
ジェイムズ・ウォーターハウス(キーウ)
果たしてウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が待ち伏せ攻撃を受けたのか、あるいはホワイトハウスの大統領執務室でもっと外交的であるべきだったのか。いずれにしても、今回の訪米はウクライナにとって悲惨なものだった。
その様子をキーウで見守っていた人たちにとっては、自分たちの国の将来がのるかそるかのぎりぎりの状態にある事態だ。
「感情的なやりとりだった。でも、私は大統領の言うことを理解している」。黄金ドームが特徴的なキーウの聖ソフィア大聖堂の隣で、ユリアさんは私にそう話した。
「外交的ではなかったかもしれない。でも、誠実だった。生きるかどうかの話なので。私たちは生きたいんです」
ユリアさんの意見は、ウクライナ政治によくある流れを反映するものだ。つまり、国が攻撃されればされるほど、国民の結束は強まるのだ。
ロシアによる全面侵攻が2022年2月に始まる前、国民の間のゼレンスキー大統領の支持率は37%だった。侵攻開始を機に、それは90%に急上昇した。
トランプ氏が2025年初めに大統領に復帰する前、ゼレンスキー氏の支持率は52%だった。戦争を始めたのはウクライナだとトランプ氏が非難すると、ゼレンスキー氏の支持率は65%に達した。
「(トランプ氏とJ・D・ヴァンス氏は)すごく失礼だった」と、30歳のアンドリーさんは言う。「ウクライナ国民を尊重していない」。
「ワシントンはロシアを支援しているみたいだ!」と、26歳のドミトロさんは言う。
この24時間でゼレンスキー大統領の支持率がどう変わったか、つい考えてしまう。
「状況が悪くなれば、私たちはまた国旗の下で結集する」。一部の世論調査を実施したキーウ国際社会学研究所のウォロディミル・パニオット所長はこう説明する。
世界の指導者の人気は往々にして、時と共に衰えるものだ。ゼレンスキー大統領もしかりだと、パニオット所長は言う。
大統領の支持率は、ウクライナの反攻が失敗した2023年と、その翌年に国民の間で人気のヴァレリー・ザルジニー総司令官を解任した際に、とりわけ大きく下落した。
しかし、トランプ大統領がウクライナに対してあらためて取引優先で、しばしば敵対的な姿勢を取り続けているため、国民は結束するしかなくなった。ウクライナの人たちは今、結束して、今後も続く不確実な将来に備えるしかないのだ。
トランプ氏がロシアに接近しているのも、もちろんウクライナ国民が結束せざるを得ない不安材料だ。
「攻撃された罰を受けている」
「まずはショックを受けた」。ウクライナの野党議員、インナ・ソヴスン氏はこう言う。
「大統領はロシアによる侵略の被害者だ。その大統領が、自由世界のリーダーから攻撃されるのを見るのは辛かった」と、議員は付け足した。「辛いことだ」。
ウクライナのテレビ局は昨日の出来事を、それよりも冷静に伝えた。つまり、ウクライナとアメリカの間の鉱物資源協定は締結されなかったとだけ。
ウクライナと欧州諸国が切実に望むウクライナの安全の保証をアメリカが提供しなかったため、一時言われたほど、ゼレンスキー氏にとって魅力的な協定ではなかったのかもしれない。
「私たちは、もっと強力な協力相手が必要だ。ヨーロッパ、カナダ、オーストラリア、日本はこれまでも、ずっと私たちを支えてくれた」と、ソヴスン議員は言う。
アメリカ政府とウクライナ政府には明らかに、お互いへの深い不満と不快感がある。しかしソヴスン議員は、ウクライナは交渉を諦めるのではなく、むしろ議論の枠組みを再構築すべきだと考えている。
「適切な仲介者を見つけることが大事だ」と議員は言う。「トランプ氏が認められる人で、それと同時に私たちも信頼できる人。たとえば、イタリアのジョルジャ・メローニ首相のような」。
