
世界保健機関(WHO)は、パレスチナ・ガザ地区の病院について、「筆舌に尽くしがたい」状況にあると述べた。13日にはイスラエルの空爆によって、北部ガザ市で唯一、完全に機能していた病院が使用不能になった。
マーガレット・ハリス報道官はBBCに対し、病院や医療従事者への「攻撃が続いている」と説明。イスラエルによる封鎖のため、医療物資が極端に不足していると話した。
13日に空爆を受けたアル・アハリ・アラブ病院のスタッフによると、攻撃で研究施設が破壊されたほか、救急室が損傷した。直接の犠牲者は報告されていないが、治療の中断によって子供が死亡したという。
イスラエル外務省はこの攻撃について、「ハマスがテロの指揮統制センターとして使用していた単一の建物に対する精密な攻撃」で、「医療活動は行われていなかった」と述べた。
また、「早期警告」を発した上での攻撃で、攻撃は「病院施設の追加損傷を避けながら実施され、医療活動は継続された」と強調した。
イスラム組織ハマスは、この攻撃を「野蛮な犯罪」と非難し、病院を軍事目的で使用していたというイスラエル側の主張を否定した。
ガザでは1月半ばから停戦合意が発効していたが、3月にイスラエルが空中および地上作戦を再開した。イスラエルは、軍事的圧力によって、ハマスが依然として拘束している人質を解放できると主張している。
アル・アハリ・アラブ病院には13日の真夜中、ミサイル2発が撃ち込まれた。この戦争が始まって以来、同病院が攻撃されたのは5回目。
この病院は英イングランド教会によって運営されている。エルサレムの教区によると、2階建ての遺伝子研究所が破壊され、薬局と救急部門の建物も損傷した。また、聖フィリップ教会を含む周囲の建物も被害を受けた。
教区は、イスラエル軍が攻撃前に病院のスタッフと患者に20分の避難警告を出したと述べた。
攻撃による直接の犠牲者は報告されていないが、教区は、以前に頭部に負傷していた子供が、避難の混乱の中で死亡したと報告している。
その後、WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、同病院の院長から、救急室、研究施設、救急室のX線装置、薬局が「破壊された」との報告を受けたと述べた。
また、病院は50人の患者を他の病院に移さざるを得なかったが、重篤な状態の患者40人は移動できなかったことを明らかにした。
「病院は国際人道法の下で保護されている。医療への攻撃は止めなければならない。再度繰り返すが、患者、医療従事者、病院は保護されなければならない」と、テドロス氏は訴えた。
イングランド教会の司教会は13日に声明を発表し、ガザの病院が戦場となっていることに「憂慮している」と述べた。また、ハマスが病院を使っていたという主張を裏付ける「明確で説得力のある証拠」を、イスラエルがまだ提供していないと指摘した。
「この状況を踏まえ、我々はこの攻撃および病院の不正使用の疑惑に対する独立した、徹底的で透明性のある調査を求める」と、イングランド教会は述べた。
また、「病院のスタッフと患者に与えられた避難時間が極めて限られていたことは、基本的な人権と人間の尊厳に対するさらなる攻撃だ」と批判した。
援助不足が深刻化、ガザ地区内でも物資が停滞
WHOのガザ地区代表を務めるリック・ピーパーコーン氏はBBCに対し、アル・アハリ・アラブ病院が修繕を待つ間は新しい患者を受け入れることができず、これが外傷を受けた人々に「大きな影響を与える」と述べた。
「この病院はワディ・ガザ(ガザ渓谷)以北における主要な外傷専門病院で、この地域の病院で唯一、機能しているCTスキャナーを備えている」
イスラエルはワディ・ガザを「立ち入り禁止区域」とし、ガザ地区を実質的に二分している。
慈善団体「Medical Aid for Palestinians」は、アル・アハリ・アラブ病院の整形外科医の話として、残りの40人の患者に提供できる治療水準が、「宿泊施設とほぼ同じ」だと説明した。
アフメド・アルシュラファ医師は、「こうした患者は、検査、薬局の支援、合併症が発生した場合の緊急搬送を必要とするため、手術を行えない。そして、これらすべてがl最近の攻撃で完全に停止した」と述べた。
WHOのハリス報道官も「病院、医療従事者、救急隊員への攻撃が続いている。(中略) 彼らは救命に全力を尽くしているが、自分の命を失うために全力を尽くしているわけではない」と警告した。
