破壊された建物のがれきの中を行く人
ラシュディ・アブアルーフBBCガザ特派員
パレスチナ・ガザ地区北部ガザ市で13日、イスラエル軍の空爆があり、完全に機能している病院としては市内最後だった「アル・アハリ・アラブ病院」の一部が破壊された。
インターネットに投稿された動画では、ミサイルが着弾した2階建ての建物から大きな炎と煙が上がっているように見える。まだ外が暗い中、スタッフや患者らが急いで建物外へと避難し、ベッドごと運ばれた患者もいたことがわかる。病院に避難していた女性や子どもらが、病院の中庭から逃げ出す様子も確認できる。
目撃者らによると、同病院の集中治療部門と外科部門が破壊されたという。イスラム組織ハマスが運営するガザ保健当局は、病院が「完全に破壊」され、「患者と病院スタッフが移動を強いられた」とした。
イスラエル国防軍（IDF）は、「ハマスが使用する指揮統制センター」が病院内にあったことから、この病院を攻撃目標にしたと説明。「民間人や病院施設への被害を軽減するため、テロのインフラがある地域で事前警告を発し、精密な砲弾を使い、上空から監視するなど」の措置を取ったとした。
ガザの救急当局は、死傷者の報告はないとしている。一方、同病院を運営するキリスト教聖公会エルサレム教区は、頭部を負傷していた子ども1人が「避難を急いだ」結果、死亡したとする声明を出した。教区によると、聖フィリップ教会など病院周辺の建物も、被害を受けた。
病院で仕事をしていた現地ジャーナリストによると、IDFは救急部門で手術中だった医師に電話をかけ、直ちに病院から避難するよう求めた。「すべての患者と（病院で生活している）避難者が安全な場所に避難する必要がある」、「避難する時間は20分だけだ」と言ったという。
病院にいたハリル・バクルさんは、爆撃のほんの数分前に、けがをしている娘3人と逃げ出して助かったと、BBCアラビア語放送の番組「ガザ・ライフライン」で説明。「恐ろしかった」、「私はすでに負傷していたので、状況は困難だった。娘も1人は片足を切断し、もう1人は片手を切断し、もう1人は体中にプラチナのプレートが入っている」、「わずか2分が生死を分けた」と話した。
ガザ市では、アル・シファ病院などの主要医療機関が破壊され、小規模病院のアル・アハリ・アラブ病院が唯一、完全に機能する病院だった。
世界保健機関（WHO）のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長によると、同病院の院長からは、避難命令と攻撃によって医療提供を停止していると報告があったという。また、子ども1人が治療が中断されたことで死亡したという。
テドロス氏は、「病院は国際人道法で保護されている。医療への攻撃はやめなければならない」と訴えた。
13日はキリスト教の重要行事、復活祭へと続く1週間の始まりとなる「枝の主日」だったため、「このような日の朝に、そして聖週間の始まり」に病院が爆撃されたのは「とんでもない」ことだと、英イングランド教会のスティーヴン・コトレル・ヨーク大主教は声明で非難。「エルサレム教区にいるパレスチナの兄弟姉妹たちの悲嘆を、私は共有する。病院のスタッフと患者のために祈り、避難の最中に悲劇的に亡くなった男の子の家族のために祈る」と大主教は述べた。
ガザ内外で非難の声
ハマスが運営するガザのメディア当局は、今回の攻撃を非難する声明を発表。「何百人もの患者と医療スタッフがいるアル・アハリ・アラブを標的にし、恐ろしい犯罪を犯した」とした。
イギリスのデイヴィッド・ラミー外相は、「嘆かわしい攻撃は終わらなくてはならない」、「イスラエルによる医療施設への攻撃は、ガザでの医療状況を包括的に悪化させている」と述べた。
アル・アハリ・アラブ病院では2023年10月、爆発が起こり、数百人が死亡した。
パレスチナ当局は、この爆発はイスラエルによる攻撃だと主張した。これに対しイスラエルは、ガザ地区の武装勢力「イスラム聖戦」（PIJ）が発射したロケット弾が病院に当たったとし、爆発の責任を否定した。
イスラエル軍は、2023年10月7日のハマスによる越境攻撃を受けて、ハマス壊滅作戦を始めた。ハマスによる攻撃では、イスラエルの約1200人が殺害され、251人が人質に取られた。
ハマス運営のガザ保健当局は、イスラエルが作戦を開始して以降、ガザで5万933人以上が殺されたとしている。うち1563人は、今年3月18日のイスラエルによる攻撃再開以降に殺害されたとしている。
（英語記事 Israeli air strike destroys part of last fully functional hospital in Gaza City）