「どんなことになっても、(ゼレンスキー)大統領の辞任を求める声に賛同してはならない。私は野党議員としてそう言っている。それは民主主義の理念そのものに反する」
ゼレンスキー大統領は、ワシントン訪問を通じてアメリカとの協力関係を深めれば、それを通じていずれは持続的な平和が実現できると望んでいた。持続的な平和を誰より望んでいるのはウクライナ人だと、ソヴスン議員は言う。
「苦しんでいるのは私たちだ。このストレスの中で生き続けるのは、とても大変だ」と議員は話す。「友人の息子が殺されたと、今朝読んだばかりだ。この戦争で友人はこれで、息子を2人失ってしまった」。
その一方で国会議員や無数のウクライナ国民は、性急な取り決めを決して望んでいない。2014年と2015年にロシアとの停戦が試みられたものの、それは結局、ロシア政府に数年後の全面侵攻に備える猶予を与えた。
「大変なのは承知していたが、これほど大変だとは」
ウクライナのイヴァンナ・クリムプシュ=ツィンツァゼ議員は、トランプ大統領の2期目はウクライナの大義にあまり同情しないだろうとは予想していた。しかし、これほどだとは思っていなかった。
「この鉱物協定は、アメリカに軍事援助を義務付けたり、現在の支援拡大や継続を義務づけていない」と議員は言う。
ウクライナ 議会は今なおゼレンスキー大統領を支持して結束し、選挙停止に賛同している。しかし、クリムプシュ=ツィンツァゼ議員をはじめ複数の議員が、アメリカとの交渉に議員の関与を増やすよう求めている。
同議員が所属する欧州連帯党の党首は、ペトロ・ポロシェンコ元大統領だ。 ポロシェンコ氏は、ゼレンスキー氏と厳しく対立する政敵だ。
ポロシェンコ元大統領は最近、ウクライナの治安当局が「国家安全保障への脅威」と「経済発展への障害」と呼ぶ行為を理由に、ゼレンスキー大統領から処分されたばかりだ。これについてポロシェンコ氏は「政治的動機」による処分だとしている。
それでもなお元大統領は、ゼレンスキー氏のウクライナ大統領としての正当性を認めると言う。アメリカとロシアが共に、ゼレンスキー大統領の権限を認めないとしている中でのことだ。
「今後の世界秩序が」
どうやって戦争を終わらせるかという話がしきりに飛び交う中、ウクライナではサイレンが鳴り響き、ミサイルが都市に落下し続ける。激しい戦争が続いているのだ。
ウクライナの政治的屈服と4州の完全支配という要求から、ロシアはまったく引き下がる気配はない。
「この戦争は東部のどこかの地域や町や木立だけの話ではない」。ウクライナの「カム・バック・アライブ財団」を代表するタラス・チュムト氏はこう言う。
2014年にロシアがクリミア半島に侵攻した後、戦うウクライナ軍の軍事装備をクラウドソーシングで確保するため、この財団が設立された。
「この戦争は、今後数十年の世界秩序を決定するものだ。この世界が存続するかどうかは、この戦争の行方にかかっている」とチュムト氏は言う。
トランプ大統領は容赦なく「アメリカ第一主義」政策を推し進めている。そして、欧州の安全保障提供にアメリカが消極的になる分、自分たちの安全は自分たちで守るようにと欧州に求めている。しかし、これについて欧州の意見は割れている。そして、アメリカというセーフティーネットがなければ平和は不可能だという点では、意見が一致しているのだ。
「ヨーロッパと世界はまたしても、目を閉じて奇跡を信じたいと思っている。しかし、奇跡など起きない」とチュムト氏は言う。
「各国は現状の現実を受け入れ、それについて何とかしなくてはならない。さもなければ、消えるのはあなたたちだ。ウクライナの次に」
(追加取材: ハンナ・チョルノス、スヴィトラナ・リベット)
(英語記事 Ukrainians back Zelensky after disastrous Oval Office encounter)