
バーンド・デブスマン・ジュニア(米ホワイトハウス)
カナダのマーク・カーニー新首相は6日、米ホワイトハウスでドナルド・トランプ大統領と会談した。トランプ大統領がカナダをアメリカの51番目の州とする可能性に言及すると、カーニー首相はカナダは「売り物ではない」と答えた。
カーニー氏は4月の総選挙で、「トランプ氏に立ち向かう」ことを公約に掲げて与党・自由党を勝利に導いた。トランプ氏は一部のカナダ製品に関税を課すなど、両国関係に緊張をもたらしてきた。また、カナダの併合についても繰り返し言及している。
かつてカナダとイギリスの中央銀行の総裁を務めたカーニー氏は、トランプ氏が「素晴らしい結婚」と表現した提案に対し、冷静ながらも毅然とした態度で応じた。
かつては緊密だった両国関係に軋轢(あつれき)が生じているものの、今回の大統領執務室での会談はおおむね友好的な雰囲気で進み、両首脳は互いに称賛の言葉を交わした。
トランプ氏は隣国のカナダとメキシコに対し、25%の一律関税に加え、自動車など特定分野の輸入品に個別の課税措置も導入している。一部の関税は現在、交渉の進展を見据えて一時的に停止されている。
トランプ氏はカナダからの鉄鋼やアルミニウムにも同様の関税を課している。トランプ氏はまた、合成麻薬フェンタニルのアメリカへの流入阻止に、カナダが十分に取り組んでいないと非難している。
両首脳が顔を合わせたのは、カーニー氏が4月28日のカナダ総選挙で勝利して以来初めて。この選挙結果は、カナダ国内で高まるトランプ氏への懸念が背景にあるとする見方も多い。
それでも会談の冒頭、両首脳は互いに温かい言葉を交わした。トランプ氏はカーニー氏を「非常に才能ある人物」と評し、今回の選挙勝利について「政治史上、最も偉大なカムバックの一つ。もしかすると自分のそれ以上かもしれない」と称賛した。
これに対しカーニー氏は、トランプ氏を「変革をもたらした大統領」と表現し、「アメリカの労働者、国境、そして世界の安全保障に対する揺るぎない姿勢」を評価した。また、北大西洋条約機構(NATO)を「再活性化させた」とも述べた。
しかし、トランプ氏が再び「カナダはアメリカの一部になった方が良い」と主張すると、両者の間に緊張が走った。
カーニー氏はこの発言に備え、慎重に練られた言葉で応じた。
「不動産の世界でも、決して売りに出されない場所があることはご存じのはずだ」と、不動産王として知られるトランプ氏に語りかけ、カナダを大統領執務室やイギリスのバッキンガム宮殿になぞらえた。
そして「この数カ月間の選挙活動を通じて、カナダの『所有者』たちと会ってきたが、カナダは売り物ではない。これからも決して売りに出されることはないだろう」と断言した。
これに対しトランプ氏は、「『決して』とは決して言えない」と返した。
関税には強硬姿勢
記者から「カーニー氏が関税撤廃を説得できる可能性はあるか」と問われたトランプ氏は、「ない。それが現実だ」と述べ、関税政策に対する強硬姿勢を崩さなかった。
そのうえで、「これは非常に友好的な会話だった」としつつも、「我々は自分たちの車を作りたいのだ」と語り、国内産業保護の方針をあらためて強調した。
トランプ氏はさらに、アメリカがカナダの軍事を事実上支援していると主張。カナダからのアルミニウムや鉄鋼といった製品は必要ないとも述べた。
また、今回の会談では「難しい論点」についても議論するとしながら、「何があってもカナダとは友人であり続ける」と語った。
一方で、対立的な関係だったカナダのジャスティン・トルドー前首相については批判した。
それでも今回の会談については、2月に行われたウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との「大混乱」となった会談とは対照的だったと述べ、カーニー氏とのやり取りが穏やかだったと強調した。
貿易協定の行方は
今回、トランプ氏は貿易協定の締結について慎重な姿勢を示した。トランプ政権はこれまで、80カ国以上がアメリカとの交渉を希望していると主張し、それを外交成果として強調してきた。
「みんなが『いつ、いつ、いつ協定に署名するんだ?』と言ってくる」とトランプ氏は語り、「だが、我々が署名する必要はない。彼らが我々と署名したがっている。我々の市場の一部を欲しがっているが、我々は彼らの市場を欲していない」と述べた。
一方のカーニー氏は、関税撤廃についてトランプ氏に「強く訴えた」と述べ、大統領が「その交渉に応じる意思を示した」と明かした。
米ワシントンのカナダ大使館で行われた記者会見でカーニー氏は、「それが最も重要な点だと思う。交渉の結果を前提とするものではない」と述べた。「紆余(うよ)曲折があるだろうし、困難な側面もあるだろう。しかし、可能性はある」。
交渉の時期については明言を避けたが、カーニー氏は、両首脳およびそれぞれのチームが今後数週間のうちに再び協議を行う予定だと述べた。
さらにカーニー氏は、トランプ氏に対し、カナダをアメリカの州にするよう求める発言をやめるよう、あらためて要請したと明かした。そのうえで、「願望と現実は区別すべきだ」と強調した。
「彼は大統領であり、自らの考えを持っている」
「我々が主権国家同士の交渉を行っていることを、彼も理解している」
総選挙の選挙活動で、カーニー氏はトランプ氏による「裏切り」に対抗できるのは自分だと訴え、アメリカからの経済的・主権的な圧力に立ち向かう姿勢を前面に出していた。
勝利演説では、これまで緊密だった米加関係は「終わった」とまで言及し、トランプ時代においてカナダは「経済のあり方を根本的に再構築しなければならない」と訴えた。
昨年、カナダとアメリカの間では7600億ドル(約108兆9000億円)相当を超える物品が取引された。カナダはアメリカにとって、メキシコに次ぐ第2の貿易相手国であり、アメリカ製品にとっては最大の輸出市場となっている。
(英語記事 Carney tells Trump that Canada 'won't be for sale, ever')