクライナはロシアによる首都侵攻を撃退した。ウクライナ軍が戦闘能力を実証すると、アメリカとヨーロッパは態度を変えた。ウクライナへの武器供給が増加した。

「プーチンは、戦争ではなくパレードの準備をしていた。それが失敗だった」。匿名を条件に取材に応じたウクライナ政府高官は、こう振り返った。

「彼は、ウクライナが応戦するとは思っていなかった。演説と花束で歓迎されると思っていたのだ」

2022年3月29日、ロシア軍はキーウから撤退した。そしてその数時間後、私たちは緊張しながら、キーウ近郊のイルピン、ブチャ、ホストメリの混乱と破壊の中を車で走った。ロシア軍が勝利してキーウに入るため使おうとしていた道路で、私は殺された民間人の遺体が複数、そのまま残されているのを見た。一部の遺体の周りには、黒焦げのタイヤが積み上げられていた。戦争犯罪の証拠を燃やして隠滅しようとしたものの、失敗した痕跡だった。

生き残った人たちは、ロシア占領軍がいかに残虐だったかを語った。一人の女性は、道路を渡っていた息子をロシア兵がもののついでのようにして射殺したのだと私に話した。そして、息子を自分一人で埋葬したのだと、その墓を見せてくれた。ロシア兵は彼女を家から追い出した。庭には、ロシア兵が略奪して飲んだウォッカ、ウイスキー、ジンの空き瓶が山積みになっていた。道路近くの森には、ロシア兵が慌てて放棄した野営地の跡があった。そこは、数週間の占領中に兵士たちが捨てたごみで埋め尽くされていた。

規律の取れたプロフェッショナルな軍隊は、自分たちが出した腐るごみの山の横で、食べたり眠ったりなどしない。

あれから3年がたち、戦争の様子は変わった。キーウは復興したが、今も夜間の空襲は続く。ロシアのミサイルやドローンの飛来を防空システムが察知し、夜間警報が鳴るのだ。

前線付近では、戦いはもっと身近で、もっと危険だ。ロシアに接する北部から東へ、そして黒海まで南へ、前線は1000キロ以上に及ぶ。

前線周辺には、破壊され、ほとんど無人となった町村が並ぶ。ウクライナの工業生産の中心地だった東部ドネツクとルハンスクでは、ロシア軍が人員と設備の両方で多大な犠牲を払いながら、じわじわとゆっくり前進している。

過去からのこだま

昨年8月、ウクライナはロシア領内に部隊を送り込んだ。国境の向こう側、ロシア南西部クルスク州の一部をウクライナ軍は占領した。

ウクライナの部隊は今もクルスクにいる。ゼレンスキー大統領が交渉材料に利用したい土地のために戦っている。

クルスク州に隣接するウクライナ北東部では、森が雪に覆われている。この土地では、トランプ氏が巻き起こした地政学的な嵐は、まだ遠くに響く不穏な地鳴りにすぎない。

しかし、もしアメリカ大統領がゼレンスキー大統領を辛らつに嘲笑するだけでなく、軍事援助や情報共有をついに停止し、(そしてウクライナにとってはさらに最悪な)ロシアに有利な平和協定を押し付けようとしてくるならば、その嵐はこの場所にも到達する。

しかし今のところ前線では、3年間の戦争で確立したリズムは続く。この土地の森では、血まみれの20世紀に戻ったかのような光景が続いているのだ。戦う男たちが音もなく木々の間を移動し、塹壕(ざんごう)に沿って、凍った大地に深く掘られた地下壕へと移動する。開かれた平地には、コンクリートと鉄で作られた対戦車防御壁が点在している。

乾燥した暖かい地下壕の中に入れば、外にいるよりも21世紀を実感できる。発電機とソーラーパネルが、外の世界とつながるノートパソコンやモニターに電力を供給し、ニュースフィードを受信しているのだ。

悪いニュースが届くからといって、兵士たちがそれに目を向けるとは限らない。

深い塹壕には、地元の製材所で作られた粗い厚板で作られた寝台が並ぶ。木枠には、武器や冬服を掛けるために釘が打ち込まれている。

その塹壕の中で、30歳の伍長エヴェンさんは、自分にはもっと差し迫って考えなくてはならないことがいろいろあるのだと話す。部下のこと。そして、10カ月前に入隊した際に残してきた妻と、幼い2人の子供のこと。

彼はクルスクの前線で、とても長いこと過ごしてきた。見た目も話し方も、百戦錬磨のベテラン兵士そのものだ。プーチン氏を支える北朝鮮の金正恩総書記に送り込まれてきた、北朝鮮兵とも対峙(たいじ)してきた

「朝鮮人は最後まで戦う。負傷しているのをこちらが助けにいったとしても、(北朝鮮兵は)こちらの兵をなるべく多く道連れにするため、自爆するかもしれない」

私たちが取材した兵士は全員、身の安全のため記事で使うのはファーストネームだけにしてほしいと言った。エヴェンさんは、アメリカ軍なしで戦い続けることについて、さほど気にしていない様子だった。

