
米政権の一員となっている富豪のイーロン・マスク氏は30日、ウィスコンシン州の有権者らに100万ドル(約1億5000万円)の小切手を贈った。同州では最高裁判事の選挙が迫っており、検察などが贈与をやめさせようと提訴していたが、裁判所は介入を拒否した。
4月1日に実施されるウィスコンシン州最高裁の判事選は、同裁判所の主導権が民主党側から共和党側に移る可能性があるとされている。
保守派のウォーケシャ郡のブラッド・シメル判事と、州最高裁のリベラル派判事らが支持しているデーン郡のスーザン・クロフォード判事が激しく競り合っており、米史上最も多額の費用が投じられた司法選挙となっている。
マスク氏とドナルド・トランプ大統領は、リベラル寄りの州最高裁の勢力図を転換しようと、シメル氏を支持している。
マスク氏は先週、賞金について発表。「活動家」判事の選出に反対する請願書に署名した有権者に100万ドルの小切手を贈るとした。
これを受け、ウィスコンシン州のジョシュ・コール司法長官(民主党)は、投票と引き換えに贈りものをすることを禁じた州法にマスク氏が違反しているとして、この贈与をやめさせるよう裁判所に求めた。
マスク氏の弁護団は、コール氏が「マスク氏の政治的言論を制限し、憲法修正第1条の権利を奪おうとしている」と主張。この支払いは「活動家の判事に反対する草の根の運動を起こすのが狙いであり、いかなる候補者に対しても支持や反対を表明するためのものではない」としている。
同州の二つの下級裁判所は、いずれもマスク氏側の主張を支持。コール氏は最高裁に土壇場での対応を求めたが、最高裁は全員一致で審理を拒んだ。
マスク氏は、この決定が出たあとの30日夜に開かれた集会で、「私たちは判事に判事であってほしいだけだ」と発言。嘆願書に署名した有権者らに100万ドルの小切手を計2枚手渡した。
判事選が熱を帯びている理由
ウィスコンシン州の最高裁判事選は、政治ウォッチャーたちの間で、まだ始まって数カ月ほどのトランプ大統領2期目に対する住民投票と位置づけられている。
同裁判所には、中絶の権利、議会の区割り、投票規則など、2026年の中間選挙に影響を及ぼしうる重大な裁判が持ち込まれる見通しとなっている。
マスク氏はこの選挙を、民主党が議会で有利になる可能性のある区割りを阻止するチャンスだと説明。シメル候補の選挙キャンペーンに1400万ドルを寄付している。
この選挙は総支出額が8100万ドルに上っており、アメリカで過去最も高額な司法レースとなっている。
ただ、シメル候補はここ数日、マスク氏とは距離を置いている様子だ。28日には地元紙ミルウォーキー・ジャーナル・センチネルに、マスク氏の集会に出席する予定はないと表明。「彼が何をしているのかまったくわからない。この集会が何なのか見当もつかない」と話した。
マスク氏は過去にも、有権者に賞金を渡すと発表していた。昨年の米大統領選では、ウィスコンシン州など激戦7州で、憲法修正第1条と第2条の権利を支持する請願書に署名した有権者の中から毎日1人に100万ドルの賞金を贈った。
ペンシルヴェニア州では、検察が違法な宝くじだと主張したが、裁判所は検察がそれを立証できなかったとして、この金銭提供は合法だと判断した。
(英語記事 Musk gives away $1m cheques ahead of Wisconsin's Supreme Court election)