
アメリカの連邦最高裁判所は19日、トランプ政権に対し、南米ヴェネズエラのギャングの一員とされる人々の強制移送を一時停止するよう命じた。人権団体「アメリカ自由人権協会(ACLU)」は、テキサス州で拘束中の男性たちに異議申し立ての機会が与えられていないとして、移送停止を求めて提訴していた。
トランプ政権が1798年の法律「敵性外国人法」を適用し、ヴェネズエラからの移民を拘束してエルサルバドルに追放しようとする動きについて、ワシントンの連邦地裁は3月15日にこの措置の一時差し止めを命じた。続いて最高裁判所は4月7日に、政権は同法をもとにギャングとされる人たちを国外追放できるとの判断を初めて下したものの、その対象者には、自分の追放について異議申し立ての機会を与えなくてはならないとしていた。
最高裁が強制移送の一時停止を19日に命じるに至った訴訟では、テキサス州北部で拘束中のヴェネズエラ人は英語で移送通知を受け取ったものの、スペイン語しか話さない人がその中に1人いたと原告のACLUは主張している。
ACLUはさらに、裁判で異議を申し立てる権利があることを男性たちは知らされていなかったとも指摘している。
訴状でACLUは、「この裁判所の介入がなければ、原告の数十人または数百人が、自分が追放対象に指定されても、あるいは追放されても、異議を申し立てる実際の機会もなく、エルサルバドルに送られて終身刑に処せられる可能性がある」と指摘していた。
19日の最高裁判断について、同裁のクラレンス・トーマス判事とサミュエル・アリート判事の2人が反対意見を表明した。
ドナルド・トランプ大統領は、ヴェネズエラのギャング組織「トレン・デ・アラグア」がアメリカ領土への侵略や略奪的侵入を「実行し、試み、脅迫している」と非難している。1月の就任演説でトランプ氏は、「アメリカの領土に壊滅的な犯罪をもたらす全ての外国ギャングと犯罪ネットワークを排除する」と誓っていた。
トランプ政権がその政策推進のため適用している「敵性外国人法」は、通常の適正手続きを経ずに「敵対国」の出身者や市民を拘束し、国外追放する権限を大統領に与えるもの。同法は1798年に成立以降、戦時中に3回しか使われたことがなく、第2次世界大戦中に米政府が日系人を裁判なしで投獄し、数千人を収容所に送ったのが、今年に入るまでは適用の最後だった。
ホワイトハウスは、この法律の適用に対する異議申し立てを「根拠のない訴訟」と呼んでいる。キャロライン・レヴィット報道官はソーシャルメディア「X」に、「我々は政権の行動の合法性に自信を持っており、アメリカ国民の権利よりもテロリストの外国人の権利を重視するような、過激な活動家が提起した根拠のない訴訟の猛攻に最終的に勝利すると確信している」と書いた。
BBCがアメリカで提携するCBSニュースは米政府高官の話として、4月8日時点でエルサルバドルに送られたヴェネズエラ人261人のうち、137人が「敵性外国人法」の対象だったと報じた。
今年1月に就任して以来、トランプ氏の強硬な移民政策について法廷闘争が相次いでいる。
最近では、メリーランド州からエルサルバドルの巨大刑務所に強制送還したキルマー・アブレゴ=ガルシア氏のケースが注目されている。
米司法省や移民当局は3月末の時点で、アブレゴ=ガルシア氏の強制送還は「手違い」だったと認めたが、ホワイトハウスは同氏がギャング組織「MS-13」メンバーだと主張している。アブレゴ=ガルシア氏の弁護士と家族はこれを否定している。アブレゴ=ガルシア氏は犯罪で有罪判決を受けたことはない。
連邦最高裁も全会一致で政府に同氏の帰国を「容易」にするよう命じているものの、ホワイトハウスは同氏が「二度と」アメリカに住むことはないと述べている。
メリーランド州選出のクリス・ヴァン・ホレン連邦上院議員(民主党)は18日、エルサルバドルでアブレゴ=ガルシア氏と面会。同氏が悪名高い巨大刑務所「テロ監禁センター(CECOT)」から別の刑務所に移送されたと明らかにした。
(英語記事 US Supreme Court halts deportation of detained Venezuelans)