2025年3月26日(水)

BBC News

2025年3月5日

連邦議会で演説するドナルド・トランプ米大統領(4日、ワシントン)

アメリカのドナルド・トランプ大統領は4日、連邦議会上下両院の合同会議で施政方針演説を行った。1月の再就任以来、議会での演説は初めて。「これは始まりに過ぎない」、「アメリカン・ドリームは止められない」と宣言した。

トランプ氏は、民主党員からのやじに対して挑発的な態度を見せながら、歴代大統領で最長の1時間40分にわたって演説を行った。

トランプ氏は2期目のビジョンを示した。共和党議員らは、国内外の政策を再構築したこの6週間の功績を称賛した。

共和党は現在、連邦議会の両院を支配している。

トランプ氏は、「我々は43日間で、ほとんどの政権が4年または8年で達成した以上の成果を上げた。そして、これは始まりに過ぎない」と語った。

トランプ氏は独特の誇張表現を交えながら、「多くの人々」が自分の政権について、アメリカ史上最も素晴らしいスタートを切ったと見なしていると述べた。また、国民の気分が「誇り」と「自信」に変わったとし、初代大統領ジョージ・ワシントンに自らをなぞらえ、選挙で大勝利を収めたと自慢した。

トランプ氏はこの6週間で、連邦政府機関の人員削減や移民取り締まりを進めたほか、アメリカの主要貿易相手国に対して関税を課した。ウクライナでの戦争をめぐっては、和平交渉や援助について欧州との同盟関係を揺るがしている。パレスチナ・ガザ地区についても「再開発」案を示し、アラブ諸国の反発を招いた。

「経済の救済」を約束

約30分間にわたって就任後の行動を誇示した後、トランプ氏は今後達成すべき課題に話題を移した。

トランプ氏は、「中小企業の楽観主義」が高まっていると述べる一方で、ジョー・バイデン前大統領を経済の現状、特に卵の高価格について非難した。

「知っての通り、我々は前政権から経済的な大惨事とインフレの悪夢を引き継いだ」

「特にジョー・バイデンは、卵の価格を制御不能にしてしまった。我々はそれを引き下げるために懸命に取り組んでいる」

そのうえでトランプ氏は、経済を「救済」し、「働く家族に劇的かつ即時の救済を提供する」ことを最優先事項とすると約束した。

バイデン氏の任期中には、鳥インフルエンザの発生により数百万羽のニワトリが処分されたため、卵の価格が急騰した。しかし、トランプ新政権下でも価格上昇は続いている。

アメリカのインフレ率は先月、3%とわずかに上昇したが、2022年のピーク時の9.1%からは大幅に低下した。

トランプ氏はまた、側近の富豪イーロン・マスク氏が主導する大統領直属の「政府効率化省(DOGE)」が無駄な支出や詐欺を削減することでインフレを抑制すると述べた。

トランプ氏は聴衆の中にいたマスク氏に「ありがとう、イーロン」と声をかけ、「彼はとても頑張っている。その必要はなかったのに」と付け加えた。

さらに、マスク氏のコスト削減策によって廃止されたという無駄遣いの例をいくつか挙げ、共和党議員から笑いを誘った。

「アフリカのレソトという誰も聞いたことのない国で、LGBTQI+(性的マイノリティー)を推進するために800万ドルが使われた」と、トランプ氏は述べた。

トランプ氏は、移民取り締まりのさらなる進展を約束し、関税政策を熱心に擁護。ほとんどの経済学者がアメリカの消費者にとって価格上昇を招くと警告しているにもかかわらず、関税が「この国の魂を守る」と述べた。

「関税はアメリカを再び豊かにし、再び偉大にするためのものだ」

「そしてそれは実現しつつある。かなり早く実現するだろう」

一方で、カナダ、メキシコ、中国からの輸入品に課税することで「混乱」を招き、アメリカの農家が「消化不良の期間」を感じるかもしれないと認めた。

「多少の混乱はあるだろうが、我々はそれに耐えられる。それほど大きな混乱ではないだろう」と、トランプ氏は述べた。

しかし演説内容からは、このところ株式市場を揺るがしている貿易戦争から撤退する兆しは見られなかった。むしろトランプ氏は、4月2日にも、すべてのアメリカの貿易相手国に対して相互関税を「発動する」と約束した。

