
トランプ米政権がメリーランド州からエルサルバドルの巨大刑務所に強制送還したキルマー・アブレゴ=ガルシア氏と、エルサルバドルで面会して帰国した米野党・民主党のクリス・ヴァン・ホレン上院議員は18日、同氏が巨大刑務所「テロ監禁センター(CECOT)」から別の刑務所に移送されたと明らかにした。米司法省や移民当局は3月末の時点で同氏の強制送還は「手違い」だったと認めており、連邦最高裁も政府に同氏の帰国を「容易」にするよう命じているものの、政権は最近では同氏がテロ組織のメンバーだと強調し、裁判所命令に応じていない。
メリーランド州選出のヴァン・ホレン上院議員は16日にエルサルバドルに到着し、アブレゴ=ガルシア氏の釈放を求めて当局にさまざまな働きかけをした末、同氏と面会している写真を17日にソーシャルメディアに投稿した。
帰国した議員は首都ワシントン近郊のダレス国際空港で会見。エルサルバドル当局は面会の要請を再三拒否、自分がCECOTに向かうと途中で武装兵に制止されたのだと説明した。在エルサルバドルのアメリカ大使館員とも会ったが、アブレゴ=ガルシア氏の解放を支援するよう米政府から指示があったかと尋ねると、そのような指示はないと知らされたのだという。
しかし17日になってエルサルバドル政府の関係者らが、アブレゴ=ガルシア氏を自分が滞在するホテルに連れてきたため、面会が実現したのだと議員は話した。
「彼は拉致されて以来、私と話をするまで、刑務所の関係者以外は誰とも話をすることができずにいた」と議員は会見で明らかにした。
「自分は罪を犯していないのに刑務所にいるのが、とても悲しいと話していた」とも、議員はアブレゴ=ガルシア氏の言葉を伝えた。
ヴァン・ホレン議員によると、アブレゴ=ガルシア氏は厳重警備のCECOTで「トラウマになるほど恐怖におびえ」、他の収監者を恐れていた。4月9日に、CECOTからエルサルバドル・サンタアナ市にある別の刑務所に移送された。そこでの状況はCECOTよりはましだと聞かされたとも述べた。
「彼は依然として外部のニュースを得ることができず、外部の誰ともコミュニケーションを取ることができない」とヴァン・ホレン議員は述べた。
議員によると、アブレゴ=ガルシア氏は9日の時点でCECOTから別の刑務所に移送されていたが、米司法省は12日の時点でメリーランド州連邦地裁に対して、同氏はCECOTにいると報告していた。同地裁は同氏の帰国を「容易」にするよう政府に命令する一環として、毎日の進捗(しんちょく)報告を義務付けている。
BBCがアメリカで提携するCBSニュースによると、複数のトランプ政権関係者がその後も、アブレゴ=ガルシア氏はCECOTにいると発言している。
「これは一人の問題ではない」と議員
ヴァン・ホレン議員は、トランプ政権が裁判所命令に逆らっていることを批判し、同政権とエルサルバドル政府が、アブレゴ=ガルシア氏の違法な拘束について責任を負うべきだと主張した。
「これは一人の男性だけの問題ではない。それ自体もきわめて大事なことだが」と議員は前置きし、「これはいかに基本的な自由を守り、アメリカに住む全員を守る適正手続きを保障する、憲法に定められている基本的な原則をいかに守るかという問題だ」と強調した。
議員はさらに、トランプ政権は「本件が何に関する問題なのか、うそをつきまくろうとしている」と非難。「アブレゴ=ガルシアについて何か言いたいことがあるなら、それはソーシャルメディアではなく、裁判所に証拠を提出すべきだ」として、適正な裁判手続きを求めた。
なぜエルサルバドル政府が最終的に面会を許したと思うか記者団に質問されると「彼らは圧力を感じていた」と議員は答え、自分がエルサルバドル滞在中に大きな記者会見が2回あったと説明。自分の面会を拒否し続けることは「見栄えが良くないと判断した」のだろうとも話した。面会の手配にホワイトハウスは関与していないと思うとも述べた。
「目立ちたがり屋」とトランプ氏は非難
ヴァン・ホレン上院議員が、アブレゴ=ガルシア氏との面会をソーシャルメディアで発表後、ドナルド・トランプ大統領は、議員を「愚か者」と非難した。
大統領は自分のソーシャルメディアで、上院議員について「フェイクニュース・メディアでも誰でもいいから、注目されたくて必死な」「目立ちたがり屋」だとも書いていた。
トランプ氏はさらに18日、上院議員の記者会見より前にホワイトハウスで、アブレゴ=ガルシア氏がエルサルバドルの国際テロ組織MS-13のメンバーだという主張を繰り返し、「あまり無実の奴ではない」と述べた。
大統領は国務省作成だという文書を読み上げ、アブレゴ=ガルシア氏がギャングに関与したという疑いや、テネシー州で2022年に交通違反があったと述べた。
アブレゴ=ガルシア氏の妻が2021年に家庭内暴力を理由に接近禁止命令を請求していたことを、これまで政権関係者が指摘しており、それについてもトランプ氏は繰り返した。
「民主党はこういう男を、エルサルバドルからアメリカに戻して、アメリカという家族の一員として幸せに暮らさせようとしている」と大統領は述べた。
アブレゴ=ガルシア氏の妻ジェニファー・バスケス=スラ氏はこれに先立ち声明で、当時の自分は慎重を期して命令を求めたのだとして、家族としてカウンセリングを通じて問題を解決できたと説明している。
連邦最高裁を含め複数の裁判所が、アブレゴ=ガルシア氏の帰国について便宜を図るよう政権に命じているが、トランプ政権は再三、同氏は「絶対に」アメリカに戻らないと反発している。
ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は17日の記者会見で、「もし彼がまたアメリカに舞い戻ってくることがあるなら、即座に再び国外追放される」と表明した。
これまでの経緯
3月12日 米移民・関税執行局(ICE)が、アブレゴ=ガルシア氏をメリーランド州ボルティモアで拘束
3月15日 アブレゴ=ガルシア氏、移送先のテキサス州からエルサルバドルへ国外追。CECOTに収監される。
3月24日 アブレゴ=ガルシア氏の妻、ジェニファー・バスケス=スラ氏がアメリカ政府を提訴
3月31日 ICEの現場担当者が宣誓供述書で、司法省が裁判所提出資料でそれぞれ、アブレゴ=ガルシア氏の国外追放が「行政上のミス」だと認める
4月4日 メリーランド州のジニス連邦地裁判事、バスケス=スラ氏の請求を支持し、政府にアブレゴ=ガルシア氏の帰国を「容易にし、実現する」よう命じる
(英語記事 Live page / US senator says 'traumatised' man deported to El Salvador moved to new prison)