
イスラム組織ハマスの高官は6日、イスラエルがパレスチナ・ガザ地区で「飢餓戦争」を行っているとし、これを続ける間は、新たな停戦や人質解放をめぐるさらなる交渉に関心はないと述べた。
イスラエルは9週間前にガザへの全ての人道支援物資の搬入を阻止し、その後、同地区への軍事攻撃を再開した。ガザに残る人質を解放するようハマスに圧力をかけるためだとしている。
しかし、ハマスの政治部門の高官バセム・ナイム氏は6日、イスラエルによるガザ封鎖が続く間は「いかなる交渉も無意味だ」と述べた。
イスラエルは4日夜の治安閣議で、ハマスに対する軍事攻撃の拡大計画を承認した。計画にはガザの占拠とその領土の保持、ガザ住民210万人の大半を南部へ強制移住させることが含まれる。
また、現在の支援物資の運搬・配布システムを取りやめ、民間企業や軍事拠点を通じて支援物資を配給する仕組みに置き換えるとしている。
国連の人道問題調整事務所(OCHA)は、こうした考えは基本的な人道主義の原則に反しているとし、イスラエルの計画は受け入れられないと表明。「支援を武器として使おうとする意図的な試みのようだ」とした。
停戦合意の「絶好の機会」とイスラエル
イスラエル軍の報道官は5日、ガザでの地上攻撃の拡大は、ガザに残る59人の人質を連れ戻し、「ハマスの統治能力の解体と決定的な敗北」を実現するためのものだと述べた。人質59人のうち24人は生存しているとみられている。
この作戦は「大規模」に行われ、「ガザ住民の大半を移動させ、ハマスのいない地域で住民を保護する」ことになると、報道官は付け加えた。
イスラエル当局者がメディアに話したところでは、「この計画には、ガザ地区の占拠とその領土の保持、ガザ住民の南部への移動と保護、ハマスが人道支援物資を配給できないようにすること、ハマスに対する強力な攻撃、などが含まれる」という。
別の当局者は、この計画を実施するのは、今月13~16日に予定されているドナルド・トランプ米大統領の中東訪問の後だとしている。ハマスにとって、新たな停戦と人質解放に合意するための「絶好の機会」になるだろうと、この当局者は述べた。
一方、ハマス高官のナイム氏は6日、イスラエル側のこうした発言に反論した。
「(イスラエルが)ガザで我々の民族に対する飢餓戦争を続けている間は、いかなる交渉も新たな提案への関与も無意味だ。国連機関を含む国際社会はこの戦争を、戦争犯罪そのものだとみなしている」
ハマスは別の声明で、イスラエルの閣僚に対し、ガザでの攻撃拡大を承認することは、イスラエル人の人質を「犠牲にしてもいいという明確な決定」だと述べた。
イスラエル政府は即座には反応していないが、イスラエル閣僚で極右のベザレル・スモトリッチ財務相は会議の中で、イスラエルがガザで勝利すればガザは「完全に破壊」され、ガザ住民は南部に「集結」し、そこから「第三国へ大集団となって流出」することになるだろうと述べた。
国際社会の反応
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、ガザでのイスラエルによる地上作戦の拡大と部隊駐留の長期化によって「無数の民間人の犠牲と、さらなる破壊がもたらされることは避けられない」と警告した。
フランスのジャン=ノエル・バロ外相は、イスラエルの計画を「容認できない」ものだとし、イスラエル政府は「人道法に違反している」と述べた。
アメリカのトランプ大統領は、同国はガザ住民に食料を供給する手助けをするつもりだとしたが、詳細は明らかにしなかった。
「みんな飢えている。我々は彼らが食料を得られるよう手助けするつもりだ」とトランプ氏は述べた。「ハマスがそれを阻んでいる。(ガザに)持ち込まれるもの全てを奪っているからだ」。
滞る物資搬入
1月19日に発効された停戦合意は3月に事実上崩壊した。イスラエルは3月2日にガザへの支援物資の搬入を停止し、同18日に攻撃を再開した。停戦期間には人質33人が解放され、イスラエルの刑務所に収監されていたパレスチナ人約1900人が釈放された。
イスラエルは、ハマスが支援物資を盗んで保管しているとも非難している。
支援機関は、ガザの封鎖が解かれなければ、大規模な飢餓はすぐに現実のものになると警告している。
