
ジェイムズ・ウォーターハウスBBCウクライナ特派員(キーウ)、ヤロスラフ・ルキフ、ジェマ・クルー、レイチェル・ヘイガン(BBCニュース)
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は25日、近頃のロシアによるウクライナ攻撃についてアメリカが「沈黙」していることが、ウラジーミル・プーチン大統領を勢いづけていると主張した。ウクライナは25日にかけて、ロシアの全面侵攻後最大規模の夜間攻撃を受けた。
ロシアは24日夜から25日にかけて、ウクライナにドローン(無人機)298機とミサイル69発を発射した。ロシアの夜間攻撃としては、2022年にプーチン氏がウクライナへの全面侵攻を開始して以来、最大規模。
ウクライナ各地に対するこの攻撃で、子供3人を含む少なくとも12人が死亡し、数十人が負傷した。
前夜には、首都キーウが、ここ数カ月で最も激しいロシアの攻撃を受けた。
アメリカのドナルド・トランプ大統領は25日遅く、同日にかけての夜間攻撃について、「プーチンがやっていることが不満だ。彼はたくさんの人を殺している」と、記者団に述べた。
強力な圧力なしに「ロシアの蛮行」止められないと
ウクライナ空軍によると、ロシアは24日午後8時40分以降、ドローン298機と、巡航ミサイルと弾道ミサイル計69発による攻撃を行った。
ウクライナ空軍は巡航ミサイル45発を撃墜し、無人航空機(UAV)266機を破壊したが、ウクライナの大半の地域が影響を受け、22カ所に攻撃が命中したという。ゼレンスキー氏は、30以上の都市や村で救助隊が活動していると述べた。
国際的な停戦要求が高まっているにも関わらず、ロシアに攻撃を止める気配はなく、停戦要求を無視し、空爆作戦を強化し続けている。
トランプ氏は以前、プーチン氏はウクライナでの戦争を終わらせることに関心があると主張していた。ゼレンスキー氏はトランプ氏に宛てた辛辣(しんらつ)なメッセージの中で、「世界では、休暇に入るところかもしれないが、戦争は週末も平日も関係なく続いている」と述べた。
「こんなことを見過ごすことはできない。アメリカの沈黙、そして世界のほかの国々の沈黙は、プーチンを勢いづけるだけだ」と、ゼレンスキー氏は述べた。
ゼレンスキー氏は、「ロシア指導部に対する強力な圧力」がなければ、ロシアの「蛮行を止めることはできない」と警告した。
この数時間後、トランプ氏は25日にかけての攻撃について初めてコメントした。ワシントンに戻る準備をしていたニュージャージー州モリスタウンの空港で、こう述べた。
「私はプーチンに不満だ。彼は一体どうしたのか、私にはわからない。一体全体、彼に何があったというんだ」。
ロシアのウクライナ攻撃に、どのような対応を取るのかについては、詳細を明かさなかった。
トランプ氏に先立ち、ロシアの攻撃に反応を示した米高官は、キース・ケロッグ・ウクライナ担当特使だけだった。
ケロッグ特使は、ロシアの攻撃後に、キーウ上空に煙が立ち上る様子だとする画像をソーシャルメディアに投稿した。
「これはキーウだ。夜間に自宅にいる女性や子供たちを無差別に殺害することは、罪のない市民の保護を目的とした1977年のジュネーヴ諸条約の追加議定書に対する明白な違反だ。こうした攻撃は恥ずべきものだ。殺りくを止めろ。今すぐ停戦せよ」と、ケロッグ特使は書いた。
1977年の追加議定書は、武力紛争の際に適用されるジュネーヴ諸条約を補完するもの。
ウクライナのマリアナ・ベツァ外務次官によると、25日にかけての攻撃で殺害された人の中には、キーウの西に位置するジトーミル州で死亡した子供3人が含まれる。3人はきょうだいだという。ベツァ外務次官はソーシャルメディアに声明を投稿し、死亡したのはスタニスウ君(8)、タマラちゃん(12)、ロマン君(17)だと明らかにした。
アメリカ、対ロ制裁を発動せず「沈黙」
ゼレンスキー氏が言う「アメリカの沈黙」とは、ウクライナへの侵略行為を続けるロシアに対して、米政府がこれまでのところ制裁措置を発動していないことを指しているとみられる。
ゼレンスキー氏は、ロシアの戦争マシーンが十分に装備不足に陥っておらず、クレムリン(ロシア大統領府)を停戦交渉に有意義に関与させる動機づけが不十分だと、主張している。
トランプ氏は、停戦に応じるようロシア政府を説得するには、ムチよりアメを使いたいとしている。しかし、ウクライナとロシアの直接協議と、直接協議で合意・実現した捕虜交換を除けば、トランプ氏がしびれを切らしつつあるにもかかわらず、戦闘の一時停止への進展はほとんどない。
