2025年3月26日(水)

BBC News

2025年3月3日

渡辺直美さん

レベッカ・ソーン、ハナ・ゲルバート

第2言語で面白いことを言うのは、どれほど難しいのだろう? 日本のコメディアン、渡辺直美さん(37)がそれを確かめようとしている。渡辺さんはこの日、米ニューヨークの観客の前でステージに立った。

私たちはマンハッタンのグラマシー・シアターにいた。渡辺さんはここで、英語で初のスタンダップコメディー・ショーを、満員の観客に披露した。

「渡辺さんは私を含め、多くの若者にインスピレーションを与えています」と、外に並んでいた若い女性は言う。「彼女は実際に世界を変えています」。

渡辺さんは日本で広く知られている。ファッション誌「ヴォーグ」日本版の常連で、フェンディ、アイヴィー・パーク、アディダス、ヒューゴ・ボスといった大手ファッションブランドの広告にも登場している。

渡辺さんが初めて日本で有名になったのは2008年。世界的な人気歌手ビヨンセさんのものまねが一気に注目され、「日本のビヨンセ」という愛称を得た。

その後、有名人のものまねやパフォーマンスなどが人気を博し、インスタグラムではフォロワー数が1000万人に到達。日本で最もフォロワーの多いインフルエンサーの一人になった。

また、渡辺さんのボディー・ポジティブ(ありのままの身体を受け入れること)な姿勢は、やせることへのプレッシャーが強い日本で、大勢にとって活力となっている。

しかし、渡辺さんはそれだけでは満足しなかった。世界の舞台を目指して3年前、ニューヨークに移住した。

「最初はとても大変でした。東京とニューヨークは全然違いますから。ネズミがたくさんいるんです」。英語でインタビューに応じた渡辺さんは、こう言って笑った。

「ここではみんなとてもタフです。一生懸命働いて、お金を稼いで、とてもアグレッシブ。でも、そこが好きです」

台湾出身のシングルマザーに育てられた渡辺さんは、幼い頃からコメディアンになりたいと思っていた。一人っ子だった渡辺さんは、アメリカのテレビ番組を何時間も見て過ごした。

「独りぼっちでしたが、テレビ番組やコメディアンが私の家族でした。そして、コメディが大好きだと決めました。それで、学校でもいつもジョークを言っていました」

「どうすれば面白いか、いつも考えています」

「もっとセックスをするナオミ」にもなりたい

渡辺さんにとって最大のハードルの一つだったのは、アメリカの観客に合わせて、自分の芸のスタイルを適応させることだった。これには、英語を学ぶことも含まれていた。

「とても難しいです」と彼女は認める。ずっとコントが好きだった彼女にとって、観客とやりとりしながらのスタンダップは特に難しいのだという。

「でも、もっと挑戦したいし、もしかしたら好きになるかもしれません」

渡辺さんは自分自身の経験から、笑いのネタを引き出している。ショーでは、外国人としてニューヨークに移住した際の苦労を強調し、トイレの習慣や地下鉄のエチケットについて話し続けて、650人以上の観客を笑いの渦に巻き込んだ。

デートの話も話題になった。ニューヨークにいることの特権の一つは、日本にいる時ほど顔が知られていないないため、恋愛をより自由に楽しめるのが、ことだという。

「有名なナオミになりたいけど、もっとセックスするナオミにもなりたい。難しいけど大丈夫、どちらも良いことなので」と、渡辺さんは話した。

「あなたの腕を見せないで」

渡辺さんの魅力は、日本の厳格な美の基準に反抗していることにもある。

「日本の女の子はやせていて小柄だと思われがちですが、私はやせていないし、小柄でもありません」

「私に向かって、『太っているからスカートをはくな、腕を見せるな』と言う人もいます」

2021年には、東京オリンピック(五輪)のクリエイティブディレクターに任命されていた佐々木宏氏が、開会式で渡辺さんに「オリンピッグ」というブタの格好をする提案をしていたことが発覚し、全国的な議論が巻き起こった。

これに対し渡辺さんは、「私自身はこの体型で幸せです」と断固とした声明を発表した。佐々木氏は後に、「大変な侮辱だった」として発言を謝罪し、ディレクターを辞任した。

佐々木氏の発言は、やせていることが日本で重視される風潮を反映していた。

厚生労働省の2019年調査によると、20~29歳の女性の5人に1人が、BMI(ボディマス指数)18.5未満のやせ型と分類されている。

日本は、先進国の中で唯一、このようにやせ型の女性が多い国だ。2024年に英医学誌ランセットが発表した世界的な体重傾向に関する研究によると、日本と同水準なのは東ティモール、ブルンジ、エリトリア、ニジェールといった、世界で最も貧しい国々だった。

渡辺さんは、こうした従来の基準に従うことを拒否し、インクルーシブなファッションブランド「PUNYUS(プニュズ)」を立ち上げた。ブランド名は、子供の頬をつまんだときの「ぷにぷに」という表現から来ているという。

日本の美の基準や政府の役割について尋ねると、渡辺さんの答えはあいまいだった。

ニューヨークでのパフォーマンス後に送られてきたメールで、渡辺さんは、「健康を促進することは素晴らしいことですが、すべての人は生物学的にユニークなので、他人が設定した一律の美の基準が、必ずしも正しいとは思いません」と答えた。

「みんな自分のペースで好きなように生きるべきです。私は自分をそのままの姿で愛しています!」

この楽観主義が渡辺さんの性格の特徴なのか、それともブランド戦略なのかはわからないが、周りに広がっていく拡散力のあるエネルギーは否定できない。渡辺さんの鋭い機知とユーモアは、新たに習得した英語でも輝いている。

渡辺さんがアメリカ進出に成功するかどうかは、時間が教えてくれるだろう。しかし、彼女は全身全霊で挑戦する。それは確かだ。

追加取材:イッサリヤ・プライソンジエム

BBC 100 Women(BBCが選ぶ100人の女性)は毎年、世界に影響を与えたり、人を奮い立たせたりしてきた100人の女性を表彰しています。

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cm2j1rz0lndo


新着記事

»もっと見る