
ナダ・タウフィク国連担当記者(ニューヨーク)
米ニューヨークの国連本部で24日、リスクの大きな外交が展開された。国際舞台に舞い戻ったドナルド・トランプ米大統領がアメリカの外交政策を大転換して以降、欧米の同盟関係に生じた亀裂がますます深まっていることを露呈する、劇的な一日となった。
3年前にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した時、欧州にとって、アメリカほど強力なパートナーはほかに存在しなかった。
しかし今週、アメリカは国連総会(193カ国)と国連安全保障理事会の会合で、最も親密な同盟諸国の立場に逆らい、ウクライナでの紛争をめぐる決議を成立させるためにロシアやベラルーシ、北朝鮮の側についた。
ロシアのウクライナ侵攻から満3年となるのに合わせ、ウクライナは自国の領土保全の再確認と、国連憲章に沿ってロシア軍の撤退を要求することを加盟193カ国に義務付ける象徴的な決議の、総会での採択を求めた。
欧州側が提出したこの決議は24日、確かに採択された。ただ、ここ数年で最も賛成票が少なかった。アメリカによって引き起こされた複雑な緊張を回避するために、多くの加盟国が棄権したためだ。
アメリカの外交官たちは他国に対し、欧州案に反対し、代わりにアメリカが提出した「未来を見据えた決議案」を支持するよう求めた。わずか3段落の短いアメリカ案は中立的な立場を取ったもので、ロシア非難は含まれない。迅速な戦闘終結と永続的な平和を求めている。
米政府は、加盟各国が平等に1票の投票権を持つ国連総会だけでなく、より大きな権限を有する国連安保理でも、独自案を提出した。安保理決議には法的拘束力があるが、時には履行が難しいこともある。また、常任理事国のロシアが拒否権を発動するため、安保理がウクライナに関して行動を起こせたことは一度もなかった。
「欧州の立場を考慮しない、弱い者いじめ」
今回のアメリカの動きは、欧州を驚かせた。欧州の外交官の1人は、アメリカの行動はまるで弱い者いじめで、欧州大陸をめぐる欧州側の立場を考慮したものではないと、BBCに語った。
安保理会合に出席したスロヴェニアのサミュエル・ズボガル国連大使はBBCに対し、欧州はアメリカが立場を180度変化させ、迅速な動きを見せていることに適応するのに苦慮していると述べた。
そして、欧州連合(EU)は来週の理事会で何らかの検討を行う必要があるとした。
「指導者たちは、他国の行動に反応するのではなく、EUが平和を実現するために積極的に関与するにはどうすればいいのか、計画を立てなければならない。前に進み出て取り組むかどうかは今、私たち欧州にかかっている」と、ズボガル氏はBBCに語った。
欧州各国の指導者が、アメリカの最新の立ち場と折り合いをつけようと努力する中、
ニューヨークの国連本部ではさまざまな反応が見られた。
イギリスのバーバラ・ウッドワード国連大使とフランスのニコラ・ド・リヴィエール国連大使は、安保理のメンバーが決議案の内容を検討し交渉するにはもっと時間が必要だとし、採決の延期を求めた。
興味深い場面もあった。中国は議論にさらに時間を割くことに前向きだった。また、通常は安保理で検討される問題をめぐって対立するアメリカとロシアが、そろって採決の延期に反対した。
ウクライナめぐる決議案「初採択」も、欧州は困惑
アメリカ案の内容は、先に提出された国連総会では、「ウクライナを支持する」との内容が追加されたうえで採択された。アメリカは採決で棄権した。
欧州各国は、安保理でも同様の修正を加えようとした。
しかし、ロシアを侵略者と名指しし、ウクライナの国境を再確認し、公正な平和を求めるという修正案の採択を阻止すると、アメリカは警告。米政府が実現しようとしているものを損ない、紛争終結ではなく言葉の戦争を追及するものだと主張した。
結局、ロシアが修正案に反対したため、アメリカが拒否権を行使する必要はなかった。
その後、修正されていないアメリカの中立的な決議案は、10カ国の賛成多数で採択された。イギリス、フランス、デンマーク、ギリシャ、スロヴェニアは棄権した。ウクライナ侵攻開始以来、安保理がウクライナの戦闘終結を求める決議を採択したのは初めて。常任理事国ロシアの拒否権発動による3年間の停滞が打開された。
数カ月前までは、ウクライナでの戦争をめぐって最初に採択される決議が、このような限定的な文言を含むものになるとは、そしてそれをアメリカが提出し、ロシアが容認し、欧州の五つの理事国が全面的に支持することなく採択されるとは、考えられなかっただろう。
アメリカはこの進展を歓迎するとともに、戦争終結を呼びかける国連安保理が初めて行動を取ったと称賛した。ほかの国々はというと、それほど喜んではいない様子だった。
シンクタンク「国際危機グループ」の国連担当リチャード・ゴーワン氏は、ロシアとアメリカの敵意が深まった国連での3年間を経て、二つの大国が連携し、欧州を困惑させている光景は実に衝撃的だと語った。
誰もが、トランプ大統領が国連で破壊的な行動を取るであろうと予想してはいたが、今回の事態はほぼ全員の想像を超えていると、ゴーワン氏は述べた。
「欧州とウクライナによる決議案に対するアメリカのロビー活動は非常に粗野なものだった。アメリカの当局者が、従わない国への援助を打ち切ると脅していたと報じられている。これは多くの国連加盟国に嫌な印象を残した」
(英語記事 How a dramatic day at the UN deepened cracks between Europe and US)