「援助は永遠に続くものではない。今日は援助があっても、明日にはなくなる」

ウクライナは自前の兵器を前よりたくさん作っているのだと、エヴァンさんは話した。それはその通りだ。特に攻撃用ドローンに関してはそれは事実だ。しかし、アメリカは今なお、ロシアに大損害を与えた高度な兵器システムを供給している。

つらい亀裂

3年前に武器を手にした志願兵の多くは、殺されたり、重傷を負ったり、あるいは疲れ果ててもう戦えなくなっている。

ウクライナを分断する最もつらい亀裂のひとつが、戦う者と、賄賂(わいろ)を払って兵役を逃れる者の間の断層だ。エヴェンさんは、そういう人間はいない方が自分たちにとっていいのだと話した。

「ここに来ていざという時に逃げ出して、我々に迷惑をかけるより、そういう人は最初から戦わないために金を払う方がいい。自分はあまり気にしない。そういう人間がここに来ても、ただ逃げだすだけだ(中略)脱走者だ」

戦争は余計な思考を奪い去る。クルスクでの戦いに戻る準備をしている兵にとって、何がかかっているのかは、はっきりしている。空挺攻撃部隊の中隊を指揮するミコラさんは、アメリカ軍から供給されたストライカー装甲車がいかに優れているか、思いを込めて話した。

「敵は核兵器保有国だ。その敵に対し、人口も少なく軍隊も小さい核を持たない国が侵攻し、領土を占領しても、ロシアにはほとんど何もできずにいる。そのことをクルスクが示した」

こう言うミコラさんはさらに、プーチン大統領の目的は明確だと話した。

「ウクライナ全土を掌握し、ウクライナの法的地位を変えさせて、大統領と政府を変える。それが(プーチン大統領の)やろうとしていることだ。我々の政治体制を破壊し、ウクライナを自分の属国にしたいのだ」

アメリカ人や他の人たちはプーチン氏を信用すべきか。私がそう尋ねると、ミコラさんは笑った。

「いいえ! プーチンが何度嘘をついたか数えようとしても、指が足りない。誰に対しても! ロシア人に対しても、私たちに対しても、そして西側のパートナーに対しても。彼は誰に対しても嘘をついてきた」

戦時下で大人になる

侵攻開始の数日後、私はキーウの兵士募集センターで志願するため並んでいた二人の若い学生、マキシム・ルツィクさんとドミトロ・キシレンコさんに出会った。二人は当時、それぞれ19歳と18歳だった。

二人は、自分の 父親と同じくらいの年代の男性や、自分と同じ10代の新兵たちと一緒に、登録するために並んでいた。その時の彼らはキャンプ用品を抱えていて、アサルトライフルを持っていなければ、まるで仲間と一緒に音楽フェスティバルに向かうようないでたちだった。

私は当時、「18歳や19歳の若者はいつだって戦争に行く。ヨーロッパではもうそんな時代は終わったと思っていた」と書いた。その数週間後、マクシムさんとドミトロさんは制服を着て、キーウの前線のすぐ後ろに設けられた検問所にいた。まだ学生らしさが抜けず、両親のことを冗談にして笑っていた。

二人ともキーウ攻防戦に参加した。戦場が東部に移ると、ドミトロさんは学生志願兵としての権利をもとに、軍を離れた。彼は必要となれば再び戦うために備え、国立軍事大学で将校になるための訓練を受けている。

マクシムさんは軍服を着たまま、東部の最前線で2年以上勤務した。今では将校となって、軍事情報部で働いている。

私は二人と連絡を取り続けている。この国の何百万人もの若者たちと同じように、大人になった二人の人生は戦争によって予想外の形で作られてきた。トランプ氏がロシアに歩み寄ったことで、二人はまた一からやり直しに近い事態だと感じている。

「この国は動員した。資源と国民を動員した。今一度、それを繰り返す時だと思う」と、ドミトロさんは言う。

過去との共通点

クルスクの国境の森にいる兵士たちとは違い、マクシムさんとドミトロさんはニュースを追っている。14日のミュンヘン安全保障会議、トランプ政権による外交的にも戦略的にも爆弾のような動きの数々から、二人はイギリスのネヴィル・チェンバレン首相が1938年にミュンヘンで行った悪名高い取引を連想している。

チェンバレン首相とナチス・ドイツとの取引を経て、チェコスロヴァキアはアドルフ・ヒトラーの要求に屈服せざるを得なくなった。

「似ている」とマクシムさんは言う。「西側は侵略者に領土占領の機会を与えている。西側は侵略者と取引をしている。かつてのイギリスが、今ではアメリカだ」。

「ウクライナだけでなく、世界全体にとって非常に危険な瞬間だ」とマクシムさんは続けた。「欧州が次第に目を覚まし始めているのはわかる(中略)でも戦争に備えたかったのなら、数年前から準備を始めておくべきだった」 。

