
オーストラリアで3日、総選挙が実施される。生活費の上昇や「トランプ関税」への対応、現在禁止されている原発の導入などが争点。アンソニー・アルバニージー首相率いる与党・労働党と、野党勢力・保守連合の接戦になるとみられている。
下院の全150議席と、上院76議席のうちの40議席を各党が争う。単独で政権を樹立するには、下院で76議席以上を獲得する必要がある。
労働党が勝利すれば、アルバニージー首相が引き続き政権を担う。一方、保守連合(自由党と国民党で構成)が勝てば、3年ぶりに政権を奪還し、ピーター・ダットン自由党党首が新首相になる見込み。
世論調査では、接戦が予想されている。どちらが第1党になっても過半数に届かず、政権樹立のために無所属議員や小政党と組まなくてはならない可能性があるともされている。
多くの有権者にとって、最大の関心事は生活費の上昇だ。2022年の前回総選挙以降、食品や光熱費など日々の暮らしに関わる価格がインフレによって押し上げられ、多くの家計が苦しんでいる。
アルバニージー政権は、薬価の抑制や減税、光熱費や家賃の補助など、これまでに支援策を次々と実施している。一方、保守連合も、生活費にかかる税金の1回限りの埋め合わせ措置を公約に掲げるなどしている。
アメリカのドナルド・トランプ大統領が打ち出している関税や米中の貿易戦争などのグローバルな課題も、投票先を決める材料になる。オーストラリアは、他の多くの国と同様、アメリカと緊密な戦略的同盟関係を結びながら、中国とも密接な貿易関係を保っている。新政権は、これまでとまったく異なる、予測不能な世界秩序に対処することになる。
4月の党首討論でアルバニージー氏は、「オーストラリアにとってより良い合意を求めて、アメリカとの交渉を続けていく。相互関税はもちろんゼロとなる。オーストラリアは米製品に関税を課していないからだ」と主張した。これに対しダットン氏は、第1次トランプ政権との交渉に上級閣僚として当たった自らの経験をアピール。自分こそがホワイトハウスから譲歩を引き出すのに適した人物だと訴えた。
原発導入も
現在は法律で禁止されている原発も、争点の一つとなっている。ダットン氏率いる保守連合は、温室効果ガスの排出を削減し、新たな雇用を生み出し、自然エネルギーより安価な電力を供給するとして、原子炉7基の建設を公約している。
オーストラリア国民は長く、身近に原子力関連施設ができることへの不安から、原発を根強く嫌ってきた。しかし、自然エネルギーを補完する信頼できる選択肢として、保守連合が原発を打ち出したことで、国民の関心は高まっている。
もし保守連合が勝利すれば、1990年代後半から連邦レベルで続く原発の禁止を、議会で覆せるかもしれない。ただ、原発建設の候補地とされている5州のうち4州のトップは、建設に真っ向から反対しており、各州独自の原発禁止は簡単には廃止できそうにない。
世論調査では、原発への賛成は40%前後で推移しており、残りは賛否を決め切れていないか反対が占めている。
2022年5月の前回総選挙では、労働党が過半数議席を獲得して保守連合を破り、9年ぶりとなる政権交代を果たした。現在の下院勢力は、労働党78議席、保守連合57議席。
先住民についてはほぼ触れず
アルバニージー氏は前回、労働党の勝利が確実になった直後の演説で、先住民族アボリジニやトレス海峡諸島民について触れ、政治的権利を拡大する計画をめぐる国民投票を実施すると表明した。
国民投票は2023年10月に実施されたが、先住民をオーストラリアの「ファースト・ネイション(最初の人々)」として承認し、政府に政策提言するための機関を創設するという政府案は、全6州が反対するという結果となった。
今回の選挙戦では、アルバニージー氏もダットン氏も、ファースト・ネイションの問題についてほとんど発言していない。専門家や先住民の権利擁護者らは、あまりに分裂を招きやすい問題のため、選挙ではリスクが大きいと多くの人が考えているためだとしている。
(英語記事 When is the Australian election and who could be prime minister?/Albanese and Dutton face-off in first Australia election debate/Nuclear v renewables: The coal mining town caught in Australia's climate wars/Australia's last vote was all about Indigenous people - now they say it's 'silence')