
ジェイムズ・ウォーターハウス・ウクライナ特派員
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、アメリカのドナルド・トランプ大統領との関係修復に乗り出している。その決断が賢明なのか、ウクライナでは誰に尋ねるかで、評価が分かれる。
「非常に悪い決断だ」。そう言うのは、ブロガーで陸軍軍人のユーリー・カシャノフ氏だ。アメリカについて、いったん鉱物取引を結べば、「ウクライナを助けることはしない」と考えている。
元議員のボリスラフ・ベレザ氏は、「大統領は威厳ある振る舞いを見せた」と評価する。そして、ゼレンスキー氏が口調を軟化させたのは「謝罪」だとした。
ゼレンスキー氏は昨夜、毎夜恒例の演説を大統領府の中庭から行った。ロシアによる侵攻2日目に閣僚らと共に、「私たちはここにいる」と有名な演説をしたのと同じ場所だ。
当時、ゼレンスキー氏は退避の呼びかけを断っていた。西側諸国の大半は、数日以内にロシアが首都キーウへと進み、ゼレンスキー氏を捕まえるか殺すかするだろうと予想していた。
あれから3年、戦い続けるという選択は、徐々にゼレンスキー氏から奪われていっているようにみえる。
ゼレンスキー氏は、トランプ氏の「強力なリーダーシップ」の下で動く用意はできていると表明。「物事を正す時」だと述べた。
米政府の敵対的な言葉、米ホワイトハウスでのあの会談、そして米政府の軍事支援の「一時停止」によって、ゼレンスキー氏はトランプ氏の和平ビジョンに屈することになった。
先週までは、安全保障が保証された場合のみウクライナは和平に応じると、ゼレンスキー氏は強固に主張していた。保証が得られないなら戦い続けるとしていた。
さらに、トランプ氏を「偽の情報空間」に生きていると非難した。同氏がロシアの主張に沿った発言を繰り返したのを受けてのものだった。
これらはすべて、先月末のトランプ氏とJ・D・ヴァンス米副大統領との激しいやり取りの序章だった。ヴァンス氏はゼレンスキー氏に、アメリカを「軽視」しているとの非難を浴びせ、最終的にはホワイトハウスから退出するよう命じた。
ゼレンスキー氏は先週末、ロンドンを訪れ、欧州の指導者らからもっと温かい態度で迎えられた。だが欧州指導者らは、将来のウクライナの安全確保には支援を約束する一方で、和平には依然としてアメリカの関与が必要だと明確に伝えた。
そして4日になり、トランプ氏はウクライナへの軍事支援を一時停止した。これを受け、ウクライナは数カ月しか持ちこたえられないかもしれないとの懸念が広がった。ゼレンスキー氏は、現状と折り合わざるを得なくなった。
ゼレンスキー氏はトランプ氏宛ての書簡の中で、和平プロセスの第1段階として、海と空での停戦といった具体的な提案さえした。フランスのエマニュエル・マクロン大統領が先週末、最初に打ち出した内容だった。
トランプ氏がこの書簡を高く評価したことで、両首脳の緊張緩和をうかがわせた。また、ゼレンスキー氏が和平協定に同意する考えだとした。
現状をよりよく示しているのが、ゼレンスキー氏が安全保障の保証なしに、鉱物資源の取引に署名することに前向きなことだ。安全保障の保証こそゼレンスキー氏の要求であり、つい最近までいかなる協定にも不可欠だとしていたものだ。
アメリカは、鉱物資源を採掘する米企業の存在が、ロシアに停戦破りを思いとどまらせると示唆している。だが米企業の存在は、ロシアに全面侵攻を思いとどまらせることにはならなかった。
さらに示唆的なのは、和平協定がいかなるものであれ、ロシアに妥協を迫るものではなさそうだという点だ。
ゼレンスキー氏は政治的な選択肢を使い果たしてしまったのかもしれない。味方の欧州の国々がまだアメリカは必要だと主張する状況で、ゼレンスキー氏が頼れるのはなお、アメリカ政府だけのようだ。
(英語記事 Zelensky's conciliatory letter to Trump suggests he's out of options)