2025年3月23日(日)

BBC News

2025年3月1日

外交的な会談のはずが世界の報道陣の目前で、両大統領は激しく口論するに至った(2月28日、ホワイトハウス)

アメリカのドナルド・トランプ大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が28日、ホワイトハウスで対面した。大統領執務室で記者団を前にした両首脳と政権関係者らは、外交姿勢などをめぐって激しく口論する事態になった。

トランプ氏はゼレンスキー氏に「感謝する」よう注文し、「第3次世界大戦を起こしかねない」と非難。ゼレンスキー氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領への「譲歩」はあってはならないと強調したものの、トランプ氏はロシアと合意するにはウクライナ政府が譲る必要があると告げた。

予定されていた共同記者会見と、鉱物資源の権益をめぐる合意文書への署名式は中止になり、トランプ政権はゼレンスキー氏 にホワイトハウスを立ち去るよう告げた。

大統領執務室で、口論に至ったやりとりを見ていたBBC記者たちが報告する。

ミロスラヴァ・ペツァ、ダニエル・ウィッテンバーグ

この日は、ホワイトハウスが外国要人を迎える際の通常の丁寧な応対で始まった。

トランプ大統領はゼレンスキー大統領をホワイトハウス西棟の入り口で迎え、儀仗兵に見守られる中で、両首脳は丁寧に握手を交わした。

私たちはウクライナ記者団の一員として大統領執務室に入り、念入りに準備された外交儀礼と約30分間の礼儀正しい話し合いを目にしていた。

ゼレンスキー大統領はトランプ大統領にウクライナのボクサー、オレクサンドル・ウシク選手のチャンピオンベルトを贈呈した。

トランプ大統領はゼレンスキー大統領の服装をほめた。

ここまでは外交的だった。

しかし数分後、控えめに言っても前例のない事態が勃発した。和やかな雰囲気は、辛辣(しんらつ)な対立に代わり、室内は混乱に陥った。大勢が声を荒げ、状況にあきれ果て、中傷が飛び交った。そのすべてが世界中のテレビカメラの前で行われた。

アメリカの大統領と副大統領は、自国を訪れているゼレンスキー大統領を叱責し、ウクライナの戦争努力を支えてきたアメリカの支援にゼレンスキー大統領が十分に感謝していないと非難した。

J・D・ヴァンス米副大統領がゼレンスキー大統領に対し、戦争は外交を通じて終わらせなければならないと告げたことで、緊張が一気に高まった。

一体どんな外交を、とゼレンスキー氏は答えた。

ヴァンス氏はウクライナ大統領の発言をさえぎり、訪米中の大統領に対し、大統領執務室に来てアメリカのマスコミを前に自説を展開するのは「無礼」だと非難。トランプ大統領の指導力に感謝するよう要求した。

この室内にいた記者団は、その後の異例のやり取りに、息をのんだ。口をあんぐり開けたままの人たちもいた。

「君はもうたくさん話した。君が勝つことはない」と、トランプ氏がゼレンスキー氏にある時点で告げた。「感謝しなくてはならない。君には切り札がない」と。

これに対してゼレンスキー氏は、「私は(カードゲームの)トランプをやっているのではありません」と答えた。「私は大まじめです、大統領。私は戦時下の大統領なのですから」。

「君は、第3次世界大戦につながる事態でギャンブルしている」とトランプ氏は反論した。「君のしていることは国に、この国に失礼だ。今までしてきたほど君たちを支援するべきではないという人も大勢いた中で、大いに君たちを支援してきたこの国に対して」とも非難した。

ヴァンス副大統領は「この会議中で君は一度でも『ありがとう』と言ったか?  言っていない」と重ねて非難した。

ウクライナの駐米大使はこの様子を、頭を抱えながら見守っていた。

雰囲気は完全に変わった。しかも公開の場で。

アメリカ人の記者たちは、このような光景は見たことがないと話した。「ホワイトハウスでこのような光景が起きるなんて、あり得ないはずだった」と言う記者もいた。

大統領執務室から退出する記者団の多くが、ショック状態で呆然(ぼうぜん)としていた。ホワイトハウス内の記者会見室ではその直後、執務室での様子が上映され、執務室にいなかった他の報道関係者が信じられないという面持ちで凝視していた。

混乱が続いた。予定されていた記者会見は行われるのか、あるいは鉱物資源をめぐるアメリカとウクライナ間の待望の合意は、そもそも締結されるのか。疑問が相次いだ。

この 数分後にトランプ氏は自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に、ゼレンスキー氏に「和平の用意ができたら(彼は)戻ってくる」こともあり得ると書いた。

ホワイトハウスの東の間で予定されていた記者会見と鉱物資源に関する協定調印式は、正式に中止された。

ゼレンスキー大統領は間もなくホワイトハウスの外に出て、待機していたSUVに乗り込んだ。駐米大使も後に続いた。

異例の瞬間が何事だったのか、世界がようやく理解し始めた頃、ゼレンスキー氏たちはホワイトハウスから離れていた。

大々的な口論だったが、それでもいずれ鉱物取引は実現するのかもしれない。

しかし、ゼレンスキー大統領の今回の訪問が、それとはまったく別の理由で記憶されるのは確かだ。

アメリカとウクライナの交渉がどう展開しているか、世界は直接目撃した。厳しく感情的で、緊迫した交渉なのだ。

双方にとって厳しい交渉だったのは明らかだった。

ウクライナのボクサー、オレクサンドル・ウシクのベルトをプレゼントにしたところで、もちろん状況は改善しなかった。

ホワイトハウスでのこの一幕を経て、これがウクライナ戦争、そしてゼレンスキー氏自身の将来にとって何を意味するのかが、今の本当の問題だ。

(英語記事 What it was like in the room during Oval Office shouting match

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cy9dvl3w570o


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