ウクライナの欧州の同盟国は、対ロシア追加制裁を準備している。しかしながら、アメリカは、和平交渉の仲介を継続するか、進展がなければ仲介の取り組みから手を引くとしている。
一方でロシア政府は、和平交渉をめぐり、最大限の要求を提示し続けている。トルコ・イスタンブールで16日に行われたウクライナとロシアの対面での和平交渉に、プーチン氏は姿を見せず、ウクライナに対して48時間にわたる空爆を行った。クレムリンがあとどれくらいのことをすれば、ホワイトハウスは厳しい態度を取るようになるのかは、判断しにくしい。
ロシア、軍用飛行場や弾薬庫など攻撃
ロシア国防省は25日の一連の攻撃で、ウクライナの軍用飛行場や弾薬庫、電子戦基地を含む標的と、142地域に損害を与えたと発表した。
ウクライナのイホル・クリメンコ内相は、13地域が攻撃を受け、60人以上が負傷、集合住宅80棟が損壊したほか、27件の火災が確認されたとしている。
クリメンコ内相は、「民間人を狙った、複合的かつ無慈悲な攻撃」だと述べた。
ハルキウ州のオレフ・シニエフボフ知事は、同州クピャンスクの家屋1棟が攻撃を受け、85歳と56歳の女性2人が死亡したと明らかにした。
キーウ州では4人が死亡し、子供3人を含む16人が負傷したと、ウクライナの国家非常事態庁(DSNS)は発表した。
2022年2月にウクライナへの全面侵攻を開始したロシアは現在、ウクライナ領土の約20%を支配している。
これには、2014年にロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアも含まれる。
ロシアはわずか1週間前にも、全面侵攻後最大規模のドローン攻撃をウクライナに仕掛けた。ドローン273機が、キーウ中心部と、東部ドニプロペトロウシク州とドネツク州に向けて発射された。
ロシアは、ドローン製造のスピードが速いだけでなく、ドローン自体も進化し続けている。シャヘド型攻撃ドローンには、より多くの爆発物が搭載され、探知を回避するための技術も向上している。
ウクライナによると、25日にかけて空爆を受けた13地域は、キーウ州、首都とその周辺地域、ジトーミル、フメルニツキー、テルノピリ、ドニプロペトロウシク、ミコライウ、オデーサ、ハルキウ、チェルニヒウ、チェルカシー、スーミ、ポルタヴァ。
キーウの地元当局は、11人の負傷者と、複数の火災、寮1棟を含む複数の集合住宅の被害を報告した。
キーウに住むBBCスタッフによると、自宅から車で5分の場所にあるアパートの一角が破壊されたという。
ロシアの空爆があった25日は、キーウ市の建都日「キーウ・デー」の祝日だった。
ロシアでウクライナのドローン撃墜と
こうした中、ロシア国防省は、25日午前0時から7時までの間に、ウクライナのドローン110機がロシアの12地域の上空と、クリミア半島上空で破壊・撃墜されたと発表した。
モスクワのセルゲイ・ソビャーニン市長は、モスクワに向かっていたドローン12機が撃墜されたと報告した。
また、ドローンの破片落下による被害を確認するため、救急隊が出動したと付け加えた。
モスクワのすぐ南に位置するトゥーラ州では、ドローンの残骸が集合住宅の中庭に落下し、多数の窓ガラスが割れたと、ドミトリー・ミリャエフ州知事は述べた。
ミリャエフ知事によると、負傷者はいなかった。
大規模な捕虜交換も、停戦への希望は
25日には、ウクライナとロシアの大規模な捕虜交換も行われた。今回の捕虜交換はこの日が3日目で、最終日だった。この週末の一連の攻撃を経て、両国の協力が続くかもしれないという希望はさらに薄れることとなった。
ウクライナとロシアは23日、全面侵攻後最大規模の捕虜交換を開始。兵士と民間人の捕虜390人ずつを引き渡した。
24日には、さらに307人のウクライナ人捕虜が帰国したと、ゼレンスキー氏が発表した。
そして最終日の25日には、両国が兵士の捕虜303人ずつを引渡した。3日間で計1000人ずつの捕虜交換が完了した。
この捕虜交換は、トルコ・イスタンブールで3年ぶりに開かれた、ウクライナとロシアの直接協議で合意されたもの。
ウクライナでの停戦をめぐっては19日、トランプ氏とプーチン氏が2時間にわたり電話で協議した。
トランプ氏は、話し合いは「非常にうまくいった」と説明。ロシアとウクライナが戦争の停止と終結に向けて「直ちに」交渉を開始すると主張した。
一方でプーチン氏は、「将来の和平合意の可能性に関する覚書」の作成で、ウクライナと協力する用意があるとしたものの、欧米諸国が求めている30日間の無条件停戦を受け入れてはいない。
(英語記事 Zelensky says 'US silence' over Russian attacks encourages Putin)