
ドイツの連邦憲法擁護庁は2日、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を右翼過激派に指定した。この決定については、トランプ米政権の幹部から「偽装された専制」だなどの批判が出ている。
ドイツ連邦憲法擁護庁は声明で、「同党内の主流派による、民族性や祖先に基づく理解は、自由民主主義の秩序と相容れない」と述べた。
同庁はさらに、AfDが「特定の人口集団を社会への平等な参加から排除することを目指している」と指摘。特に、「イスラム教が主要の諸国」から移住してきた背景を持つ市民を、ドイツ国民の平等な一員と見なしていないと批判した。
AfDはすでに過激主義の疑いで監視下に置かれており、情報当局は、支持率が最も高い東部の3州で、同党を右翼過激派に分類している。
AfDの共同党首を務めるアリス・ヴァイデル氏とティノ・クルパラ氏は、この決定が「明らかに政治的動機によるもので、ドイツの民主主義に対する重大な打撃だ」と述べた。両者は、政権交代直前に党が「信用を失墜させられ、犯罪化されている」と主張した。
シュテファン・ブランドナー副党首は、この決定は「完全なナンセンスで、法と秩序とは全く無縁だ」と述べた。
一方、ナンシー・フェイザー内相代行は、当局が「政治的影響を一切受けずに」1100ページに及ぶ包括的な評価と報告書を経て、明確かつ明白な決定を下したと述べた。
連邦議会のアンドレア・リンドホルツ副議長は、AfDが右翼過激派として指定されたため、特に議会では他の政党と同じように扱われるべきではないと述べた。
また、同党は多くの議席を持っているため、議会委員会の議長に選ばれる資格があるかもしれないが、リンドホルツ氏はその考えは「ほぼ考えられない」と述べた
AfDは2月の選挙で第2党となり、630議席の議会で過去最多の152議席を獲得した。
しかし、第1党の中道右派「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」は4月、第3党となった中道左派の社会民主党(SPD)との連立合意に達した。議会は週明けにも、CDUのフリードリヒ・メルツ党首を首相として承認する議決を行う予定だ。
ドイツ政界には長年、極右勢力とは協力しないという暗黙の了解があり、これは「ファイアウォール(防火壁)」と呼ばれている。
しかし選挙での成功を受け、AfDの幹部らはこのファイアウォールを終わらせるべきだと主張している。クルプララ共同党首は、「ファイアウォールを築く者は、その背後で焼かれることになる」と語った。
AfDはいくつかのスキャンダルにもかかわらず、4年足らずで得票率を倍増させ、支持率調査でもCDUに次ぐ2位を維持している。スキャンダルには、同党の著名政治家がナチスのスローガンを使用した罪で罰金を科せられた件などが含まれている。
今年初めにはヴァイデル共同党首が「再移住」という言葉を使うようになったが、これは移民の背景を持つ人々の大量追放を意味すると広く見なされている。ヴァイデル氏はそういう意味で使っているのではないと主張している。
トランプ政権がAfDを擁護、独外務省が反発
AfDはアメリカのトランプ政権にも支持されている。
連邦選挙の9日前、アメリカのJ・D・ヴァンス副大統領はミュンヘンでヴァイデル氏と会談し、「ファイアウォールの存在は不要だ」と述べ、欧州では言論の自由が後退していると主張した。
大統領顧問を務める富豪のイーロン・マスク氏も、所有するソーシャルメディア「X」の配信機能を使ってヴァイデル氏と対談し、ドイツ国民にAfDへの投票を呼びかけた。その後、選挙に向けて繰り返し、AfDへの支持を投稿した。
マスク氏は2日にXで、「中道のAfD」を禁止することは「民主主義に対する極端な攻撃」だと主張し、同党をドイツで最も人気のある政党と呼んだ。
ヴァンス米副大統領も同日、連邦憲法擁護庁の決定を受け、「AfDはドイツで最も人気のある政党で、どの党よりもはるかに東ドイツをよく代表している。しかし、官僚たちはそれを今、破壊しようとしている」とソーシャルメディアに投稿した。
また、「西側諸国はかつて一緒になって、ベルリンの壁を取り壊した。その壁が今や再建された。ソヴィエトやロシア人によってではなく、ドイツ主流派によって」と批判した。
ベルリンの壁は冷戦中の1961年に建設され、30年近くにわたって東西ベルリンを分断していた。
マルコ・ルビオ米国務長官も、連邦憲法擁護庁の決定によって同庁に「野党を監視する新たな権限が与えられた。これは民主主義ではなく、偽装された専制だ」と述べた。
これに対しドイツ外務省のXの公式アカウントは、「これが民主主義だ」と、ルビオ氏に直接返信する異例の形で反論した。
外務省は、この決定が「徹底的かつ独立した調査」の後に行われたもので、裁判所で争うことも可能だと説明。
また、「右翼過激主義は制止しなくてはならないのだと、我々は自分たちの歴史から学んだ」と、言外にナチス政権とホロコーストを踏まえた形で述べた。
AfDは禁止されるのか
国内の情報機関として機能している連邦憲法擁護庁は、ドイツの「自由民主的基本秩序」を確保する役割の一環として、防諜とテロ脅威の調査を担当している。
AfDに対する指定は裁判で争われると予想されるものの、今回の指定により、当局がAfDを監視する際に情報提供者や監視を利用するためのハードルが下がる可能性がある。
また、ドイツの一部の政治家は、今回の指定がAfDの禁止につながるべきだと述べている。
ナチス政権崩壊から4年後の1949年に採択されたドイツ憲法「基本法」によると、「ドイツの自由民主的基本秩序の機能を意図的に弱体化させる」政党は、「戦闘的かつ攻撃的な方法で」行動する場合、禁止される可能性がある。
国内情報機関は、政党の禁止を推進することはできない。こうした手続きは、連邦議会両院、政府、または憲法裁判所を通じてのみ行うことができる。今回の決定は、こうした機関にその手続き開始を促す可能性がある。
第2次世界大戦後、憲法裁判所が政党を禁止したのは1950年代の2件のみ。
現職のオラフ・ショルツ首相は、決定を急がないよう警告している。一方、左派党のハイディ・ライヒンネック党首は、「右翼過激派だと証明された政党が、この国の民主主義と争い、民主主義を国内から破壊するなど受け入れられない」と述べた。
SPDの共同党首で、次期政府で副首相兼財務相になる予定のラース・クリングバイル氏は、急いで決定を下すことはないが、政府はAfDの禁止を検討すると述べた。
クリングバイル氏は独紙ビルトに対し、「AfDは、違う国を望んでいる。我々の民主主義を破壊しようとしている。私たちはそのことを、きわめて真剣に受け止めなくてはならない」と話した。
(英語記事 AfD classified as extreme-right by German intelligence/ Germany defends AfD extremist classification after Rubio slams 'tyranny in disguise')