2025年5月23日(金)

BBC News

2025年4月30日

カナダのマーク・カーニー首相

ファイサル・イスラム経済編集長

マーク・カーニー氏がカナダ首相として総選挙に臨んだ。その結果の世界的な意義は、彼が今や、世界経済の新たな選択肢となる考え方の中心にいるということだ。その考え方とは、「トランプ以外なら何でも」というものだ。

カーニー氏については、総選挙で投票が締め切られた瞬間、アメリカのドナルド・トランプ大統領と和平を探るだろうとの見方もあった。しかし、それは見事に裏切られた。

選挙期間の最終盤、オタワでの勝利演説、そして私とのインタビューのいずれにおいても、彼は明確に、これまでの対応を続ける考えを示した。結果的に、その対応が彼に首相続投をもたらした。もし与党・自由党が単独で過半数議席を獲得できなかったとしても、主要2野党の党首はともに議席を失っており、各党が対アメリカの問題に関し、ある程度「統一カナダ」でまとまる可能性が高い。

カーニー氏の対応の根底にあるのは、アメリカが過ちを犯しており、このさきアメリカそのものとアメリカの企業や消費者に目に見えて悪影響が及ぶという、絶対的な確信だ。米ホワイトハウスがアマゾンを、商品価格の関税分を明示するのは「敵対的行為」だとして攻撃しているのは、そのいい例といえるだろう。トランプ大統領は自分の足に銃を向けている――というのが、カーニー氏の考えなのだ。

トランプ氏にとって「最も熟練した敵」

カーニー氏と強く敵対しているジョーダン・ピーターソン氏は最近、「カーニーが当選すれば、トランプは西側において、最も熟練した敵をもつことになるだろう。カーニーは人脈がとても広く、ヨーロッパとイギリスでは特にそうだ」と、ジョー・ローガン氏のポッドキャスト番組で嘆いた。

「敵」というのは言い過ぎだろうが、ピーターソン氏は正しい。加えて、カーニー氏は、市場とメディア報道の関係もよく理解している。彼は首相になってから、米戦闘機の購入の見直しや、米国債の購入の小幅な変更など、いくつかの方針を発表した。それらはすべて、アメリカの一部の人々の心を素早く捉えるようなものだった。

カナダの輸出の4分の3はアメリカに向けたもので、トランプ政権の関税措置がカナダ経済にもたらし得るダメージは大きい。それは逃れられない事実だ。

カーニー氏が選挙期間中に示した答えは、アメリカが変わったということを受け入れ、カナダとして多角化するということだった。それが進んでいけば、アメリカの企業、議会、政権内勢力が、関税を後退させる可能性は高まるかもしれない。

カーニー氏は、ホワイトハウスやマール・ア・ラーゴ(トランプ氏の私邸)を急いで訪れるつもりはないと、私にはっきりと言った。

「自分たちの条件で(アメリカと)パートナー関係をつくる。ウィンウィンとなる可能性はあるが、自分たちの条件によるものであって、向こうの条件ではない」と、カーニー氏は話した

重要なのは、別の新たな戦略的同盟関係を築くということだ。その相手はヨーロッパであり、イギリスである。カーニー氏は、カナダとイギリスが、停滞している自由貿易協定を結ぶことも「考えられる」と述べた。防衛やカナダの豊富な重要鉱物資源に関する協力も、検討項目となっている。彼はまた、トランプ大統領の領土的野心も退けた。カナダだけでなく、グリーンランドやパナマについても、米領になるのはあり得ないとした。

カーニー氏は地元エドモントンでの選挙集会で、「世界経済でアメリカがリーダーシップを取るのは終わった」とし、それは「悲劇」だと述べた。彼は暗に、アメリカ以外の主要7カ国(G7)の助けを借りて、自分がリーダーになると言っているのだ。

そして、信じられないような運命のめぐり合わせによって、6月にカナダ・アルバータ州でG7サミット(首脳会議)が開かれ、彼がホスト役を務める。トランプ大統領の「相互」関税の一時停止が切れる、ほんの数日前のことだ。トランプ氏は、関税をかけ、自分の領土にしたがっている国でのサミットに、出席するのだろうか?

6月中旬、すべての道はのカナナスキスに通じている。

(英語記事 Faisal Islam: Carney wants to lead a G7 fightback on Trump tariffs

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/ckg2v6pz411o


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