これから先に待ち受ける危険について、ドミトロさんも同意見だった。

「ドナルド・トランプは新たなネヴィル・チェンバレンのような存在になりたいのだと思う(中略)トランプ氏はウィンストン・チャーチルのような人物になることを、もっと重視するべきだ」

トランプ効果

トランプ氏は、リアリティー番組や大統領選に出る前は、不動産開発業者だった。そして、トランプ氏のような不動産開発業者にとって、解体は金になる。不動産を手に入れ、取り壊し、再建して勝つのだ。ただし、この戦略を外交でやろうとすると、問題が生じる。主権と独立には、値段がつけられないからだ。

トランプ氏は、自分はアメリカ第一主義だと自慢するが、アメリカ人以外も、自分の国について同じ気持ちを持つことがあるのだとは、認めようとしない。

トランプ氏は、アメリカ大統領として2度目の就任宣誓をして以来、解体工事をひっきりなしに続けている。盗まれた、あるいは無駄遣いされたと自分が主張する何十億ドルもの資金を取り戻すために、イーロン・マスク氏を連邦政府機関の庁舎に送り込んだ。「解体屋トランプ」は国外では、欧州の民主国家とアメリカとの間に80年間続いた同盟関係の、その根底を支える前提を破壊し始めた。

トランプ氏のやることは予測不可能だが、今やっていることの多くは何年も前から口にしてきたことだ。ヨーロッパの同盟諸国がアメリカの防衛予算に頼って自分たちは予算を節約していることに、アメリカ大統領が憤慨するのは、トランプ氏が最初ではない。トランプ政権のピート・ヘグセス国防長官がNATO加盟国に向けて放った「誰かがアメリカをカモにするなど、トランプ大統領は許さない」という言葉は、ドワイト・D・アイゼンハワー大統領をあえて想起させるものだった。

1959年11月4日のアメリカ公文書には、アイゼンハワー大統領のいらだちが記録されている。そこにはこう書かれている。「大統領はこの5年間、ヨーロッパ諸国に現実を見せるよう国務省に促してきた。ヨーロッパ諸国は『アメリカをカモにする』寸前だと大統領は考えている」。

トランプ氏は報酬を求めている。ウクライナに5000億ドル相当の鉱物資源権を要求した。ゼレンスキー氏は、国を売ることはできないとして、その取引を断った。ゼレンスキー氏は、どのような譲歩をするにしても、それはウクライナの安全保障に対する保証と引き換えだとしている。

ヨーロッパの政治家や外交官は内々には、自分たちはバイデン氏と一緒にウクライナがロシアに負けないための軍事的・財政的支援を与えたものの、勝てるほどのものは決して与えなかったと認めている。

これまでと同じように続けるべきだという主張は、ロシアが制裁で弱体化し、将官らが兵士の命を浪費して人員が枯渇すれば、最終的に消耗戦で負けるだろうという理屈によるものだ。実際にそうなるのかは、とても確実とは言えない。

戦争は通常、合意で終わる。1945年のドイツ無条件降伏は稀(まれ)な例だった。トランプ氏については、彼には本物の計画がないという不満がよく言われる。本物の計画がないので、敬愛するプーチン氏に近づくため、直感に従ったのだという批判がよく言われる。

最強の国々の強い指導者たちは世界を望むままに変えられるのだと、トランプ氏はそう信じているようだ。トランプ氏がすでにプーチン氏に提示した譲歩案からは、彼にとっての最優先事項はロシアとの関係正常化だということが、あらためて強くうかがえる。

プーチン氏との対決

もっと実現可能性を重視したなら、プーチン大統領の地政学的な戦略思想に深く根付いた考えを捨てさせることを重視し、そのための手段を含めた計画を練るべきだった。

プーチン氏の戦略思想のDNAにしみついている考えの中でも、特に強固なのが、ウクライナの主権を壊し、ウクライナの支配権をクレムリン(ロシア大統領府)に戻すべきだというものだ。ソヴィエト連邦でそうだったように。そしてその前の、帝政ロシア時代を通じてそうだったように。

どうすればそれが実現するのか、想像するのは難しい。ウクライナが自分たちの独立をロシアに明け渡すという展開と同じくらい、あり得ない発想だ。

ヨーロッパの安全保障は、ウクライナ戦争によってひっくり返されつつある。今月のさまざまな出来事に、欧州首脳たちがひどく動揺しているのも無理もないことだ。

22歳にして歴戦の兵士になったマクシム・ルツィクさんを巻き込んだ、予想外の戦争の世界に、自分たちの国の若者も巻き込まれないようにする。それが、欧州諸国の首脳たちに与えられた課題だ。

「みんな変わったし、僕も変わった。この3年間でウクライナ人は全員、成長したと思う。軍に入隊した人、長い間戦ってきた人は全員、劇的に変わった」。マクシムさんは私にそう話した。

(英語記事 Three years on, Ukraine's extinction nightmare has returned

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/clyz2k3qnn1o


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