
ロシアの首都モスクワで9日、第2次世界大戦の対独戦勝記念日を祝う式典が開かれた。モスクワは今週、ウクライナのドローン(無人機)攻撃の標的となったばかりで、厳重な警備が敷かれる中で軍事パレードが行われた。赤の広場での式典には、中国の習近平国家主席も出席。プーチン氏が北朝鮮軍の司令官と抱擁する姿もあった。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、数千人の兵士と、20カ国以上から集まった首脳らに対し、ロシアは第2次世界大戦の教訓を忘れないと語った。
プーチン氏は、第2次世界大戦と現在のウクライナ全面侵攻を結びつけて演説。同氏が「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナ侵攻を、国全体が支持していると主張した。
この日のパレードでは、さまざまな戦闘用ドローン(無人機)が初めて公開された。こうした武器はウクライナでの戦争で広範に使用されている。
第2次世界大戦での旧ソ連のナチス・ドイツに対する勝利から80年となるこの日に合わせて、ロシアはウクライナで5月8日朝から5月11日まで一時停戦すると、一方的に発表していた。ウクライナは、「芝居がかったショー」だとして停戦を拒否した。
ウクライナ政府は、ロシアは一方的に設定した停戦期間に入ってからも、ウクライナに何千もの攻撃を仕掛けていると非難。停戦は茶番だとしている。一方でロシアは、停戦を守っているとし、何百もの違反行為をしているのはウクライナだと非難している。
一方、ドイツのフリードリヒ・メルツ新首相は、早ければ今週末にも、ウクライナでの全面停戦の合意が結ばれることを大いに期待していると述べた。
ロシアの一方的な3日間の停戦は、11日夜に終了する予定だが、これが30日間に延長される可能性があるとして、「ボールは今、完全にロシア側のコートにある」とメルツ首相は述べた。
全国民がウクライナ侵攻を支持と
プーチン氏の演説と、1分間の黙とうに先立ち、地上部隊のオレグ・サリュコフ司令官が、ウクライナで戦った約1500人を含む1万1000人の兵を率いて赤の広場に登場した。その後、アンドレイ・ベロウソフ国防相が部隊を視察した。
プーチン氏は演説で、ロシアは「ナチズムやロシア嫌悪、反ユダヤ主義に対する不滅の障壁であり、今後もそうあり続ける」と主張。ウクライナの指導者たちはナチスだという、事実と異なる主張を繰り返した。
「真実と正義は我々の側にある」とプーチン氏は続け、ウクライナ戦争の参加者を「この国と社会、国民全体が支持している」と主張した。
ロシアの発表によると、式典には27カ国の指導者らが出席した。特に目立っていたのはプーチン氏のほかは、中国人民解放軍の兵士100人超と並ぶ習近平氏だった。
習氏は、聖ゲオルギー・リボン(黒とオレンジの縦じまのリボン)を身に着けていた。これは、ロシアが軍事的な栄光の象徴としているもので、一部の近隣諸国では着用が禁止されている。
ロシア国営テレビは、「集団的な西側諸国」に対抗して団結するロシアと中国の関係は、過去最高のレベルにあると伝えた。
中国側の報道によると、両首脳はパレードに先立ち2回にわたり会談し、ウクライナでの戦争についても非公式に話をしたという。
プーチン氏、北朝鮮司令官と抱擁
1万人超の兵士をロシアに派遣している北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は式典を欠席した。金氏は北朝鮮・平壌のロシア大使館を訪問し、ロシア政府との関係強化を強調した。
赤の広場では、プーチン氏が、ロシアで展開する朝鮮人民軍の金英福司令官と抱擁を交わした。
このほか、ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領やヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領の姿もあった。
欧州連合(EU)加盟国では唯一、スロヴァキアのロベルト・フィツォ首相が出席。EU加盟を希望するセルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領も出席した。
EUのカヤ・カラス外務・安全保障政策上級代表は先に、EU加盟国や加盟を目指す国の首脳は、ウクライナ侵攻を続けるロシアの式典に出席するべきではないと明言していた。
軍事パレードには、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ヤルス」や戦車、装甲兵員輸送車など、ロシアの多種多様な軍用装備品が登場した。6機のスホイ25攻撃機が赤の広場上空を飛行し、パレードを締めくくった。
ウクライナ、一方的な停戦期間中もロシアが攻撃と
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は先に、モスクワでの式典の参加者の安全を保証できないと警告し、各国首脳にロシアへ渡航しないよう呼びかけていた。
ウクライナの軍事アナリストで、新地政学研究ネットワークのディレクター、ミハイロ・サムス氏は、ウクライナは軍事パレードを攻撃しないはずだとBBCに述べていた。
仮にウクライナが攻撃するならば、合法な軍事目標を攻撃するはずだと、サムス氏は話していた。
ゼレンスキー氏は8日夕の演説で、ウクライナは「今すぐにでも全面停戦する用意がある」と述べた。
「しかし、本物の停戦でなくてはならない」、「ミサイルやドローンによる攻撃や、前線での何百もの攻撃のない停戦でなくてはならない」と、ゼレンスキー氏はソーシャルメディアに投稿した動画の中で述べた。
そしてロシアに対し、停戦を支持し、「戦争を終わらせる意思があることを証明」するよう求めた。
ウクライナは、ロシアが設定した停戦期間が始まってからも、ロシアはウクライナに何千回もの攻撃を仕掛けていると非難している。
一方的停戦の2日目には、前線周辺で200回近い衝突が起きたという。また、ロシア軍による空爆が18回あり、4000回近い砲撃があったとしている。
ウクライナ南部ザポリッジャ州では、ロシアのドローン攻撃で車に乗っていた女性1人が殺害されたと報じられている。
ロシア国防省は、ウクライナで展開するロシアの全部隊は「戦闘行為を完全に停止し、これまでに占領していた戦線と陣地にとどまった」が、ウクライナ軍の違反行為に「同様の行為で」対応していると主張した。
ゼレンスキー氏はアメリカのドナルド・トランプ大統領と電話で協議し、「長期的かつ永続的な和平」への用意があることに加え、「どのような形式であれ」会談を行う用意があると、改めて表明したという。また、30日間の停戦実現が、和平へ向かう「真の指標」になるとも伝えたとした。
トランプ氏は8日、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、無条件停戦を改めて呼びかけ、停戦に応じない当事国には追加制裁を科すと警告した。
(英語記事 Putin leads Victory Day celebration in Moscow under tight security)