
バーンド・デブスマン・ジュニア、アンソニー・ザーカー(首都ワシントン)
米連邦議会下院は22日、ドナルド・トランプ米大統領が長らく「大きい、美しい法案」と推進してきた数兆ドル規模の税制・歳出法案を、賛成215票、反対214票の僅差で可決した。身内の共和党からは2人が反対票を投じ、1人が棄権した。減税を柱とするこの法案をめぐっては、16日にも下院で採決が行われたが、共和党議員5人が反対し、否決されていた。
法案は今後、上院に送付される。上院は現状のまま可決するか、内容の修正を決める。
マイク・ジョンソン下院議長は、「アメリカ国民は再び勝利を手にすることができる」と述べた。
トランプ氏が長らく、政策の優先事項として推進してきたこの法案は、同氏の第1次政権が2017年に実施し、まもなく期限切れとなる減税措置を延長する内容。また、国防費と、同氏が推し進める大規模な移民の国外追放のための資金の確保も盛り込まれている。
トランプ氏が2024年大統領選で掲げた主要公約である、時間外労働に対する賃金とチップを一時非課税にする措置も含まれる。
ジョンソン下院議長は採決を前に、「我々が今ここで行おうとしているのは、本当に歴史的なことだ。懸命に働くアメリカ国民の日常生活に大きな違いをもたらすだろう」と述べた。
同法案にはさらに、メディケイド(低所得者への公的医療保険)の縮小や、4200万人以上の米国民が利用するSNAP(補足栄養支援プログラム)の縮小などの、大幅な歳出削減も含まれる。
こうした削減は、共和党内で激しい摩擦を生んでいたが、トランプ氏が22日に議事堂を訪れ、ついに打開した。トランプ氏は内々に議員たちに対し、異論を脇に置くか、さもなければ相応の結果に直面することになると伝えた。
野党・民主党は激しく反対
民主党議員もこの法案に激しく反対し、歳出削減は何百万人もの低所得層の国民に悲惨な結果をもたらすことになると警告した。
「子供たちが打撃を受ける。女性たちもだ。老人ホームや在宅介護のためにメディケイドに頼っている高齢のアメリカ人が打撃を受けることになる」と、民主党のハキーム・ジェフリーズ下院少数党院内総務は議場で述べた。
「生きていくためにメディケイドに頼っている障害者が打撃を受けることになる。あなたがたの選挙区の病院は閉鎖され、老人ホームも閉鎖されるだろう」と、ジェフリーズ氏は付け加えた。「そして国民は死んでいく」。
ホワイトハウスは声明で、議会が法案を通過させなければ、政府は「究極の裏切り行為」とみなすだろうと警告した。
ただ、この法案は国に多額の負担を強いる。来年度のアメリカの債務は5兆2000億ドル、財政赤字は6000億ドル増加すると推計されている。
米格付け大手ムーディーズ・レーティングスは16日に、米国債の長期信用格付けを最上位の「AAA」から「Aa1」へ1段階引き下げたと発表した。米政府の財政赤字の拡大と返済能力に対する懸念を理由としている。
1000ページを超えるトランプ氏の法案の内容は、議員たちが採決を行うわずか数時間前に公開された。つまり、まだ把握されていない条項や項目が残っている可能性がある。
法案成立には、上院での採択が必要だ。その過程で、何らかの変更が加えられる可能性はある。上院が法案内容の変更が必要だと判断すれば、法案は下院に戻される。採決をめぐってまたしても問題が生じる可能性がある。
トランプ氏は自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、法案を「できるだけすみやかに」通過させるよう上院に求めた。
上院がまず最初に取り組まなければならないことの一つは、米議会予算局(CBO)による報告書だ。報告書によると、下院を通過した法案によって債務が増加すれば、メディケア予算を約5000億ドル削減することを義務づける2011年の法律の規定が発動する可能性がある。
トランプ氏は国民の人気が高いメディケアには手を出さないと公言している。共和党は、強制的な削減を回避するために規則を調整しなければ、政治的な代償に直面する可能性が高い。
野党・民主党は、低所得者向け医療保険制度や政府研究、環境保護などへの支出削減や、富裕層への減税を強調する法案の採決を、来年の中間選挙で共和党を攻撃する材料に利用する構えだ。
共和党はこの日の「勝利」を喜んでいる。しかし、下院でわずかに過半数を上回る多数派の共和党は、国民感情の小さな変化にも影響を受けやすい。中間選挙の結果次第では、民主党が下院の支配権を取り戻し、トランプ氏の立法議案が停滞する可能性がある。
(英語記事 US House passes Trump's 'big, beautiful' tax and spending bill)