トラックの屋根と荷台に乗り、銃を持つシリア暫定政府の戦闘員
ヒューゴ・バシェーガ中東特派員
2024年1月のことだ。イスラム主義組織が主導する反体制派による電撃的な攻勢でシリアのアサド政権が崩壊してから1カ月後、首都ダマスカスにあるほぼ無人の内務省庁舎に、武装した若者たちが集まり、自分たちの携帯電話をチェックしていた。
バッシャール・アル＝アサド前大統領が去った後、この若者たちは北部イドリブ県から到着した。イドリブ県は長年にわたり、国内で唯一、反政府勢力が支配する地域だった。
反政府勢力はまさに一夜にして、アサド氏の支持者らが支配していた役職に就き、指導者アフメド・アル・シャラア氏の指導の下、13年間の内戦で荒廃し分裂したシリアを統治することになった。
その中の一人、暫定政府の警備担当として任命間もない30歳くらいの政府高官が私を迎えた。案内された部屋からは、旧政権の痕跡がすべて取り除かれていた。長身で控えめなその役人は、iPadでメモを取りながら、アサド派の脅威を含む、大きな安全保障上の課題に、暫定政府が直面していることを認めた。
アサド政権の抑圧的な機構を何十年と支えてきた国家の装置、たとえば国軍やバアス党を解体するからには、数十万人を解雇することになる。
難しい問題についても発言できるよう匿名を希望したこの高官は、暫定政府が旧政府の治安部隊の元メンバーに対し、武器を放棄し、旧政府との関係を断つよう呼びかけていると説明した。さらに、その上でなお、「和解プロセスに参加していないアサド派がいる」とも話した。
「我々は全員に目を光らせているが、彼らを追い詰めているという印象を与えたくない。大規模な摘発を実施していないのは、そのためだ」
その後、特にアサド一族の拠点だったラタキア県とタルトゥース県の沿岸地域で暴力が激化したが、衝突は比較的抑えられていた。しかし、今月6日に事態が変わった。
暫定政府とつながりのある部隊が、ラタキア県でアサド政権の元高官を標的にした作戦を実行していた際、武装勢力に待ち伏せされた。
イギリスに拠点を置くシリア人権監視団（SOHR）によると、この待ち伏せ攻撃により、治安部隊の隊員が少なくとも13人殺害された。同地域の高官はこれを、「アサド派民兵の残党」が用意周到に計画していた攻撃だと説明した。
騒乱は当初、ジャブラ地方に限定されていたものの、より広範囲に拡大した。インターネットに投稿された動画には、各地の激しい銃撃戦が映っていた。SOHRによると、暫定政府は増援を送り、7日にはさらに120人以上が死亡する衝突が発生した。
これはアサド政権崩壊以来、最も暴力的な日となった。そして、シャラア暫定大統領の移行政府が権力を確かなものにしようとする中で、これまでで最大の挑戦となった。
米戦争研究所（ISW）によると、元アサド政権の関係者は、シリアの新しい統治者に対して攻撃を調整する能力を持つ、最も効果的な反乱組織を形成する可能性が高い。
ISWの報告書は、「アサド派はすでに、既存のネットワークを活用して迅速に反乱組織を形成できる。ネットワークとは、軍事、情報、政治的なネットワークや、旧政権の支持者、アサド政権の崩壊後に経済的および政治的影響力を失った犯罪組織などだ」と説明している。
シリアの沿岸地域は、アサド氏の支持基盤だったイスラム教シーア派アラウィー派の中心地でもある。アサド政権下ではアラウィ―派が重要な役割を担っていたが、スンニ派が主導する反体制派の到来により、かつての権力と特権を失った。シャラア氏は異なる宗派を尊重すると約束しているが、アラウィー派は攻撃と差別を受けていると主張している。
7日には、アラウィ派の地域で武装集団が数十人の男性住民を殺害したと、活動家らが発表した。これにより緊張がさらに高まり、反政府勢力への支持が増す可能性がある。SOHRは、この武装集団が暫定政府の治安部隊に所属していると主張しているが、この情報は確認されていない。
暫定政府はまた、南部のドゥルーズ派からの抵抗にも直面していたが、ドゥルーズ派とは今週初めに合意に達している。
ダマスカスを掌握した暫定政府はシリア全土を支配しているわけではなく、異なる派閥が異なる国々の支援を受けて各地域を支配している。
しかしシャラア氏にとっての課題は、シリアの安全維持にとどまらない。
シャラア氏が何を意図しているのか西側諸国の疑心暗鬼が続くなか、暫定政府は旧政権下でシリアに課された厳しい制裁の解除を西側に求めるのにを苦戦している。国民の10人に9人が貧困状態にあるシリアの経済復活には、制裁解除が不可欠なものとなっている。
（英語記事 Syrian government still faces threat from Assad loyalists）
