2025年3月23日(日)

BBC News

2025年3月7日

米連邦議会で施政方針演説を行うトランプ大統領(4日)

アンソニー・ザーカー、BBC北米特派員

ドナルド・トランプ米大統領は5日、世界各地への高リスクな外交施策を矢継ぎ早に繰り出し、自分のソーシャルメディア(SNS)サイト「トゥルース・ソーシャル」を通じてリアルタイム発信することで、外交に対する自分の自由奔放な姿勢を広く見せつけていた。

トランプ氏の支持者にとっては、大統領があらゆる交渉手段と戦術を意のままに駆使し、「取引の技術」を発揮した1日となった。

そして、トランプ氏に批判的な人たちは、トランプ氏がまたしてもリスクや潜在的な影響を一見ほとんど気にせず、混乱のための混乱を引き起こした1日だったと反応している。

ハマスとの交渉

5日に最初に飛び込んできたのは、アメリカが、イスラム組織ハマスの幹部と直接交渉しているというニュースだった。パレスチナ・ガザ地区で人質として拘束されている米市民の解放が目的だという。アメリカが1997年にハマスを国際テロ組織に指定して以来、双方が直接接触するのは初めてだった。数十年にわたるアメリカの政策を劇的に転換させたことになる。

バイデン前政権は、ガザでの戦争終結への取り組みを、仲介者に頼っていた。トランプ氏は以前、ハマスが2023年10月7日のイスラエル南部奇襲で「人道への残虐行為」を犯したと非難し、ハマスのメンバーは「凶悪で暴力的」だと述べていた。

しかし、従来のやり方ではうまくいかないとトランプ氏は考えたのかもしれない。そして、偽善的に見えるリスクを差し置いて、同盟国イスラエルを通さずに直接、テロ組織に指定されている相手と交渉の席に着いた。自分が実現したい取引の目標のために。

イスラエル首相府は声明で、アメリカとハマスの直接協議についてイスラエルは「自分たちの立場を表明した」と短く述べるにとどまった。

この日の終わりにトランプ氏は大統領執務室で、ガザでの停戦合意によって最近解放されたアメリカ人の人質たちと面会。その後、再びハマスに圧力をかけた。ハマスは「病んでゆがんだ」集団だとした上で、人質全員が解放されなければ「地獄の代償」を払うことになる、これは「最後の警告」だと、トゥルース・ソーシャルに投稿した。

「それを最後までやるのに必要なものすべてを、イスラエルに送る。私の言うとおりにしなければ、ハマスのメンバーは一人として安全ではない」と、トランプ氏は書いた。

かつて米国務省のイスラエル・パレスチナ政策顧問だったローラ・ブルーメンフェルド氏は、ハマスへのトランプ氏のメッセージは最後通告だとBBCに話した。

「しかし、こうした最後通告を出すからには、成果を出す必要がある」と、ブルーメンフェルド氏は述べた。

「(トランプ氏は先月15日)拘束している人質全員を解放しなければひどいことになると脅したが、何も起きなかった。ハマスはそのはったりを見抜いた。『トランプ大統領、あなたの脅しには何の意味もない』という反応だった」

ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は以前、トランプ氏の劇的な方針転換を、大統領の外交政策全般という文脈に位置付けて、記者団にこう述べた。「世界中の人々と対話し、話し合うこと」は「アメリカ国民にとって正しいことをするための誠実な努力」の一部なのだと。

ゼレンスキー氏の譲歩

ホワイトハウスはそれと似た理屈を、対ロ関係にも適用している。ロシア政府との関係改善を目指すトランプ氏はこのところ、政府高官をサウジアラビアに派遣してロシア代表団と直接協議するなどの動きを重ねている。

ロシアに対する外交姿勢のこの劇的な転換は、ウクライナと、同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領の厳しい批判を招き、2月28日の米大統領執務室での首脳会談で対立は頂点に達した。アメリカは今月3日に、ウクライナへの武器輸送を、5日には、ウクライナとの情報共有を、それぞれ一時停止すると発表した。

トランプ氏の行動に、アメリカの欧州の同盟国は動揺した。対ウクライナ支援の停止がどのような結果をもたらすのか、まだ誰も十分に理解できていないかもしれない。しかし、ウクライナの弱点(軍事援助と情報共有の一時停止)を突いて利用しようとするトランプ氏の動きは、本人が意図した結果をもたらしたようだ。

ゼレンスキー氏は4日、限定的停戦を提案する宥和(ゆうわ)的な内容の書簡をトランプ氏に送った。これを受けてアメリカとウクライナの当局者は5日、アメリカがウクライナ支援に使った資金を埋め合わせるための、ウクライナの鉱物資源の共同開発について協議を再開した。

トランプ氏の目的が、ウクライナとロシアに和平交渉の開始を促すことなら、実質的にゼレンスキー氏を服従させたことになる。ただ、トランプ氏が和平交渉で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にどのような譲歩を求めるつもりなのかは、依然として不明だ。

貿易戦争の緩和

弱点を突くはずの措置が、時に思わぬ結果を招くこともある。トランプ氏でさえそうだ。

ひと月前、トランプ氏はカナダとメキシコからの輸入品に対する関税を大幅に引き上げると発表したが、土壇場でそれを撤回した。そして、今月4日に25%の関税を発動させた。

5日までの2日間で、米株式市場で株価が急落したことを受け、ホワイトハウスは関税をいくらか緩和させようとしたようだ。米政府は5日、カナダとメキシコからの輸入品のうち自動車について1カ月間、適用除外にすると発表した。

アメリカの自動車メーカーは、新しい関税が業界に壊滅的な打撃を与え、数週間のうちに工場閉鎖の事態になり得ると警告した。

トランプ氏は5日にカナダのジャスティン・トルドー首相と協議した。「いくらか友好的な」電話協議だったとしつつ、トルドー氏をまたしてもカナダの「知事」と呼び、そのトルドー氏が貿易問題を利用して「権力を維持しようとしている」とトゥルース・ソーシャルで非難した。トランプ氏はかねてから、「カナダがアメリカの51番目の州になる」という発言を繰り返している

ゼレンスキー氏はホワイトハウスからの圧力を受けて、急ぎ態度をあらためた。一方で、ハマスとの交渉はまだ始まったばかりだ。トルドー首相とカナダ国民はというと、もっと長い戦いに備えているようだ。

慣例を破りまくるトランプ氏の手法は今週、いろいろなものを揺るがしているかもしれない。しかし、本人が望むような勝利をもたらすかどうかは、まだまだわからない。

(英語記事 One day, three crises and Trump's free-wheeling foreign policy on display

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c9de008jxy8o


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