
大井真理子、メル・ラムゼイ
1996年に任天堂のゲームボーイのソフトとして生まれた「ポケットモンスター」、通称ポケモンは、2月27日に29周年を迎えた。
株式会社ポケモンの石原恒和社長は、現実世界と仮想世界をつなげる商品やサービスを生み出し続けていければ、ポケモンは今後50年、100年と続いていくだろうと語る。
ゲームだけではなく、映画、テレビ、おもちゃといったさまざまな分野に進出しているポケモンは、知的財産(IP)別の累積収入額で世界トップを誇る。
最近ではポケモンをテーマにしたトレーディングカードゲームが人気を集めているが、同時に、転売業者や詐欺師もこのゲームに参入している。
1998年から同社を率いる石原社長は、2月27日の「ポケモンデー」を前にBBCニュースのインタビューに応じ、成功の秘密、課題への取り組み、そしてシリーズの未来について語った。
「ポケモンデー」での発表
ポケモンデーは記念日であると共に、今後のリリース、アップグレード、イベントを紹介する年に1度の配信イベントでもある。
今回は、今年後半に発売予定のNintendo Switch向けタイトル「ポケモンレジェンズ Z-A」の詳細が発表された。
また、バトルに焦点を当てたスタジアムシリーズに着想を得たと思われる新作モバイルゲーム「ポケモンチャンピオンズ」も初公開された。
さらに、デジタル版および物理版のトレーディングカードゲームの追加要素も紹介された。
石原社長はイベント前に多くを語らなかったが、同社の長期的な目標は「現実世界と仮想世界の両方を豊かにすること」だと述べた。
たとえばモバイルアプリ「ポケモンGO」は、携帯端末のGPSを使用してモンスターを現実世界に配置するもので、この目標の一例だ。
「ここが僕はポケモンの一番の強みだと思っています。こういったアイデアや遊びの領域をいくつ考えられるかが、ポケモンにとって非常に大事なことだと思っています」
「なので、次にどういう領域を目指すかを楽しみにしてほしいです。事業領域というよりは、こういうことを実現したい、そのためにはどんなアイデアがあるか、どんなサービスなら面白いかということをいつも考えています」
転売業者、偽造品、パルワールド
長年のポケモンファンの間で最も熱い話題の一つは、転売業者の存在だ。
収集要素のあるカードゲームの再興は、希少で価値のあるカードを手に入れるために新しいパックを買い占める転売業者の注目を集めている。
ユーチューバーのローガン・ポール氏は、530万ドル(約8億円)で史上最も高価なポケモンカードを購入し、この趣味の潜在的な利益に多くの人々が関心を向けた。
ゲーム会社は長い間、中古市場に問題を抱えている。石原社長も、「新しく買ってもらうものに対して阻害要因になる」と語った。
「特殊な事情で、中古市場の方に希少性や、いろいろな意味での価値が付着してしまい、そちらのビジネスがより強く動いた結果、我々のビジネスが阻害されるという現象も起きています。我々にとっては、一番困るビジネス領域が、自分たちの外で生まれてしまっているという認識です」
ファンからは、株式会社ポケモンが入手困難なアイテムや限定品の生産量を増やすべきだとの声もある。しかし石原社長は、転売市場を制御することは難しいと話す。
「我々にできることはもうちょっと少ないと思っています。 希少性とか、ビンテージであることによって価値が与えられてしまったものに対して、我々から『いや、それは価値がないぞ』とはまさか言えないので」
一方、偽造品に関しては、石原社長はより直接的に言及。「ポケモンブランドにとって正しく良い方向に動かすために、リーガル(法的)の措置をかなり厳密に取っていくという立場」だと話した。
最近では、ポケモンに酷似したモバイルアプリを開発した中国企業との長い法廷闘争に勝利した。
また、2024年には任天堂と共に、「銃を持ったポケモン」と形容されるオンラインサバイバルゲーム「パルワールド」の開発者を訴えた。
両社は、開発者のポケットペアが特許を侵害したと主張しているが、ポケットペアはこれを否定している。
成功の秘密
ポケモンは、ビデオゲームタイトルに加えて、アニメ、カードゲーム、映画、おもちゃなどの分野に進出することで、新しいファンを引き寄せている。
石原社長は、ファンが「数世代にわたって広がっている」と述べ、「ポケモンがコミュニケーションのツールになったことが成功の最大の理由だ」と考えている。
3月1日、ロンドンのエクセルセンターで開催されたインターナショナルチャンピオンシップの欧州大会に、約1万3000人のポケモンファンが集まった。
これは、人々がさまざまな手段を通じてシリーズに触れていることを示している。
ロケット団のコスチュームでイベントに参加したジャスティンさん(25)とマリーナさん(28)は、子供の頃にアニメシリーズを見てポケモンに夢中になったとBBCニュースに語った。
「デザインやキャラクターが全部好きだった」とジャスティンさんは言う。
「本当にかわいかった」
マリーナさんは、対面イベントが他のファンと出会う機会になっていると話した。
「ずっとコンベンションやこういったイベントに行きたかった」
「ここに来てネットワークを広げ、友達を作ることができるのは本当にうれしい」
「ポケモンだけに集中していく」
株式会社ポケモンは、この業界では珍しい非上場企業だ。
任天堂や、ハローキティの製造元であるサンリオなど、他の有名な日本ブランドは上場企業であり、株主に対して責任を負っている。
石原社長は、非上場であることで、自社が一つのことに専念できると考えている。
「ハローキティはサンリオのワンオブゼム(多くの中の一つ)ですし、スーパーマリオも任天堂のワンオブゼムなんですけど、ポケモンは株式会社ポケモンのオールオブゼム(すべて)なんです。なので、ポケモンで得た利益は100%、ポケモンに再投資されます」
また、株主から新キャラクターの展開や新キャラクターの創出に関する質問を受ける必要もないと話す。
「『ポケモンがだめだったらどうするんですか?』っていう意地悪な質問も結構あります」
「その時には、『うちはポケモンがダメになったらダメになる会社です』と、とても分かりやすいことしか答えられないんですけど、株主ならそれ違うだろうって指摘すると思うんです」
サトシとピカチュウは今どこに?
2023年末、アニメ版「ポケットモンスター」の長年のヒーローだったサトシとその相棒ピカチュウが、アニメシリーズから退場した。
シリーズはこの愛されてきたペア抜きで続いているが、石原社長が最もよく聞かれる「難しい質問」の一つは、この1人と1匹が今何をしているかということだ。
「サトシとピカチュウの冒険は、一応の締めくくりを迎えましたけれども、カメラが彼らを追わなくなっただけで(中略)同じように旅は続いていて、ちゃんとパートナーとしてピカチュウがいるだろうと考えています」と、石原氏は語った。
来年、ポケモンシリーズは30周年を迎える予定で、これに関する特別な計画についてのうわさがすでに飛び交っている。
多くのファンの間では、シリーズ1作目「赤・緑」リメイクや再発売が、予想の上位に挙がっている。
石原氏はこれについても多くを語らなかったが、引き続き「現実世界と仮想世界をつなげる」ことに注力していくと話した。
「そうした商品やサービスを次々と生み出していければ、ポケモンはおそらく30年、50年、100年と続いていけると思います」
「でも、ミッションや意思を損なってしまったり、これまでうまくいっていたから、この流れに沿って考えればいいんだという意識になってしまったりすると、ポケモンも衰退してしまうと思います」
(英語記事 Pokémon boss believes series can last another 50 to 100 years)