国連とその人道支援関係者によると、イスラエル当局は国連などが運営する既存の支援物資配布システムを閉鎖しようとしている。「イスラエル軍が設定した条件のもとで、イスラエル側の拠点を通じて」物資を届けることに同意するよう、イスラエルから求められているという。
イスラエルは、ガザ南部ラファにある三つの配送センターから支援物資を配布することを提案していると、イスラエル軍ラジオは6日に伝えた。ラファは現在、イスラエルの避難命令の対象地域で、新たに設けられた軍事回廊によってガザのほかの地域から分断されている。
飢餓を回避するため、ガザの各家庭の代表者が配送センターに出向き、1週間分の食料(平均70キログラム相当と推定される)を受け取とることになると、同ラジオは伝えている。ハマスのメンバーが入り込まないよう、代表者は検査を受けるという。
ラジオによると、物資の配給はイスラエル軍ではなく、アメリカの組織や民間企業によって管理される。また、物資はガザのほかの場所には配布されないという。そのため、ガザ住民の南部への移動を早める可能性がある。
OCHAの報道官は、イスラエルの計画は「物資を今以上に管理・制限しようとするもので、必要とされているものとは正反対と思われる」と指摘。住民の移動を強制する手段に援助が使われるべきではないと付け加えた。
OCHAのイェンス・レルケ報道官はスイス・ジュネーヴでの記者会見で、この計画を「公平かつ中立で独立した援助提供という基本的な人道主義の原則に反したもの」だとし、国連はこれに協力しない意向だと述べた。
「公平性とは、援助がニーズのみに基づいて提供されることを意味し、人々をどこかへ移動させようとするものではない」と、レルケ氏は述べた。「中立性と独立性については、(援助を受ける人々が)何も恐れることのない中立的な提供者に会うことが極めて重要だ」。
国連は、イスラエルは国際法のもとで、ガザ住民のための食料と医薬品を確保する義務を負っているとしている。イスラエルは、国際法を順守していると主張。1月半ばから3月半ばまでの停戦中に約2万5000台のトラックが支援物資をガザに運び入れており、物資不足はないとしている。
ガザに住むパレスチナ人男性は、イスラエルの提案は「カモフラージュ」で、ガザへの「援助を受け入れるつもりはない」と述べた。
「ガザが飢餓の深刻な段階に達するまで、封鎖を長引かせる。これが、イスラエルが取り組んでいる基本原則だ」と、この男性はBBCアラビア語の番組「ガザ・トゥデイ」に語った。
一方で別の男性は、自分にとって「最初で最後の関心事」は、家族が生き延びるために必要な物資を受け取ることだと話した。「私たちにとって本当に重要なのは、生きて、食べて、人生を続けることだ」。
国連によると、イスラエルによる過去7週間の砲撃や地上作戦では、すでに数百人もの死傷者が出ている。また、推定42万3000人が家を追われている。ガザの約70%がイスラエルによる避難命令の対象地域になっているか、イスラエルが指定した「立ち入り禁止区域」に指定されている。
ハマスが運営する民間防衛隊の関係者は6日、イスラエルのガザ各地への攻撃で少なくとも37人が殺害されたと発表した。
民間防衛隊がAFP通信に語ったところによると、イスラエルは家を追われた人々が身を寄せていたブレイジ難民キャンプの国連運営の学校を攻撃し、31人を殺害し、数十人にけがを負わせた。犠牲者には子供や女性が含まれるという。
ハマスはこの攻撃を「恐ろしい虐殺」だと非難した。イスラエル軍は、ハマスを標的にした攻撃だったとしている。
ハマスは2023年10月7日にイスラエルを急襲し約1200人を殺害したほか、251人を人質に取った。これを受けてイスラエル軍はガザでハマス壊滅作戦を開始。ハマスが運営するガザ保健当局は、この作戦でこれまでに5万2615人が殺されたとしている。このうち2507人は、停戦合意が事実上崩壊し、イスラエルがガザ攻撃を再開してから死亡したという。
(英語記事 Hamas says Gaza talks pointless while Israel continues 'starvation war')