2025年4月22日(火)

BBC News

2025年4月9日

アメリカのドナルド・トランプ米大統領

イヴェット・タン、アナベル・リン、ケリー・アン

アメリカのドナルド・トランプ大統領が打ち出した「相互関税」の上乗せ分が9日(日本時間同日午後)、発動となった。これによりアメリカは、中国からのほとんどの輸入品に104%という驚くほど高い税率の関税を課し、日本製品にも税率24%を適用する。アメリカへの報復関税を発表している中国は「最後まで戦う」と宣言しており、世界2大経済国の激しい対立が、世界経済にとって大きな懸念となっている。沈静化の兆しが見られないこの貿易戦争は、今後どうなるのか。複数の専門家に見解を聞いた。

アメリカ政府がこの日発動した関税は、トランプ氏が「最悪の違反者」だとする約60カ国を対象にしたもので税率の幅は11~50%。発動を受け、アジア各地の株式市場は下落傾向が続いている。

こうした中、米中の対立が大きな焦点となっている。専門家らは厳しい見方を示している。

「中国が折れて、一方的に関税を撤廃すると考えるのは間違いだ」。米シンクタンク「コンファレンス・ボード」の中国センターのシニアアドバイザー、アルフレド・モントゥファー=ヘル氏はこう指摘する。

「もしそうなれば、中国は弱腰に見られるだけでなく、アメリカにいっそうの要求を許すことにもなる。状況は行き詰まっており、長期の経済的な痛みにつながる可能性が高い」と同氏は言う。

米首都ワシントンのシンクタンク「ピーターソン国際経済研究所」の米中貿易専門家、メアリー・ラヴリー氏は、「私たちが目にしているのは、どちらがより痛みに耐えられるかのゲームだ。何が利益になるかという話は、もうしなくなっている」とBBCの番組「ニューズアワー」で話した。

同氏は中国について、経済が減速しているものの、「『アメリカの攻撃』に屈するのを避けるためなら、痛みに耐えてみせようとする可能性は高い」とも述べた。

中国は、長引く不動産市場の危機や失業率悪化の影響で、国民の消費が足りていない。地方政府も負債を抱え、投資の拡大や社会的セーフティネットの拡充に苦慮している。

「今回の関税は、この問題を悪化させる」。米ハーヴァード大学ケネディ・スクールのモサヴァー・ラーマニ・政治経済センターのアンドリュー・コリアー上級研究員はこう言う。

中国は、輸出が打撃を受ければ、重要な収入源が損なわれる。輸出は長年にわたり、中国の爆発的成長の要因となってきた。ハイテク製造業の成長や国内消費の拡大で経済の多角化を図ってはいるが、輸出は中国経済の重要な原動力であり続けている。

コリアー氏は、関税の影響がいつ出るのかを正確に言うのは難しいが、「おそらく近い内に」現れると推定。「経済の減速と資源の減少で、(習近平国家主席は)ますます難しい選択に直面している」と付け加えた。

アメリカにも影響

貿易戦争の影響を受けるのは中国だけではない。

アメリカがすぐに、中国製品に代わる製品をどう見つけるのかは明らかではない。

米通商代表部によると、アメリカは昨年、4380億ドル(約63兆5700億円)相当の製品を中国から輸入した。一方、アメリカから中国への輸出は1430億ドルで、アメリカの貿易赤字は2950億ドルだった。

シンガポール「ヒンリッヒ財団」の貿易政策部門トップ、デボラ・エルムス氏は、米中両国の現状について、「多くの面で経済的に絡み合っており、双方向で多大な投資が行われ、多くのデジタル貿易とデータの流れがある」と説明。「関税をいつまでかけ続けられるのか、その期間には限界がある」と言う。

ただ同時に、「両国が互いに打撃を与え合う方法は他にもある。これ以上悪くはならないとの見方もあるかもしれないが、悪くなり得る方法はたくさんある」と話す。

同氏はまた、米市場から締め出される中国製品について、東南アジアなどの市場に行き着くだろうと予測。「そうした場所にも独自の関税があるので、どこで売ることができるのか、考えなくてはならない」、「つまり、私たちはまったく異なる世界、先行きがとても見にくい不透明な世界にいる」とした。

最終的にどうなるのか

オーストラリアのシンクタンク「ローウィー国際政策研究所」の首席エコノミスト、ローランド・ラジャ氏は、現在の状況について、トランプ政権1期目と違い、「何がこの関税の原動力になっているのかが不明で、ここから先、事態がどうなるか予測するのは非常に難しい」と言う。

同氏はまた、中国には自国通貨の切り下げや米企業への締め付け強化など、報復のための「幅広いツール」があると指摘。「ポイントは、中国がどの程度抑制的になるかだろう。メンツを保つために報復に出ることもあれば、あらゆる手段を講じるという対応を取る場合もある。中国がそうした道を望んでいるかは定かではない。ただ、その可能性はある」とする。

一部の専門家は、米中が非公開の協議を行う可能性があるとみている。トランプ氏は、政権に復帰して以降、まだ中国の習主席と話をしていないが、中国は繰り返し、対話の意思があることを示している。

ただ、あまり期待はもてないとする専門家もいる。

前出の「ヒンリッヒ財団」のエルムス氏は、「アメリカは強く出過ぎていると思う」と分析。アメリカは中国にとって、そしてどの国にとっても、非常にもうけの大きい市場なので、最終的にはどの国もアメリカに屈する――という、トランプ氏の考えには懐疑的だ。

「どのような結末が待っているのかは、誰にもわからない」とエルムス氏は言う。「私は変化のスピードと激化を懸念している。先行きはもっと厳しいし、リスクも非常に高い」。

(英語記事 Trump's 'explosive' global tariffs take effect - including a 104% rate on ChinaChina is not backing down from Trump's tariff war. What next?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cwy773l7pn5o


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