
アメリカとイスラエルは5日、アラブ連盟が前日に採択した、パレスチナ・ガザ地区の再建計画を受け入れないと発表した。この計画には、ガザで暮らす210万人のパレスチナ人を同地区にとどまらせることが含まれる。住民をガザから立ち退かせるという、ドナルド・トランプ米大統領の再建構想の対案として、エジプトが提案したもの。
アラブ連盟は4日、エジプト・カイロで緊急首脳会議を開き、総額530億ドル(約7兆9500億円)を投じるガザ再建計画を採択した。
「パレスチナ人のいかなる形の移住も断固拒否する」とし、そのような考えは「重大な国際法違反であり、人道に対する犯罪かつ民族浄化だ」と、アラブ連盟は声明で指摘した。
この計画では、ガザは「パレスチナ自治政府に守られたガザ管理委員会」によって一時的に管理されることになる。同委員会は有能なテクノクラート(専門知識をもつ官僚ら)で構成される。
また、国連安全保障理事会に国際平和維持軍の派遣を求めている。
パレスチナ自治政府と、イスラエルと戦闘を続けるイスラム組織ハマスは、独立した専門家からなる委員会が一時的にガザを統治し、国際平和維持軍を派遣するというアラブ連盟の再建計画を歓迎している。
しかし、米ホワイトハウスとイスラエル外務省は、この計画はガザの現実に対処できていないとし、トランプ氏の再建構想を支持している。
1月19日に発効したガザ停戦合意の第1段階は、3月1日に終了した。このぜい弱な停戦合意が破綻するのではないかとの懸念が高まる中、アラブ連盟は緊急会議を開いた。
イスラエルは今月2日、ガザへの全ての人道支援物資の搬入を阻止し、アメリカが提示した停戦延長案を受け入れるようハマスに圧力をかけた。アメリカのスティーヴ・ウィトコフ中東特使が提案した、6週間の停戦延長には、さらなる人質の解放とパレスチナ人収監者の釈放が含まれる。
ハマス側は、合意通りに第2段階を開始すべきだと主張している。第2段階では、恒久的な停戦とイスラエル軍のガザからの撤退が予定されている。
アラブ諸国の再建計画
アラブ連盟のガザ再建計画は、3段階からなる。第1段階は約6カ月間続き、30億ドルを投じて数百万トンのがれきや不発弾を撤去する。
第2段階は2年続く。200億ドルをかけて住宅や公共施設を再建する。
第3段階では、さらに2年かけて、空港や二つの港、工業地帯をつくる。これには300億ドルが投じられる。
ガザはパレスチナのテクノクラートで構成される管理委員会によって一時的に管理されるが、「(ガザ統治)復帰に向けて、パレスチナ自治政府に権限を与えるよう取り組む」ことも、計画に含まれる。
ハマスは、イスラエルやアメリカ、イギリスなどからテロ組織に指定されている。同組織は2006年1月、パレスチナ立法評議会の選挙で過半数の議席を獲得し勝利。翌年には、自治政府主流派のファタハとの激しい武力衝突の末にガザを完全掌握した。以来、自治政府はヨルダン川西岸の一部を統治している。
アラブ連盟の緊急会議で、再建計画を歓迎したマフムード・アッバス自治政府議長は、トランプ氏にこの計画を支持するよう求めた。
ハマスは、「我々の民族を移住させようとする試みを拒否するアラブ諸国の立場」を評価するとしている。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ハマスやパレスチナ自治政府が将来、ガザで役割を担う可能性を排除している。
アラブ連盟が、エジプトが提案した再建計画を支持する声明を発表すると、イスラエル外務省はすぐに反応。「(ハマスがイスラエル南部を奇襲し、イスラエルの報復攻撃が始まった)2023年10月7日以降の現実に対処できていない、時代遅れの視点に根ざした」計画だと一蹴した。
「今や、トランプ大統領の考えによって、ガザの人々が自由意志で自由な選択をする機会が生まれている。これが奨励されるべきだ!」
「アラブ諸国はそうするどころか、ガザに公平な機会を与えず、その機会を拒否し、イスラエルに対して根拠のない非難を続けている」
米国家安全保障会議(NSC)のブライアン・ヒューズ報道官は、アラブ諸国の計画は「ガザが現在、居住するのが不可能な状態だということ、そして、領土ががれきと不発弾に覆われ、住民が人道的な生活を送れないという現実に対処していない」と述べた。
「トランプ大統領は、ハマスから解放されたガザを再建するというビジョンを掲げている。我々は、この地域に平和と繁栄をもたらすためにさらなる協議が行えることを楽しみにしている」
トランプ氏は先月、アメリカがガザを「所有」し、ガザ住民を域外に移住させ、ガザを「中東のリヴィエラ」にする構想を提案した。
域外に移住したパレスチナ人には、エジプトやヨルダンなどで「より良い住居」が与えられ、ガザへ戻る権利はないだろうと、トランプ氏は述べた。
アラブ連盟のホッサム・ザキ事務次長は5日、トランプ氏のやり方は受け入れられないとBBCに語った。
「これは、パレスチナ人を彼らの家や土地から強制的に追い出すことをふまえたものだ。これは国際法違反であり、我々が何度も申し上げてきたように、人為的にもたらされた危機に対処する方法とはいえない」
「これはイスラエルがパレスチナ人を彼らの領土から追い出す目的で起こした戦争だ」と、ザキ事務次官は付け加えた。
また、アラブ諸国の計画に対するイスラエル外務省の反応は、「人道にも道徳にも反するもの」だとした。
パレスチナ人は、1948年の「ナクバ」(アラビア語で「大災厄」の意味)の再来を恐れている。ナクバでは、イスラエル建国に伴って起きた戦争の前後に、パレスチナ数十万人が家から逃げたり、追われたりした。
その際に避難した多くはガザにたどり着いた。現在のガザ地区の住民の約4分の3は、その時の人たちや子孫からなっている。
国連によると、さらに避難民として登録されている90万人がヨルダン川西岸地区に住むが、イスラエルは1967年の中東戦争でガザと共に西岸地区も占領した。このほか、パレスチナを逃れた約340万人がヨルダン、シリア、レバノンに住んでいる。
ハマスは2023年10月7日、イスラエル南部に異例の奇襲攻撃を実施。イスラエル人を中心に約1200人を殺害し、251人を人質に取った。イスラエルはこれに対して、ハマス壊滅作戦を開始。ハマスが運営するガザの保健省によると、ガザで暮らしていた4万8400人以上が殺害されている。
ガザ住民のほとんどは地区内避難を繰り返すことになり、ガザの建物の約70%が破壊または損傷していると推定されている。
医療、飲料水、衛生システムは崩壊し、食料、燃料、医薬品、避難所が不足している。
(英語記事 US and Israel reject Arab alternative to Trump's Gaza plan)