米俳優ジーン・ハックマンさん（右）と妻でピアニストのベッツィー・アラカワさん（2003年のゴールデングローブ賞会場で）
映画「フレンチ・コネクション」や「許されざる者」などで知られる米俳優ジーン・ハックマンさん（95）と妻でピアニストのベッツィ・アラカワさん（65）が、2月26日に米ニューメキシコ州サンタフェの自宅で遺体となって発見された件について、同州の検視官は3月7日、夫妻がそれぞれ個別に、約１週間の間をおいて病死したことが判明したと発表した。
検視官によると、アラカワさんが先に珍しいウイルスに感染して亡くなり、その約1週間後にハックマンさんが冠動脈疾患のため、それぞれ亡くなった。ハックマンさんの死因には、患っていたアルツハイマー型認知症が関係していたとみられている。
アラカワさんの死因は、ウイルスに感染したげっ歯類との接触で引き起こされる呼吸器疾患「ハンタウイルス肺症候群（HPS）」だという。
ニューメキシコ州医療捜査局のヘザー・ジャレル医師は記者会見で、先に亡くなったのはアラカワさんで、2月11日だった可能性が高いと説明。 さらにジャレル医師は、ハックマン氏が2月18日に死亡したと「結論するのが合理的だ」と述べた。
記録が残るアラカワさんの行動と通信は2月11日が最後で、夕方に帰宅する前に食料品店と薬局、ペットショップに行く姿が目撃されている。
ハックマンさんはアルツハイマー型認知症が進行していたため、「妻が亡くなったことに気付いていなかった可能性は十分にある」とジャレル医師は述べた。一方で、ハックマンさんが「日常的にどのように活動できていたのか承知していない」とも話した。
医師は、ハックマンさんが「重度の心臓病を患っており、それが最終的に死因となった」と述べ、慢性的な高血圧症を患っていたと付け加えた。亡くなる直近には何も食べていなかったが、脱水症状の様子は見られなかったという。
ニューメキシコ州公衆衛生担当獣医師のエリン・フィップス博士は同じ記者会見で、ハンタウイルス感染症（HPS）は非常に珍しい疾患だと強調した。
HPS は、げっ歯類の排泄物（はいせつぶつ）や唾液との接触を通じて感染するほか、汚染された粉塵の吸入で感染するケースも多いという。
フィップス獣医師は、過去50年間に州内で報告された件数は136件で、そのうち42%が死亡に至ったと説明した。
フィップス博士は、ハックマン夫妻の邸宅敷地内では、複数の建物でネズミが活動している証拠が見つかったものの、母屋でのリスクは「低い」と話した。
当局は、アラカワさんの感染経路を引き続き調べている。ハックマンさんはHPSについて陰性だった。
夫妻の遺体は、警備員が安否確認を行った際に発見した。警備員は窓越しに、夫婦が倒れているのに気付いたという。その後の捜索で、遺体は腐敗がかなり進んだ状態で発見された。
捜索令状の宣誓供述書によると、ハックマンさんは台所の隣の部屋で倒れていた。近くには杖とサングラスがあった。 アラカワさんは浴室で倒れており、近くには錠剤が散乱していた。
保安官事務所が裁判所に提出した目録によると、捜査員らは家の中で甲状腺と血圧の治療薬や鎮痛剤を発見した。 当局はプライバシー保護を理由に、誰に処方された薬かは明らかにしていない。
夫妻が飼っていた犬3匹のうち1匹が、アラカワさんの近くにあった木箱の中で死んでいるのが発見された。他の2匹は生存していた。当局によると、犬の死因はまだ特定されていない。
フィップス医師の説明によると、犬はハンタウイルスに感染しない。
また、不法侵入や不法行為の形跡は見つからなかったという。
ハックマンさんには前妻との間に、すでに成人した子供が３人いる。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、ハックマンさんは1980年代半ば、カリフォルニアのジムで働いていたアラカワさんと知り合った。
アカデミー賞の常連
ハックマンさん は、ウィリアム・フリードキン監督のスリラー映画「フレンチ・コネクション」（1971年）で主役を演じ、米アカデミー賞の主演男優賞を受賞した。1992年にはクリント・イーストウッド監督の西部劇映画「許されざる者」でアカデミー賞助演男優賞を受賞した。
カリフォルニア生まれのハックマンさんが俳優として注目されるようになったのは30代になってからで、1967年の「俺たちに明日はない」でアカデミー賞助演男優賞の候補となり、1970年には「父の肖像」でも同賞に再びノミネートされた。 1988年には「ミシシッピ・バーニング」で連邦捜査局（FBI）捜査官を演じ、アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされた。
俳優としてのキャリアを通じて、ハックマンさんが演じた役は100以上に上る。1970年代と1980年代のクリストファー・リーヴさん主演のスーパーマン映画シリーズでは、悪役レックス・ルーサーを演じた。
1973年の「スケアクロウ」ではアル・パチーノさんと、1974年の「ヤング・フランケンシュタイン」のジーン・ワイルダーさんと、それぞれ共演。ほかにも多くのハリウッドの重鎮たちと共演した。最後の映画出演は2004年の「ムースポート」。その後はハリウッドを離れ、ニューメキシコで暮らしていた。
（英語記事 Actor Gene Hackman and wife Betsy Arakawa died of natural causes one week apart）