トランプ氏は再び予算の均衡を約束し、共和党議員から拍手を受けた。しかし、そのために必要な大幅な削減についての詳細には触れなかった。

その代わり、トランプ氏は減税に言及し、すぐに議会での成立を期待すると述べた。共和党の選挙公約には、チップや残業、社会保障に対する税金の廃止が含まれている。これらのいずれかが実現すれば、現在約2兆ドルとなっている予算段階での赤字に数千億ドルが追加されることになる。

ゼレンスキー氏からの「重要な手紙」を紹介

アメリカ大統領の施政方針演説で、外交政策が中心に据えられることは珍しく、今回も例外ではなかった。トランプ政権は、2期目の最初の数週間で世界中の政治を揺るがしたにもかかわらず、その傾向は変わらなかった。

トランプ氏はグリーンランドの併合を再度望み、パナマ運河のアメリカ支配を約束した。一方、ガザや中東については簡単に触れるにとどまった。

ウクライナでの和平に向けたロシアとの交渉については、演説でも詳しく触れられた。その中でトランプ氏は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領から受け取ったばかりだという「重要な手紙」を読み上げた。その内容は、ゼレンスキー大統領が同日にXに投稿したメッセージと似たものだった。

「彼(ゼレンスキー氏)は、『私のチームと私は、トランプ大統領の強力なリーダーシップの下で、持続する平和を実現するために働く準備ができている。アメリカがウクライナの主権と独立を維持するためにしてくれたことを本当に評価している』と言っている」

また、ゼレンスキー氏が「あなたの都合の良い時にいつでも」、鉱物と安全保障に関する協定に署名する準備ができていると述べたと付け加えた。

「私は彼が、この手紙を送ったことを評価する」とトランプ氏は議会に語り、両指導者間の緊張が緩和される可能性を示唆した。

13歳のがん患者にサプライズ

演説のなかでトランプ氏は、脳腫瘍と診断された警察官志望の少年にサプライズを提供した。

13歳のDJ・ダニエルさんは父親に抱えられ、共和党員や聴衆が「DJ」と合唱する中、壇上に立った。

トランプ氏は、DJさんが新しいシークレットサービス長官によって部隊の一員として宣誓されることを発表。驚いた様子のDJさんに、ショーン・カラン長官がバッジを贈呈した。

カラン長官は、昨年7月にペンシルヴェニア州での集会でトランプ氏の暗殺未遂事件があった際、ステージに駆けつけてトランプ氏を守ったエージェントの一人。

このサプライズには共和党員に加え、十数人の民主党員も立ち上がって拍手を送った。

民主党からはスロットキン議員が反論

大統領の施政方針演説に対する民主党の反論は、エリッサ・スロットキン上院議員(ミシガン州)が行った。スロットキン議員は、トランプ氏が「億万長者の友人たちへの前例のない贈り物」を行ったと非難し、「彼は我々を不況に導く可能性がある」と警告した。

また、イーロン・マスク氏が主導するDOGEにも言及し、変革は必要だが「混乱を招いたり、安全性を低下させたりする必要はない」と述べた。

アメリカ国旗を背景に、ミシガン州から演説したスロットキン氏は、トランプ氏よりもはるかに簡潔で落ち着いた演説を行った。

「アメリカ国民は、物価が高すぎること、政府が国民のニーズにもっと応える必要があることを明確に示した。アメリカは変革を望んでいる」と、スロットキン氏は指摘。「しかし、変革には責任ある方法と無謀な方法がある。そして、我々は国として、民主主義としての自分たちを忘れることなく、その変革を実現することができる」と続けた。

