
シリア西部の海岸地域で7~8日にあったとされる、暫定政府の治安部隊による「大虐殺」で、殺害された少数派のイスラム教アラウィ派の民間人は830人に上ると、イギリスに拠点を置くシリア人権監視団(SOHR)が発表した。暫定政府を率いるアフメド・アル・シャラア氏は9日、関与した全員に責任を取らせると表明した。
シリアでは、昨年12月のバッシャール・アル=アサド前大統領の政権崩壊以降で最悪とされる衝突が、アサド氏支持者らと暫定政府との間で起きている。
SOHRは、この戦闘で治安部隊の231人と、アサド氏支持派の戦闘員250人が死亡したと説明。民間人を合わせた死者数は1311人になったとしている。
BBCは死者数を独自に検証・確認できていない。
アサド政権を倒した勢力の指導者のシャラア氏は9日、アサド氏の支持者らを追い詰めると、テレビとソーシャルメディアで公開された演説で宣言。「今日、私たちは重大な瞬間を迎えており、新たな危険に直面している。旧体制の残党とそれを支援する外国勢力が、新たな争いを扇動し、私たちの国を内戦に引きずり込もうとしている。国を分裂させ、結束と安定を破壊することを狙っている」と述べた。
「私たちは、民間人の流血や国民に対する危害に関わった者、国家の権限を踏み越えた者、自らの目的達成のために権限を利用した者に対し、毅然として容赦なく責任を取らせると確約する」
「誰も法を超越できない。シリア人の血で手が汚れている者は、遅かれ早かれ裁きを受ける」
シャラア氏はこれに先立ち、「民間人に対する侵害を調査し、その責任者を特定する」ための「独立委員会」を設置したと、通信アプリのテレグラムで発表した。
シャラア氏はまた、国民の結束を呼び掛けた。一方で、沿岸部のラタキア県とタルトゥース県で同氏の支持者らが残虐行為を行っているとの非難については直接コメントしなかった。両県は、アサド前大統領のかつての支持基盤だった。
ロイター通信は、戦闘のペースが9日、ラタキア、ジャブラ、バニヤスの各都市の周辺で落ちたとするシリア治安当局関係者の見方を伝えた。
首都ダマスカスで抗議デモ
首都ダマスカスでは、マルジェ広場(殉教者広場)に何百人もが集まり、プラカードを手に暴力に抗議した。
一方、ラタキア県フメイミムでは、大群衆が避難のため、ロシア軍の基地に押し寄せたと、ロイター通信が伝えた。
同通信が配信した動画では、基地の外で数十人が「みんなロシアの保護を望んでいる」と声を上げていた。
現地メディアによると、隣国レバノンに避難した家族も数十世帯に上っているという。
国連などが憂慮
国連のゲイル・ペデルセン・シリア担当特使は、同国沿岸部における衝突と殺害の報告を「深く懸念している」と述べた。
国連のフォルカー・トゥルク人権高等弁務官も、今回の報告を「極めて憂慮すべきもの」とし、すべての違反行為について「迅速、透明、公平な調査」が必要だと述べた。
イランのモジタバ・アマニ駐レバノン大使は、ラタキアとタルトゥース両県におけるアラウィ派に対する殺害を「組織的」で「極めて危険」なものだと非難。シリアの暫定政府が危機をコントロールできていないとした。
「アサド政権の崩壊後、シリアが困難な移行期に直面することは予想されていた」、「しかし、現在起きている暴力の規模はかつてないもので、深く憂慮すべきだ」と、同大使は指摘している。
イラン政府は、アサド政権と同盟関係にあった。アサド前大統領は、一族による数十年にわたる抑圧的で残忍な支配と、約14年にわたる内戦の末、追放された。
アラウィ派はイスラム教シーア派の分派で、シリアの人口の約10%を占めている。アサド前大統領もアラウィ派に属している。同国ではイスラム教スンニ派が多数を占めている。
(英語記事 Syria leader vows to hunt down those responsible for bloodshed)