2025年4月20日(日)

BBC News

2025年4月8日

米オハイオ州デルタに掲げられた、蒸気機関車と駅舎の壁画

マイク・ウェンドリング(米オハイオ州デルタ)

米中西部オハイオ州に、「デルタ」という小さい町がある。そこを車でさっと周ると、アメリカの星条旗と同じくらいドナルド・トランプ大統領を支持する旗がたくさん目に入る。

オハイオ・ターンパイク(優良高速道路)に近いガソリンスタンドでは、前政権の名残りが給油ポンプに残っている。「バイデンに投票した人は全員、私にガソリン代によこせ!」と書いてあるのだ。

ここはトランプ氏の支持基盤だ。昨年11月の大統領選挙では、共和党の正副大統領候補がほぼ2対1の差で、民主党に楽勝した。そして、トランプ氏が世界各国に大規模な関税を課すと発表して以来、株価をはじめとする世界の市場は混乱しているが、ここデルタをはじめとする中西部の何百もの町では、実に多くの住民が今も大統領の計画を支持している。

ほぼすべての国に10~50%の関税を課すというトランプ政権の計画は、世界貿易に大混乱をもたらしている。そして、アメリカの消費者にとっても、間もなく物価が上昇しかねないと警告されている。一方でトランプ大統領は、この措置が不当な貿易不均衡に対処し、アメリカの国内産業を活性化させ、歳入を増やすと主張している。

デルタに住む一部の人は、公平性についての大統領の主張に共感している。

「ほかの国の人たちに苦労してほしいわけじゃないです。本当です」

町の中央通りで菓子店「デルタ・キャンディ・エンポリアム」を経営する、メアリー・ミラーさんはこう言う。

「でも、公平な競争の場が必要なんです」

ミラーさんはこれまで3回、 トランプ氏に投票した。ミラーさんは、他国は貿易で公正な対応をしていないと考えている。そしてここにいる多くの人と同様、彼女もアメリカ製の商品を買うことを好んでいる。

「デルタ・キャンディ・エンポリアム」が扱う色とりどりのお菓子の多くは、アメリカ製だ。自分の店の品ぞろえを眺め、新しい輸入税がどう影響するのか考えながら、ミラーさんは数十年前のことを思い出していた。お気に入りブランドの一つが、工場を国外に移転すると聞いた時のことだ。それ以来、彼女はリーバイスのジーンズを買っていない。

新しい関税は、アメリカ国内の物価上昇につながると、多くのエコノミストが警告する。しかし、ミラーさんは気にしていない。

「反対側にたどり着くには、時に火の中を歩かなくてはならないこともある」と、ミラーさんは話した。

「関税のおかげで、この町に住んでいるような、勤勉なアメリカ人のところに企業や事業が戻ってくるなら、関税は有意義だ」

デルタは、デトロイトから南に160キロ足らずの場所にある、人口約3300人の町だ。そして関税について、ミラーさんと同じような感想を多くの人が口にする。同じ中西部でもほかの町村は、関税の打撃に身構えているのだが。

自動車業界は、世界中に広がる複雑なサプライチェーンによって成り立っている。それだけに、新しい関税の打撃を受けやすいように思える。現にデルタから北にあるミシガン州、西にあるインディアナ州の企業はすでに、工場閉鎖や人員削減を発表しているのだ。

しかし、デルタ郊外には1990年代から続く鉄鋼関係の企業が集まっている。アメリカ保護主義の新時代に、そうした企業は有利な立場なのかもしれない。

そのうちの一社、ノーススター・ブルースコープは、トランプ大統領に鉄鋼とアルミニウムを対象にした関税を拡大するよう要請している。しかし同時に同社は、スクラップ金属など自社が必要とする原材料については、関税の免除を求めている。

ノーススター・ブルースコープはBBCの取材申し込みに応じなかった。しかし、4月4日早朝には近くにあるバーン・レストランの奥の部屋で、夜勤を終えたばかりの地元の鉄鋼作業員が数人、ビールを飲んでいた。

匿名を希望したこの人たちは、今月2日にトランプ大統領がホワイトハウスで発表した大々的な新関税について尋ねると、ほとんどが笑って肩をすくめた。

関税に関するニュースのせいでこの人たちの週末が台無しになるなど、おそらくあり得ない。それはかなり、はっきりしていた。

レストランを出ると、輸入税には利点もあり得ると考える住民もいた。

「誰も慌てていない。誰も、関税のせいで眠れなくなったりしない」。農業関連の仕事を数十年続けているジーン・バークホルダーさんは話した。

バークホルダーさんは、多少の株は持っているものの、どれも長期的な投資なのだという。なので、大統領の発表から株価が急落し続けたことも、あまり気にしていないのだそうだ。

「もし資金が多少余っているなら、むしろ株価が安いうちに株を買うのがいいかもしれない」

同じバーン・レストランの少し離れたテーブル席では、ルイーズ・ギルソンさんが息子のロブさんと一緒に朝食を終えたところだった。ギルソンさんは静かな声で、自分は本当はあまり大統領を信用していないのだと話した。

けれどもギルソンさんは、この町の多くの人と同様、自分も政府には行動してもらいたいとも強調した。

別の客が、「トランプは間違ってるかもしれない。でも少なくとも、なんとかしようとしてる」と言うと、それにギルソンさんは熱心に同意した。

「これがほかの人たちなら、まったく何もしなかったはず」だと、ギルソンさんは言った。ほかの人たちとは民主党のことだ。

この地域の大手企業はだいたいのところ、地元住民を大事にしてきたと、ギルソンさん親子は二人とも同じ意見だった。町の産業発展には多少の問題はあったし、住民が受ける経済的恩恵は平等ではないかもしれないという心配もあるものの、地元の大企業はだいたいのところ、地域経済や慈善団体や地域のコミュニティー全般に貢献しているのだそうだ。

親子はデルタの町の歴史を語り、生活の質が次第に劣化してきたと話した。そしてだからこそ、トランプ氏の関税計画には明らかに危険が伴うとエコノミストがいくら言っても、その計画に賭けてみようと期待する人が大勢いるのだと。

「ここは、子どもが育つには良い小さな町だった」。息子のロブ・ギルソンさんそう振り返りつつ、自分が育った1960年代や70年代に比べると、今は前ほど安全でないし、親しみやすい町でもないように思うと続けた。

「アメリカの心がなくなってしまった、そんな感じがする」

デルタでは「住民の25%か30%が、何かしら自分の中に問題を抱えて苦しんでいる」のだと、母のルイーズさんは付け加えた。

そういう各自の問題は関税とはほとんど関係がない。しかし、デルタのような町の人たちは、何かしら難しい問題に直面している。そしてだからこそ、遠く離れたウォール街で市場がいくら暴落しようと、この町では多くの人がトランプ大統領に対してそこまで否定的ではないのだ。

(英語記事 'Sometimes you have to walk through fire': Tariffs get backing in Trump heartland

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cddey7q2z2po


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