
アンソニー・ザーカー北米特派員
ドナルド・トランプ米大統領の政治姿勢は、数十年にわたって人々に注目されながら活動する中で、大きく変化してきた。しかし、1980年代から一貫していることがある。関税は米経済を活性化させるうえでの有効手段だという信念だ。
そして今、大統領の座を賭けて、それが正しいと示そうとしている。
トランプ氏は2日、ホワイトハウスのローズガーデンで、友人や保守派の政治家、閣僚らに囲まれながら、新たな関税措置を発表した。同盟国、競合国、敵対国を問わず、幅広い国々を対象にするものだった。
祝福と自賛が入り混じった演説の中で、トランプ氏は所々で聴衆から拍手を受けながら、長年にわたって関税を支持してきたことに言及。同時に、北米自由貿易協定(NAFTA)のような自由貿易の取り決めや、世界貿易機関(WTO)には批判的だったと振り返った。
また、今後数日間は「グローバリスト」や「特別な利害関係者」らの反発が起こるだろうが、それでも自分の直感を信じてほしいと、国民に要望。
「忘れてならないのは、私たちと対立する人々が過去30年間に出した貿易に関する予測はすべて、完全に間違っていたということだ」と述べた。
トランプ氏は大統領2期目の今、同じような考えをもつ側近らに囲まれ、議会両院を支配する共和党内で圧倒的な力を持っている。その状況を背景に、新たにアメリカ中心の通商政策ビジョンを現実のものにする立場にある。そうした政策が100年以上前にアメリカを豊かな国にしたし、これからもそうすると、トランプ氏は話した。
そして、「何年もの間、勤勉な米国民たちは、他の国々が富み、強くなっていくのを傍観させられてきた」、「今日の措置によって、私たちはついに、アメリカを再び偉大な国にすることができる。かつてないほど偉大にだ」と述べた。
だが、トランプ氏にとってリスクはかなり大きい。
あらゆるエコノミストが、この大規模な関税はやがてアメリカの消費者に転嫁され、物価を上昇させ、世界的な不況を招くと警告している。計画では、中国に53%、欧州連合(EU)と韓国に20%、そしてすべての国に一律10%の関税を、それぞれ課すとしている。
国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミストのケン・ロゴフ氏は、世界最大の経済大国のアメリカが景気後退に陥る可能性が、この日の発表で50%に高まったと、BBCワールドサービスの取材で予想。「彼はたった今、世界の貿易システムに核爆弾を落とした」とし、アメリカの輸入品にこれほどの関税をかけることの影響は「気が遠くなるほどだ」と述べた。
トランプ氏の今回の措置には、アメリカが他国との貿易戦争をエスカレートさせ、関係強化を図ってきた同盟国を遠ざけてしまうリスクもある。例えば、アメリカは日本と韓国を、中国の膨張主義的野心に対する防波堤とみなしている。ところがそれら3カ国は最近、アメリカの貿易政策への対応で協力していくと発表した。
もしトランプ氏が成功すれば、第2次世界大戦の焼け跡からアメリカが中心となって築き上げた世界経済秩序を、根本から再構築することになる。トランプ氏は、そうすることでアメリカの製造業を再建し、新たな収入源を生み出し、アメリカをより自立させるとともに、新型コロナウイルスの世界的流行の時期に大打撃をもたらしたグローバルサプライチェーンのショックから守ると約束している。
困難な目標であり、多くの人が非現実的だと考えている。しかし、戦争を終わらせ、地理的な名称を変え、新たな領土を獲得し、連邦政府のプログラムと労働力を解体することなどによって、自分の歴史的評価を確立しようと固執しているように思われる大統領にとって、これは最大かつ最も意味のある目標だ。
それは、トランプ氏が言うところの、アメリカの「解放の日」なのだ。
はっきりしているのは、2日の発表をトランプ氏が実行に移すなら、歴史的な変化を生むことはほぼ確実だということだ。問題は、それが業績として歴史に刻まれるのか、それとも悪評として歴史に残るのかだ。
トランプ氏は演説で勝ち誇っていた。彼の措置が米経済と自らの政治的地位にもたらす可能性のある高いコストを隠すものだった。
だがトランプ氏は、その価値はあると言った。演説の最後の最後で次のように述べて、大統領としての疑念の小さな影を、虚勢を通してのぞかせてはいたが。
「この日が、何年か後に人々が振り返って、『彼は正しかった』と言うような日になることを願っている」
(英語記事 Trump's tariffs are a longtime goal fulfilled - and his biggest gamble yet)