
リーズ・ドゥーセット主任国際担当編集委員(カイロ)、ワエル・フセイン(同)
アラブ連盟は4日、エジプト・カイロで緊急首脳会議を開き、総額530億ドル(約7兆9500億円)を投じるパレスチナ・ガザ地区の再建計画を採択した。これは、アメリカが「ガザを占領」し、200万人以上のパレスチナ住民をガザから立ち退かせるという、ドナルド・トランプ米大統領が提案した再建構想の対案。
アラブ連盟のアフマド・アブルゲイト事務総長は、数時間におよんだ緊急会議の最後に、「エジプトが提案した計画は今や、アラブの計画となった」と発表。
「自発的であれ強制的であれ、いかなる移住も拒否する。これがアラブの立場だ」と強調した。トランプ米大統領の構想については言及しなかった。
トランプ氏は、ガザ住民を域外に移住させ、ガザを「中東のリヴィエラ」にするとしている。リヴィエラは、リゾート地として有名なフランスからイタリアにまたがる地中海沿岸地域の呼称。
トランプ氏の構想はアラブ地域の内外に衝撃を与えた。
これに対抗するため、エジプトは、緑豊かな街並みや、壮大な公共建築物の画像を含む詳細な青写真を作成し、91ページにわたる光沢のある文書にして独自の計画を提出した。
アラブ諸国のガザ再建計画
単なる不動産開発ではなく、政治とパレスチナ人の権利を掲げている点が、この新たな計画の特徴だ。
エジプトのアブドル・ファタハ・アル・シシ大統領は会議の冒頭で、物理的な再建と並行して、イスラエル人とパレスチナ人の双方が、国境のある国家をそれぞれもつ、いわゆる「2国家解決」を目指す計画の実現を呼びかけた。
「2国家解決」はアラブ諸国をはじめとする多くの国から、イスラエルとパレスチナの果てしない紛争にとっての、唯一の永続的な解決策だと広く受け止められている。しかし、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とその同盟国は、これを断固拒否している。
この計画では、ガザは「パレスチナ自治政府に守られたガザ管理委員会」によって一時的に管理されることになる。同委員会は有能なテクノクラート(専門知識をもつ官僚ら)で構成される。
イスラム組織ハマスが役割を担うことはあるのか、担うとすればどのような役割なのかという問題については明確な説明がない。計画には、武装勢力の「妨害」についてあいまいな記述しかなく、イスラエルとの紛争の原因が取り除かれればこの問題は解決するだろうとしている。
アラブ諸国の中には、ハマスの完全な解体を求める国もあるが、ほかの国々はその決定をパレスチナ人に委ねるべきだと考えている。ハマスはガザの管理に関与しないことを受け入れたとされているが、同組織に対する武装解除の要求は一線を越えるものだと明確にしている。
イスラエルのネタニヤフ首相は、トランプ氏のガザ再建構想を「先見の明がある」と評している。一方で、ハマスとパレスチナ自治政府が将来的にガザで何らかの役割を担う可能性を繰り返し否定している。
ガザをめぐるもう一つのセンシティブな問題は、安全保障だ。アラブ連盟の計画は、国連安全保障理事会に国際平和維持軍の派遣を求めている。
来月には、この再建計画に必要な巨額の資金を調達するための、主要国際会議が開催される。
裕福な湾岸諸国は、この膨大な資金の一部を負担することに前向きなようだ。ただ、別の戦争で建物がまた破壊されることはないという十分な確信が持てるまで、どの国も投資するつもりはない。
今にも破綻しそうにみえるイスラエルとハマスによるぜい弱な停戦合意は、そうした各国のためらいを増幅するだけだろう。
アラブ連盟の計画は、3段階からなる。初期復興段階と呼ばれる第1段階は約6カ月間続き、大量のがれきや不発弾の撤去が開始される。その後、第2、第3段階が数年間続く。
この間、150万人いるとされる避難民は仮説コンテナに移される。光沢のある再建計画冊子には、きれいに整備された土地に、しっかりとした造りの住宅が並ぶ画像が載っている。
トランプ氏は、「(ガザ住民は)なぜ移動したがらないのか」という疑問を、声に出し続けている。同氏は1月、ガザを「解体現場」と表現した。同地区が完全に荒廃していることを強調する発言だった。国連によると、パレスチナ・ガザ地区では住宅の9割以上が破壊または損傷している。
学校や病院、下水道や送電線に至るまで、生活に必要な基本的なもののすべてが、ずたずたに破壊されている。
トランプ氏は先月、自分のソーシャルメディア(SNS)サイト「トゥルース・ソーシャル」で、パレスチナ・ガザ地区を描いた人工知能(AI)生成の動画を投稿し、同氏のガザ再建構想をめぐる衝撃と怒りを深めることとなった。
動画は、ガザ地区を「ガザ・トランプ」が建つ豪華なリゾート地として描くもので、金色のトランプ氏像などが登場する。トランプ氏の側近イーロン・マスク氏がビーチで食事を楽しみ、トランプ氏とネタニヤフ氏がシャツを脱いで日光浴をする場面もある。動画では「トランプ・ガザがついにやって来た」という歌詞のキャッチーな曲が流れている。
カイロ市内の外務省で行われた、エジプトが提案した計画に関するブリーフィングに出席した西側諸国の外交官の1人は、「彼らはトランプ大統領を念頭に置いていた」と語った。「(計画の冊子は)非常に光沢があり、非常によく準備されたものだった」。
この計画には、持続可能性に関する世界銀行の専門家の見解から、ホテルに関するドバイの開発業者の見解まで、幅広い専門知識が取り入れられているとされる。
日本の広島やレバノン・ベイルート、ドイツ・ベルリンなど、荒廃から立ち上がった複数の都市から得た教訓も含まれる。また、提案されているデザインは、エジプトが膨大な資金を投じて、砂漠から新たな行政都市を誕生させた壮大なプロジェクト「ニュー・カイロ」の経験から影響を受けている。
トランプ氏は自分の考えを誰かに「強制」するつもりはないが、自分の計画は「本当にうまくいく」ものだと主張している。
アラブ連盟が採択した計画が唯一の計画だと証明できるかどうかは、アラブ諸国とその同盟国次第だ。
(英語記事 Arab leaders approve $53bn alternative to Trump's Gaza plan)