
ルーマニアで4日、やり直しの大統領選挙の第1回投票が実施され、極右政党「ルーマニア人統一同盟(AUR)」を率いるジョルジェ・シミオン氏が40%超の得票率で首位となった。これを受け、与党・社会民主党のイオン=マルチェル・チョラク首相は5日、辞任を表明した。また、同党が親欧州の連立政権から離脱するとした。
ルーマニア第一主義を公約に掲げる、欧州懐疑派のシミオン氏は4日、やり直しの大統領選挙の第1回投票で40.9%の票を獲得。18日の決選投票でも勝利が予想されている。
決選投票では、第1回投票で社会民主党の候補を僅差で破った、リベラル派のブカレスト市長ニクショル・ダン氏と対決する。
ルーマニアは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の中で東側の最前線に位置する。4日の開票結果は、そのルーマニアをさらなる政治的混乱に陥れた。チョラク首相は連立政権がその目的を果たせず、「正当性がない」ため、政権から手を引くべきだと同僚らに語った。
シミオン氏が今回首位に立った大きな要因は、ルーマニアの憲法裁判所が、昨年11月に行われた大統領選の第1回投票を無効としたことへの民衆の不満だ。シミオン氏は決選投票で勝利すると予想されており、欧州各国だけでなくウクライナの政府も、その行方に神経をとがらせている。
シミオン氏はかねてから、強固な主権国家からなる欧州連合(EU)を望んでいると述べている。同氏率いる極右政党AURは、ロシアによる侵攻が続くウクライナへの武器供与に反対している。
チョラク首相は今後、イリエ・ボロジャン暫定大統領に辞表を提出し、ボロジャン氏が暫定首相を任命するとみられる。
「ルーマニアは、マルチェル・チョラク氏の辞任後、最大45日間の政治的不安定に直面する」と、同国の独立監視団体「ファンキー・シチズンズ」のエレナ・カリストル氏は警告している。
「ルーマニアが安定したリーダーシップを最も必要としている時に、これは危険な権力の真空を生み出すことになる」
連立政権は失敗に終わったと
チョラク首相は連立を組む3党について、統一候補の擁立と、議会の過半数獲得を目指して集まったのだと、同僚らに語った。
「二つの目的の一つは失敗に終わった」とし、「4日の投票結果を見て、現在の連立政権には、このようなかたちではもはや正当性はないことを物語っていると感じた」と述べた。
「いずれにせよ、新大統領は私にとって代わるはずだ。そうなると、メディアが報じているのを見聞きしている。新しい連立政権が樹立されるだろう」
連立を組むリベラル政党・国民自由党のカタリン・プレドィウ党首は、「現在の課題に対処できる」首相を探していると述べた。
一方、ブカレストの北東に位置するブザウの市長(社会民主党)は、社会民主党党首のチョラク氏を厳しく批判。「我々は恥をかいた。それは指導部の長きにわたるお粗末な判断のせいでもある」とした。
シミオン氏とは
シミオン氏はアメリカのドナルド・トランプ大統領を称賛する立場を示してきた人物。
昨年11月の大統領選挙の第1回投票で勝利した極右のカリン・ジョルジェスク氏が、やり直し選挙への立候補が禁止されたことで、シミオン氏は大統領選挙の最有力候補に躍り出た。
ジョルジェスク氏は、北大西洋条約機構(NATO)懐疑派で、過去にロシアのウラジーミル・プーチン大統領を称賛したことがある。第1回投票は、ソーシャルメディアでの国外発の大規模な影響工作があったとされ、憲法裁が無効とした。
シミオン氏は4日、ジョルジェスク氏と並んで投票。有権者に対し、選挙は「うそをつかれ、無視され、辱めを受け、それでもなお自分たちのアイデンティティーと権利を信じて守る強さを持ち続ける、すべてのルーマニア人のものだ」と語った。
シミオン氏はルーマニアの領土を、かつての範囲(現在のモルドヴァやウクライナが含まれる)にまで拡大することを提唱している。同氏は現在、モルドヴァとウクライナへの入国を禁止されている。
政治アナリストのラドゥ・アルブ=コマネスク氏は、4日の投票結果は「現在の政治体制に対する敵意の過激な現れ」だと、ルーマニアの公共ラジオに語った。
シミオン氏は今回、外国に移住した有権者から特に支持され、スペインでは73%超、イギリスでは65%近くの支持を集めた。
ウクライナ難民に対するルーマニアの財政支援に対する国民の憤りは、シミオン氏の選挙運動の中心になっているが、同氏は自分は親ロシア派ではないとしている。
「ロシアはルーマニア、ポーランド、バルト三国にとって最大の脅威であり、この戦争がどこにも拡大しないかどうかが問題だ」と、シミオン氏はBBCに語った。
決選投票で対決するシミオン氏とダン氏はともに、現体制反対派の候補として立場を確立しているが、掲げている解決策は大きく異なる。前出のカリストル氏は、ルーマニアは注目すべき政治的転換期を迎えていると指摘する。
「反体制的な感情が必然的に反欧州的な立場に結びつくのか。それとも、ルーマニアが変革への願望を、建設的な民主的刷新へと導くことができるのか。選挙結果で明らかになるだろう」と、カリストル氏はBBCに語った。
(英語記事 Romanian PM resigns and pulls out of coalition after nationalist vote win)