国際赤十字委員会(ICRC)のエイドリアン・ジマーマン・ガザ支部代表は、医療物資の広範な不足が「医療サービスを必要とするガザの人々の命と健康を危険にさらしている」と警告した。
WHOのピーパーコーン氏も、イスラエルが6週間以上にわたり人道支援物資の搬入を許可していないため、物資が極端に不足していると述べた。
ピーパーコーン氏によると、WHOは直前の停戦中にいくつかの物資を倉庫に備蓄したが、イスラエル軍がガザ北部と南部の間の輸送を促進していないと付け加えた。
「先週・アル・アハリ病院の医療専門家と話をした時、複数の手術で同じ手術用ガウンと手袋を使わざるを得ないと話していた。ワディ・ガザ南部のデイル・アル・バラフにある倉庫には手術用手袋とガウンがあるのに、それを運んでこれない」、「持ってきたくても、認められていない」のだと、このスタッフは話していたのだという。
イスラエル軍は3月23日にも、南部ハンユニスのナセル病院の外科部門を攻撃。ハマスの財務責任者だったイスマイル・バルフーム氏ともう一人を殺害した。
ハマスは、バルフーム氏が以前のイスラエルの攻撃で負傷し、治療を受けていたと述べたが、軍はこれを否定。バルフーム氏が「テロ行為を行うために病院にいた」と主張した。
同日には、南部ラファで緊急救助隊員15人がイスラエル軍に射殺された。犠牲者には、パレスチナ赤新月社(PRCS)の救急隊員8人が含まれていた。隊員らは、負傷者の報告を受けて対応していた。
イスラエル軍は、部隊が「脅威を感じて発砲した」と述べ、殺害したうちの6人は「ハマスのテロリスト」だったと主張したが、証拠は示さなかった。PRCSはこの主張を否定し、イスラエルが「全面的な戦争犯罪」をおかしたと非難した。
ICRCは14日、この攻撃以来、行方不明となっていた9人目のPRCS隊員が、「イスラエルの拘束施設に収容されている」という情報を受け取ったと発表した。
停戦協議にも進展なく
今年1月に始まり2カ月間続いた停戦合意の第1段階では、ハマスは33人のイスラエル人質(うち8人は死亡)と5人のタイ人質を解放。引き換えにイスラエルは約1900人のパレスチナ人収監者を釈放し、ガザへの救援物資搬入を許可した。
しかしイスラエルはその後、ハマスが合意の第1段階の延長提案を受け入れず、拘束の続く59人(最大24人が生存するとされる)の解放を拒否したことを非難。3月18日に攻撃を再開した。
一方のハマスは、イスラエルが元の合意を反故にしたと批判した。この合意の第2段階には、すべての生存している人質が引き渡され、戦闘を恒久的に終結する内容が含まれていた。
停戦協議に詳しいパレスチナ高官によると、仲介するエジプトとの停戦合意に向けた協議は進展せず、ハマスの首席交渉官が率いる代表団は14日にカイロを後にしたという。
この高官はBBCに、「イスラエルが戦争を終わらせ、ガザ地区から撤退することを約束しなかったため、突破口は開かれなかった」と述べた。
「ハマスは進展を図るために人質の数に関して柔軟性を示したが、イスラエルは戦争を終わらせることなく人質を取り戻したいと考えている」
イスラエルは、先週末に送った最新案への回答を待っていると説明。その提案でイスラエルは、停戦延長と人道支援の搬入と引き換えに解放を要求する人質の数を、わずかに減らしたと伝えられている。
人質の家族グループ「ティクヴァ・フォーラム」は14日、ガザで拘束されているエイタン・モル氏の両親がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相から、人質10人の解放取引を政府が進めていると聞かされたと明らかにした。イスラエル政府は以前、11人または12人の解放を要求しているとされていた。
イスラエル軍は、2023年10月7日に発生した前例のない越境攻撃に対する報復として、ハマスを壊滅させるための作戦を開始した。ハマスの攻撃では約1200人が殺され、251人が人質に取られた。
一方、ハマスが運営するガザの保健省によると、イスラエルの攻撃でこれまでに5万980人以上が殺害されている。
(英語記事 Conditions at Gaza hospitals 'beyond description' after Israeli attacks, WHO says)