
アメリカのドナルド・トランプ大統領は9日、同国の関税引き上げの影響を受けた国々に対し、一部の措置の90日間の停止を発表した。一方、中国に対してはさらなる追加関税を発表し、両国の貿易戦争が激化している。
アメリカが貿易相手国約60カ国に対する「相互関税」を発動した数時間後、トランプ氏は自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で新しい計画を発表。「相互関税」に報復措置を行わなかった国々に対し、引き上げ措置の一部を90日間停止し、「10%の相互関税」の適用を認めると発表した。
同時に、中国については、アメリカの輸入品への関税を84%に引き上げると発表したことを受け、中国からの輸入品に対する関税を125%に引き上げた。また、「敬意が足りない」と中国を非難した。
中国に対する追加関税は即時に発効するとし、「近い将来、中国はアメリカや他の国々を搾取する時代が、もはや持続可能でも受け入れられるものでもないことに気付くだろう」と述べた。
その後、ホワイトハウスの外で会見を行ったトランプ氏は、人々が「騒ぎ始めた」ため、関税政策の修正が「必要だった」と説明した。
トランプ氏は、「報復しなかった国々を対象に90日間停止したのは、それらの国に『報復したら倍にする』と言ったからだ。そしてそれが、中国に対して行ったことだ」と述べ、「すべてが素晴らしくうまくいくと思う」と付け加えた。
また、中国の習近平国家主席が「取引を望むだろう」とも述べた。
スコット・ベッセント米財務長官は、この政策変更は世界的な株価下落に影響されたものではないと主張した。一方、民主党のチャック・シューマー上院少数党院内総務は、この決定はトランプ大統領の「動揺と後退」を示すものだと述べた。
トランプ氏は先週、アメリカに入るすべての品目に対する輸入税を発表。数十年ぶりの国際貿易の大変革に、混乱が生じている。
トランプ氏の「相互関税」は、すべての輸入品に対して10%の基本関税を設定するもので、これは現在も維持されている。しかし、ホワイトハウスが「最悪の違反者」と表現した貿易相手国には、より高い関税率が適用されることになっていた。
そうした国には、27カ国からなる欧州連合(EU)、ヴェトナム、南アフリカなどが含まれており、11~100%以上の関税の上乗せが予定されていた。
この発表があった先週は、世界中の株式市場で売りが殺到し、数兆ドルの損失が発生。多くのアメリカ人が物価上昇を恐れているほか、一部のアナリストらは、景気後退(リセッション)の可能性が高まると予測している。
9日に関税引き上げの一時停止が発表される直前には、米国債に対する金利が4.5%に上昇し、2月以来の高水準となった。
その数時間後に変更が発表されると、米国株は急騰。アメリカの主要500社の株価指数のS&P500種は午後の取引で7%上がり、9.5%のプラスで取引を終えた。ダウ・ジョーンズ工業株平均は7.8%の上昇を記録した。
米中貿易が最大80%減少との予想も
世界の2大経済大国である中国とアメリカの対立は、トランプ氏が先週、新たな関税を発表したことから始まった。
中国は、今年初めにトランプ氏が導入した20%の関税に加えて、さらに34%の関税を課された。しかし中国はすぐに、アメリカからの輸入品に対して34%の関税を課すことで報復した。
これに対しトランプ氏は8日、中国が引き下がらない場合にはさらに50%の関税を課すと脅した。これにより、中国への関税は104%となった。中国は方針を変えず、アメリカが「関税戦争や貿易戦争を挑発し続けるなら、最後まで戦う」と述べた。
9日にこの関税が発効した数時間後、中国は、10日からアメリカ製品に対する関税を34%から84%に引き上げると発表した。
中国外務省の林剣報道官は9日、アメリカが「中国に対して乱暴な方法で関税を課し続けている」と述べた。
また、中国はそのような「いじめのような行為」に反対しており、問題を交渉で解決したいのであれば、アメリカは「平等、相互尊重、相互利益の態度」を示すべきだと述べた。
世界貿易機関(WTO)は、米中の関係悪化により両国間の貿易が最大80%減少し、4660億ドル(約68兆7000億円)の減少が見込まれると予想している。
WTOのンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長は、「最新の動向に基づいた評価は、さらなるエスカレーションに伴う重大なリスクを強調している」と指摘した。
トランプ大統領の最新の変更は、すでに実施されている関税には影響しない。
これには、2日に発効した自動車および自動車部品の輸入に対する25%の関税と、すべての鉄鋼およびアルミニウムの輸入に対する25%の上乗せ関税が含まれる。
EUは9日の早い段階で、アメリカに対する最初の報復関税を承認。これは15日に発効する予定だ。EUは、トランプ大統領の「最悪の違反者」貿易相手国リストに載っており、20%の関税が予定されていた。
しかし、この報復関税がまだ発効していなかったため、ホワイトハウスはEUを、関税が10%にされる国に含めた。