
マイケル・レイス、ナタリー・シャーマン BBCビジネス記者
ドナルド・トランプ米大統領は23日、欧州連合(EU)の対米輸入品全てに50%の関税を課すと警告し、貿易摩擦を再燃させた。 大統領はさらにアップルに対して、アメリカ国内で製造されていないiPhoneには「少なくとも」25%の輸入税を課すと警告。後に、すべてのスマートフォンがその対象になると範囲を拡大した。
トランプ氏は、EUとアメリカが貿易交渉を行う予定の数時間前に、ホワイトハウスで記者団に話した。
トランプ大統領は先月、EU製品の大半に20%の関税を課すと発表したが、交渉の猶予を与えるとして、7月8日を期限に関税を半分の10%に引き下げていた。
EUはアメリカとの貿易交渉後に声明で、合意成立に向けて引き続き努力するとしつつも、報復措置を取る用意があると改めて警告した。
欧州委員会のマロシュ・シェフチョヴィッチ通商担当委員はソーシャルメディアに、「EUとアメリカの貿易は他に類のないもので、脅しではなく相互尊重に基づいて行われなければならない」、「我々は自分たちの利益を守る用意がある」と書いた。
トランプ大統領は23日午後にホワイトハウスで記者団に対し、EUとの貿易交渉のペースにいら立ちを示し、6月1日に関税を引き上げるつもりだと述べた。
「取引を求めているわけではない。取引はもうまとまっている」と大統領は述べたうえで、欧州企業がアメリカに巨額投資をするなら、延期もあり得るとすぐに付け加えた。
「何がどうなるか様子を見るが、今のところは(関税引き上げは)6月1日にやる」とトランプ氏は述べた。
複数のアナリストは、トランプ氏のこうした発言が実現するのかは、まだ分からないとしている。
英シンクタンク「欧州改革センター」の貿易専門家アスラック・バーグ氏はBBCに対し、トランプ大統領の発言は交渉を前に影響力を高めることを意図したものだと思うと話した。
「しかし、実際のところ、EUは譲歩するつもりはない。EUは引き続き冷静に議論を続けるだろう。とても厳しい話し合いになるはずだ」とバーグは述べた。
同氏は、トランプ大統領による関税の再引き上げは、アメリカが取り組み中の他の交渉にとって悪い前例となると付け加えた。
「しばらくの間(中略)トランプ大統領が後戻りして、少し静かに落ち着くかと思われていたが、今回のこれで、そんなことはまったくないのだと明らかになった」
株価急落
トランプ大統領はホワイトハウスに復帰して以来、世界各国からの輸入品にさまざまな関税を課したり、課すと警告したりしている。トランプ氏は、輸入品に課税すれば、アメリカ国内の製造業が活性化し、国内の雇用を外国の競争から守ることになると、その効果を強調している。
関税に関するトランプ氏の一連の発表を受けて、世界的に懸念が増している。外国企業にとって、世界一の経済大国に輸入することが割高で困難になるためだ。
他方、自分の関税政策の発表が金融市場の混乱をもたらし、アメリカ国内の経済界からも非難の声が相次いだことから、トランプ氏は特に厳しい方針の一部を緩和してきた。
23日のトランプ氏の発言を受けて、米欧では株価が下落。アメリカの主要500社を追跡するS&P500種は約0.7%下がり、ドイツのDAX指数とフランスのCAC40指数は1.5%以上下落して取引を終えた。
トランプ政権は4月11日に、スマートフォンを含む主要電子機器を関税の対象から除外すると発表。これを受けてアップルの株価は一時持ち直していたものの、23日には約3%下落した。 スマートフォンなどへの除外措置は一時的なものだと、政権は先月の時点で警告していた。
トランプ氏は23日午後、記者団に対して、アップル製品のみを標的にするつもりはなく、6月末までに全てのスマートフォンに関税を適用する予定だと述べた。
「火をつける」
EUはアメリカにとって最大の貿易相手の一つ。米政府統計によると、EUの昨年の対米輸出額は6000億ドル以上だったの対し、アメリカからの輸入額は約3700億ドルだった。
トランプ氏はこの輸出入額の不均衡に、強い不満を抱いている。EUに対するアメリカの貿易赤字は、アメリカ企業に対するEU政策が不公平だからだとトランプ氏は主張し、とりわけ自動車や農産物に関するEU政策を問題視している。
トランプ大統領は4月2日のいわゆる「解放記念日」の発表でEU製品に20%の関税を課すと発表。これを機にアメリカと各国の間で交渉が相次いだ。
経済規模の小さい国など、一部の国はトランプ政権に融和的な姿勢をとっているが、EUは中国やカナダと同様に、アメリカ製品への関税引き上げで報復する用意があると反発。トランプ氏の脅しに強硬に抵抗している。
トランプ大統領は23日、EUは「とても取引がやりにくい」相手だと不満を口にした。
スコット・ベッセント米財務長官は米FOXニュースに対し、トランプ氏の最新の脅しが「EUの下に火をつける」と期待していると述べた。
欧州の反応は
EU加盟各国の政治家たちは、トランプ氏の発言に対する落胆を口々に表明した。
アイルランドのミホル・マーティン首相は、EUは「誠意を持って」交渉に臨んでいると述べ、関税は双方に損害を与えることになると警告した。
「この道を進む必要はない」、「交渉こそが、前進するための最善かつ唯一の持続可能な道だ」 と、マーティン首相は述べた。
フランスのローラン・サンマルタン外相は、「我々は緊張緩和という方針を変わらず維持しているが、対応する用意はある」とソーシャルメディアに投稿し、圧力は交渉を「助けて」いないと書いた。
ドイツのカテリーナ・ライヘ経済相は、ドイツは「貿易を減らすのではなく、増やす必要がある」として、「欧州委員会が確実にアメリカと交渉を通じて解決に達するよう、私たちはあらゆる努力をしなければならない」と述べた。
広範な重関税はトランプ政権の目的達成にはほとんど貢献せず、むしろ経済的ダメージにつながると、多くの専門家は警告している。それでもトランプ氏は、自分の関税政策を推進している。
米ウェドブッシュ証券のアナリスト、ダン・アイヴス氏は23日、アップルがiPhoneをアメリカ国内で製造するという考えは「実現不可能なおとぎ話」だと評した。
トランプ大統領が以前から製造拠点のアメリカ国内移動を望む企業の代表格としてアップルを名指ししているものの、アップルはこの状況を引き続き乗り切ることができるはずだと、アイヴス氏は話した。
トランプ氏は自分の関税政策に対するアップルの反応に不満を示しており、20日にもホワイトハウスで同社のティム・クック最高経営責任者(CEO)と会談している。
アップルは今月初め、アメリカで販売予定のiPhoneやその他の端末の大半の生産拠点を中国からアメリカにではなく、インドやヴェトナムなどに移転すると発表した。
ランプ大統領は今月初め、クック氏には「ちょっとした問題」があると述べ、「インドで作ってもらいたくない」とクック氏に警告していた。