
アメリカのドナルド・トランプ大統領は27日、翌日にホワイトハウスを訪問予定のウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領について、「大いに尊敬している」と述べた。
トランプ氏が最近、ゼレンスキー氏を「独裁者」と呼んだことを謝罪するつもりはあるのかと、BBCの記者が尋ねると、自分がそんなことを言ったとは思えないと、トランプ氏は答えた。そして、ゼレンスキー氏は「とても勇敢だ」とも述べた。
今月19日、トランプ氏はゼレンスキー氏を「独裁者」と非難した。サウジアラビアで開かれたアメリカとロシアの和平交渉の場から除外されたゼレンスキー氏が、トランプ氏はロシアが支配する「偽の情報空間」に生きていると発言したことに反発したものだった。
トランプ氏はこの日、ホワイトハウスでイギリスのキア・スターマー首相と会談。ウクライナでの戦争終結などについて協議。その後に、ゼレンスキー氏への称賛を口にした。
大統領は、28日にはゼレンスキー氏と「非常にいい会談」が出来ると思うとし、平和実現に向けた努力は「かなり急速に進んでいる」と述べた。
アメリカは18日、サウジアラビア・リヤドでロシアとの対面でのハイレベル協議を行い、西側諸国に衝撃を与えた。ロシアが2022年2月にウクライナ全面侵攻を開始してから初めての、米ロ直接協議だった。
今週に入ってからは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領やスターマー英首相がホワイトハウスを訪れている。
トランプ氏はこのところ、戦争が始まった責任がゼレンスキー氏にあるかのような発言をし、同氏が和平交渉をもっと早い段階に始めなかったことを非難していた。
18日には、ウクライナは交渉の場に自分たちの席がないことに「気分を害している」ようだが、「この3年間、そしてそれよりもずっと前から席はあった。(戦争は)かなり簡単に解決できていたはずだ」、「そもそも(戦争を)始めるべきではなかった。取引できたはずだ」などと述べた。
しかし、27日のスターマー英首相との会談後、ゼレンスキー氏との会談について記者団から質問されると、トランプ氏はこう答えた。「明日の朝、我々はとてもいい会談ができると思う。我々は非常にうまくやっていけるはずだ」。
BBCのクリス・メイソン政治編集長が、ゼレンスキー氏のことをまだ「独裁者」だと思っているのか尋ねると、トランプ氏は、「自分がそんなことを言った? 自分がそんなことを言ったとは信じられない。次の質問」と答えた。
ウクライナの安全の保証は
ゼレンスキー氏は、和平協定の下支えとなる自国の長期的安全の保証を勝ち取りたいと考えている。
このことについて尋ねられたトランプ氏は、自分は「いろいろなことに前向き」だとしか答えなかった。ただ、和平協定を履行するためにどのような措置を講じるのかについては、ロシアとウクライナの双方が協定に合意してから決めたいとした。
ゼレンスキー氏は28日の会談で、ウクライナの鉱物資源の共同開発に関する協定に署名するとみられている。
トランプ氏は、ウクライナで鉱物を採掘するアメリカ人関係者の存在は、ロシアによる将来的な攻撃への抑止力にになると示唆した。
「バックストップ(後ろ盾)と言えるだろう」
「我々が多くの労働者と一緒に(ウクライナに)いて、レアアースや、アメリカに必要なことに関わっていれば、ふざけたことをする者はいないと思う」
スターマー英首相は以前、イギリスは戦後のウクライナに、平和維持軍の一員として部隊を派遣する用意があると述べている。ただし、北大西洋条約機構(NATO)の主要加盟国のアメリカが「バックストップ」を提供することが条件だとしている。
イギリスの平和維持軍がロシアの攻撃を受けた場合、アメリカは支援するのかと問われると、「イギリスには素晴らしい兵士、素晴らしい軍隊がある。(イギリスは)自分のことは自分でできる。しかし、もし助けを必要とするなら、私はいつもイギリスと共にある」と、トランプ氏は答えた。
NATOの北大西洋条約第5条では、加盟国への武力攻撃は全加盟国への攻撃と見なし、防衛に協力すると定めている。
スターマー氏は、トランプ氏のウクライナに「平和をもたらすという個人的なコミットメント」を称賛するとともに、イギリスには「(和平)協定を支援するために、地上に部隊を、上空に航空機を置く用意がある」と述べた。
「我々は今、ウクライナでの野蛮な戦争を終わらせることに注力している」
一方で、「侵略者が利益を得たり、イランのような政権を勢いづけるような」和平協定であってはならないと付け加えた。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は信頼に足る人物だと思うかとの質問には、ロシア大統領に対する自分の見解はよく知られていることだと、スターマー氏は述べた。
トランプ氏はプーチン氏を信頼しているようだが、スターマー氏はそうではないようだと記者が指摘すると、トランプ氏は「『あの人は絶対に自分を裏切らない』と思われている相手が、実は世界最悪の人間だという例を、自分は大勢知っている。逆に、『あの人は絶対に自分を裏切る』と思うような相手が、実は完全に高潔だったりする。なので、こういうことは絶対にわからないものなんだ」と話した。
欧州連合(EU)のカヤ・カラス外務・安全保障政策上級代表は26日、プーチン氏とロシアは「平和を望んでいない」とBBCニュースに述べ、「どのような和平合意でも、それを機能させるには、ウクライナだけでなくヨーロッパの人間の関与も必要だ」と強調していた。
カラス氏は同日、ワシントンでマルコ・ルビオ米国務長官と会談する予定だったが、急きょ中止された。欧米双方とも、スケジュールの都合によると説明している。
ゼレンスキー氏はアイルランド首相と会談、ロシアは譲歩しないと警告
訪米に先立ち、ゼレンスキー氏は27日にアイルランドに立ち寄り、シャノン空港でミホル・マーティン首相と会談した。
ゼレンスキー氏は会談後、「我々は、ウクライナと欧州全体の平和が保証されたかたちで戦争を終結させるための手順について協議した」と語った。
ウクライナでは2014年、親ロシア派の大統領が退陣に追い込まれた。それを受けてロシアは、黒海のクリミア半島を併合。さらにウクライナ東部で、親ロシア派の分離主義者を支援した。
2022年2月、ロシアはウクライナに侵攻し、全面戦争に突入した。兵士を中心に数十万人が死傷し、数百人のウクライナ人が難民として逃れたと推定されている。
ロシアは現在、クリミアのほか、東部ドネツク、ルハンスク、南部ザポリッジャ、ヘルソンの4州の一部を占領している。
クレムリン(ロシア大統領府)は27日、ロシアは和平協定の一環として、ウクライナに領土を渡すつもりはないと警告した。
「ロシア連邦のものとなったすべての領土は(中略)わが国ロシアの不可分の領土の一部だ」と、クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は記者団に述べた。「これは完全に議論の余地のない事実で、かつ交渉の余地のない事実だ」。
こうした中、ロシアとアメリカの政府関係者はこの日、トルコ・イスタンブールで、外交関係の再構築について協議した。
核保有大国のアメリカとロシアは、ジョー・バイデン前米政権時代、互いの外交官らを追放していた。