
アメリカの連邦最高裁判所は7日、戦時下で適用される「敵性外国人法」に基づいて、ギャング組織のメンバーとされる人をドナルド・トランプ大統領が国外追放することについて、制限付きで容認する判断を下した。政権側は勝訴だと主張する一方、最高裁は追放される人に異議申し立ての機会を与える必要があると判断を示したため、政府を訴えた人権団体も勝利だとしている。
不法移民対策を進めるトランプ政権は3月16日、ギャング組織のメンバーとされる南米ヴェネズエラ人200人以上を、中米エルサルバドルの厳重警備の刑務所に国外追放したと発表した。
トランプ氏はこの前日に、ギャング組織が「米領土に対する略奪的侵略を実行し、試み、脅している」として、1798年制定の「敵性外国人法」を適用する布告に署名していた。「敵性外国人法」が適用されるのは、第2次世界大戦中に日系アメリカ人の強制収容以来だという。
この措置については引き続き法的議論が必要だとして、ワシントンの連邦地裁が3月15日夜に差し止めを命じていた。
この地裁命令を不服とする政府の上告を受けて、最高裁は7日、判事9人のうち賛成5、反対4で、連邦地裁の命令解除を認めた。
トランプ政権は、最高裁のこの判断は自分たちの「勝利」だと主張している。ただ、最高裁は、「敵性外国人法」に基づく強制送還対象者に、異議を申し立てる機会を与えなければならないとの判断も示した。
最高裁は、対象者が「強制送還される前に、適切な場所で人身保護を求められるよう、合理的な期間内に(強制送還の)通知を行わなくてはならない」とした。そのうえで、「唯一の問題は、どの裁判所がそうした異議申し立てを解決するのかということだ」とした。
ワシントンの連邦地裁に対する訴えは、米自由人権協会(ACLU)が移民5人の代理として起こした。最高裁は、移民が勾留されているテキサス州ではなく首都ワシントンの裁判所に対してACLUが提訴したのは、不適切だったと指摘した。
保守派のエイミー・コニー・バレット最高裁判事は、リベラル派の3人の判事と共に、連邦地裁の命令解除に反対した。
反対意見を書いた判事は、「この訴訟における」政権の行為は、「法の支配に並外れた脅威をもたらす」ものだと指摘した。
トランプ氏と人権団体がそれぞれ「勝利」主張
トランプ氏は最高裁の判断を受け、「アメリカの正義にとって素晴らしい日」だと述べた。
「最高裁は大統領が誰だろうと、大統領が国境を守り、家族を守り、国そのものを守れるようにして、わが国の法の支配を支持した」と、トランプ氏は自分のソーシャルメディアサイト「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。
一方で、ACLUもまた、最高裁の判断は自分たちにとって「大勝利」だと主張した。
弁護団長を務めるACLUのリー・ゲラーント弁護士は、米メディア宛ての声明で、「我々は、裁判手続きを別の場所でやり直す必要があることに失望している。しかし、今回の判決では、敵性外国人法に基づく強制送還について、適正手続きを通じた異議申し立ての機会を、個人に与えなくてはならないと、最高裁が指摘したことが特に重要だ」と述べた。
ホワイトハウスは先月17日、強制移送した261人のうち137人の処分が、「敵性外国人法」に基づくものだったと発表した。政権のこうした動きは多くの人権団体から非難されている。
「敵性外国人法」は、裁判所での通常手続きなしに、「敵国」の出身者や市民の拘束や追放を命じられる圧倒的権限を大統領に与えるもの。1798年に、当時関係が悪化していたフランスとの戦争に備えて制定された。
トランプ政権は、先月にエルサルバドルの刑務所に国外追放した人は全員、ヴェネズエラのギャング組織「トレン・デ・アラグア」のメンバーだとしている。この強力な多国籍犯罪集団は、ヴェネズエラやアメリカの主要都市で、性的人身売買や麻薬の密輸、殺人の疑いで告発されている。
米移民当局は、エルサルバドルとの合意に基づき、拘束者はエルサルバドルに移送される前に「慎重に精査」され、ギャングメンバーだと確認されたとしている。
しかし、裁判資料によると、米移民関税捜査局(ICE)の職員は、強制送還された人の多くにアメリカ国内での犯罪歴がなかったことを認めている。
強制送還された移民の中には、無実にも関わらず、入国管理局の取り締まりに誤って巻き込まれた人がいると、BBCに訴える親族もいた。体のタトゥーが理由で、ギャングの一員だと誤認された可能性があると話す親族もいる。
「敵性外国人法」に基づく強制送還の差し止めを先月命じた、ワシントン連邦地裁のジェイムズ・ボアスバーグ判事は、差し止め命令に対する政府の反応は「はなはだお粗末」だと一蹴した。対するホワイトハウスは、判事の命令そのものに合法性はないと主張。命令が出された時にはすでに、移民を乗せた航空機2機はアメリカを出国していたのだと説明した。
「敵性外国人法」はこれまで、アメリカが公式に宣戦布告した後にしか適用されてこなかった。アメリカ合衆国憲法は、宣戦布告の権限は連邦議会にあると定めている。
人権団体や法律家の一部は、議会が正式に宣戦を布告していない状態で「敵性外国人法」を適用するのは、前代未聞の事態だと批判している。
(英語記事 US top court allows Trump to use wartime law for deportations)