
カナダで28日、議会下院(定数343)総選挙の投開票が行われ、マーク・カーニー首相(60)率いる与党・自由党が勝利し、同首相が引き続き政権を担う見通しとなった。自由党は数カ月前まで支持率低下に悩み、総選挙では最大野党・保守党に敗れることが確実視されていたが、アメリカでドナルド・トランプ政権が誕生したのを受け、有権者はカーニー氏の「反トランプ」姿勢を支持したとみられる。
カナダ選挙管理当局によると、開票率99%の時点で、自由党が169議席を獲得する見通し。保守党は144議席を確保したとみられている。
ケベック州だけで候補者を擁立しているブロック・ケベコワ(ケベック連合)が22議席、新民主党(NDP)が7議席、緑の党が1議席を、それぞれ獲得する見込みとなっている。
自由党が単独政権をつくるには過半数の172議席が必要。カナダの公共放送局CBCは、自由党の議席は過半数に届かない見通しだと伝えた。
自由党と保守党は共に、4年前の総選挙と比べて得票率を大きく伸ばした。一方、NDPは12%ポイント近く下がった。
一時は次の首相候補と言われていた保守党のピエール・ポワリエーヴル党首は、議席を失うことが確実となった。NDPのジャグミート・シン党首も、議席を保持できなかった。
今回の選挙では、トランプ米大統領への対応が主な争点となった。トランプ氏は、カナダがアメリカの51番目の州になるべきだと繰り返し主張。カナダに対して25%という高率関税を課した。
開票が進み、自由党の勝利が確実になると、カーニー氏は支持者らを前に演説。「トランプ大統領は、アメリカが私たちを所有できるよう、私たちを壊そうとした。それは絶対に起こらない」と述べた。
また、「これまでのアメリカとの統合関係は終わった」、「私たちはアメリカの裏切りによるショックを乗り越えた。互いをいたわることが必要だ」とした。
カナダでは年明けに、自由党の支持率低迷などを受け、同党を9年間率いてきたジャスティン・トルドー前首相が退陣を表明。カーニー氏が後任となった。
この時点では、次の総選挙ではポワリエーヴル党首率いる保守党の圧勝が確実視されていた。
だが、カーニー氏がトランプ氏を厳しく批判すると、自由党の支持率はじわじわ回復。今回の選挙での驚異的な勝利につながった。
カナダ銀行や英イングランド銀行の総裁を務めたカーニー氏はこれまで、カナダ議会で議員を務めたことがなかったが、今回、オタワ近郊のネピアンから立候補。CBCニュースによると、当選する見込みとなった。
また、自由党は、30年近く維持した末に、昨年の補欠選挙で保守党に議席を奪われたトロント=セント・ポール地区で、議席を奪還する見通し。
オタワの自由党本部では、CBCの勝利予想が発表されると、人々が大きな笑みを浮かべた。
さらに、ネピアンやトロント=セント・ポールでの当選見通しが出ると、そのたびに大きな歓声が上がった。
トルドー氏が3月に辞任した後、カーニー氏が首相となってからまだ2カ月足らずだ。
カーニー氏はこれまで政治職に就いたことがなかった。しかし、トランプ氏の貿易戦争に対抗することで、現状を有利に利用した。
カーニー氏は選挙戦などで、トランプ氏に立ち向かうことを約束し、現在進行中の貿易戦争に勝利し、カナダ経済を維持することが最大の使命だと述べた。
「これらは暗い日々だ」、「もはや信頼できない国によってもたらされた暗い日々だ」と、カーニー氏は語っていた。
また、環境の持続可能性などの問題を掲げて選挙運動を行ったほか、就任初週に炭素税を廃止し、パイプライン建設の推進を約束するなど、トルドー氏よりも穏健なアプローチを取った。
さらに、合成麻薬フェンタニルや移民がカナダからのアメリカに流入しているとするトランプ氏の懸念をふまえ、「国境を守る」と宣言。そのほか、連邦政府の規模の制限や、カナダ国内の貿易の自由化を約束した。
トロントで取材するジェシカ・マーフィー記者は、支持率が低迷していたトルドー氏の辞任が、自由党にとって最初の転機となったと説明。自由党は過去数カ月間、支持率で保守党に約20ポイントの差をつけられていた。
しかし、トランプ氏がホワイトハウスに復帰したことで、選挙の争点は自由党の過去の実績から、経済の嵐の中でカナダを導く最良の指導者は誰かに変わった。
カーニー氏とそのチームはこの状況を利用し、トランプ氏に焦点を当てたメッセージを発信したと、マーフィー記者は述べた。
(英語記事 Mark Carney's Liberal Party projected to win Canadian election)