「食料品や住宅の価格は下がるどころか上がっており、大統領はどちらにも対処する信頼できる計画を示していない」と、スロットキン氏は述べた。

スロットキン氏は移民についても言及した。これは民主党が共和党よりも支持を得られていない争点だが、トランプ政権が不法移民に対して共感を欠いていると強調した。

「壊れた移民制度を実際に修正することなく国境を管理するのは、症状に対処しているだけで、病気を治しているわけでない。アメリカは移民の国だ」と、スロットキン氏は述べた。

また、2月28日にトランプ大統領とJ・Dヴァンス副大統領が、ゼレンスキー氏を公然と叱責したことも取り上げ、「大統領執務室でのその場面は、単なるリアリティーテレビ番組の悪いエピソードではなかった。それは、トランプ大統領の世界へのアプローチ全体を要約したものだった」と述べた。

「トランプ大統領はウラジーミル・プーチンのような独裁者にこびを売り、カナダのような友人を蹴り飛ばすことが大事だと信じている」

スロットキン氏はさらに、「1980年代にトランプではなくレーガンが大統領であったことに感謝している」、「トランプなら冷戦に負けていただろう」と攻撃した。

レーガン元大統領は、亡くなってから20年たった今でも多くの共和党員にとって偉大な大統領として崇拝されている。

中央情報局(CIA)にアナリストとして勤務していたスロットキン氏は昨年、激戦州のミシガンで上院議員に当選。48歳での当選は、民主党の女性上院議員としては最年少だった。

昨年の大統領選で民主党候補だったカマラ・ハリス前副大統領は、ミシガン州で敗北している。

民主党のチャック・シューマー院内総務は先週、スロットキン氏を党の反論役に選んだ際、同氏を「党の新星」と称賛。「経済と国家安全保障の両方のトピックで優れている」と説明していた。

プラカードやピンクのスーツで抵抗

トランプ氏は、演説の場を利用して民主党の議員らをからかうことを楽しんでいるようだった。自分の発言に歓声を上げない議員らを嘲笑したほか、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)を再び「ポカホンタス」と呼び、トランプ氏を起訴しようとした試みが「うまくいかなかった」と皮肉を込めて述べた。

ウォーレン氏はアメリカ先住民の祖先を持つが、トランプ氏は以前から同議員を「偽のポカホンタス(17世紀に実在した先住民女性)」と呼んでからかっていた。

また、トランスジェンダー女性のスポーツ選手を女子スポーツから追放することや、アメリカ国内の学校や軍隊から「ウォーク(woke)な思想」を排除する動きについても、長々と語った。ウォーク(woke)とは、差別や格差の問題を意識する傾向を指す言葉。

こうしたなか、議会の半分を占める民主党員らは、トランプ氏が自分たちやバイデン前大統領、「急進的な左翼の狂人たち」を国のすべての問題の原因として繰り返し非難する中、冷ややかな沈黙を保っていた。

多くの議員らが、トランプ氏が発言するたびに、「虚偽」や「これはうそ」と書かれたプラカードを掲げて応じた。中には、「マスクは盗む」、「退役軍人を守れ」、「メディケイド(低所得者向けの公的医療保険制度)を守れ」というプラカードもあった。

また、多くの民主党の女性議員は、抗議のためにピンクのパンツスーツを着て議会に到着した。また、背中に「抵抗」と印刷されたシャツを着ている議員もおり、演説中に議場を退出して抗議の姿勢を示した。

一方、演説の冒頭で民主党のアイ・グリーン下院議員が、トランプ氏を激しく非難し、議場から退出させられる場面もあった。

グリーン議員は持っていたつえを床に打ち付けながら激しく抗議したため、マイク・ジョンソン下院議長が品位ある行動を求め、下院スタッフによって議場の外へと誘導された。

グリーン議員は議事堂の外で記者団に対し、「メディケイド」の予算削減案に抗議したと語った。

(英語記事 Trump says he is 'just getting started' in speech to US Congress/ Seven moments from Trump's big speech/Trump tells Congress he is 'just getting started' after whirlwind six weeks in office

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c20lnye4ezjo


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