2025年6月22日(日)

BBC News

2025年5月29日

禁錮20年が言い渡されたジョエル・ル・スクアルネック被告(法廷スケッチ画)

ラウラ・ゴッツィ(BBCニュース)

フランスの元外科医で、1989~2014年に子どもを中心に数百人の患者を性的に虐待したことを認めていたジョエル・ル・スクアルネック被告(74)に対し、同国の裁判所は28日、最も重い禁錮20年の刑を言い渡した。

ル・スクアルネック被告は3月、299人に対する性的虐待を認めていた。

オード・ブレシ判事はこの日の法廷で、被告が虐待対象を探した際に、体調が悪く、立場が弱く、鎮静剤を使っていた相手を特に選んでいたことを、量刑などの判断で考慮したと説明した。

黒い服装の被告は、無表情で判決を聞いていた。

今回の量刑のうち、3分の2は必ず服役しなくてはならない。被告は別の事件ですでに7年間服役しており、その期間が算入されるため、2030年までに仮釈放される可能性がある。

被害者のアメリ・レヴェックさんは、「いつか彼が通りを歩き、ほかの人たちに会えるかと思うと、いやな気持ちになる。私たち(被害者)はもう普通の生活が送れないのに、彼には生活を取り戻させようとしている。ものすごく腹立たしい」と話した。

何人かの被害者の代理人となっているフランセスカ・サッタ弁護士は、「この裁判における被害者の人数からすれば、20年はわずかだ」、「もっと適切な量刑になるよう、法律が変わる必要がある」と述べた。

一方、被告側のマキシム・テシエ弁護士は、被告に上訴する意図はないとした。

ル・スクアルネック被告は、フランスで最も多くの被害者を出した小児性加害者と呼ばれている。2020年に、めい2人を含む子ども4人に対するレイプや性的暴行の罪で禁錮15年が言い渡され、すでに刑務所に入っている。

今回の裁判は、2月下旬からブルターニュで続いていた。

その間、数十人の被害者が、子ども時代に受けた虐待の影響について証言した。

被告は3月の審理で、被害者とされた全員について、性的に虐待したことを認めた。多くは麻酔がかけられた状態か、手術の後で意識が戻りつつある状態で被害に遭った。

被告は日記に暴行の様子を生々しく記録していた。警察はそれを手掛かりに被害者を特定した。多数の人は虐待を受けたことを記憶していなかった。

被告は今月に入り、被害者2人の死に関して「責任がある」と陳述した。この2人については、子どものときに被告に性的暴行を受け、そのトラウマから自殺したと、親族は話している。

被告は先週の最終意見陳述では、「私はもう以前と同じように自分を見ることができない。私は小児性加害者であり、子どもをレイプする人物だからだ」と発言。

「いろいろな発言があった。今すべてを覚えているわけではない。だが、監房にいる時に間違いなく思い出すだろう。私が(法廷で)見聞きしたのは、私が引き起こした苦しみだ」と述べた。

被告はまた、寛大な判決は望んでおらず、期待もしていないとした。

ル・スクアルネック被告は、15年以上も捕まることなく虐待を続けた。2005年に小児性加害の画像をダウンロードした罪で有罪判決を受けたが、子どもたちに治療を続けることが許された。今回の裁判は、そうしたことに対する大きな怒りを呼んだ。

被害者の団体は、この裁判が政治家や社会全体の関心を引くことができなかったと嘆いた。団体は声明で、「この事件からは何の教訓も引き出されなかった。医学界からも、政治家からもだ」とした。

何人かの被害者は、28日午後の判決言い渡しを前に、裁判所の前で抗議活動を行った。

被害者の母親のカトリーヌさんは、多くの記者が裁判を取材しているのを見たのは、この日が初めてだと述べ、被害者が忘れられていると感じたと話した。

「残念なことだが、私の望みは、私たちのメッセージが伝えられていくことだ。傷つけられた世代のためではなく、私たちの孫たちのために」

カトリーヌさんはまた、関係機関が「反応する」のを期待するとした。

14週間にわたった裁判では、被告は毎日出廷し、自分の「吐き気がする」行為についてたびたび謝罪した。

被害者の多くは、被告の態度を批判した。

ルイ=マリーさん(35)は、「彼の言葉はいつも同じで、トーンも同じだ。誠意が感じられない」とBBCに話した。「私が望むのは、彼がこれ以上社会に害を及ぼさず(中略)、収監され続けることだけだ」。

マノン・ルモワンヌさんは、「彼の頬を涙が伝ったのを見たことがない」と言った。

一方、被告側のテシエ弁護士は、被告は誠実だったと信じていると説明。「彼はこの裁判の間、とても感じ入っていた。(中略)彼が実際にしたように告白するのは、彼にとってとても大事なことだった。真実と正義の瞬間だった」とした。

テシエ弁護士はまた、医療当局に批判の矛先を向けた。医療当局に対しては、被告が小児性加害者だとのうわさが広まっていたにもかかわらず、医師としての活動をやめさせようとしなかったとして、市民団体が非難している。

「誰も責任を認めなかった。被害者たちは全員、彼のしたことは彼だけでなく、制度にも責任があると言った」と、同弁護士はBBCに話した。

国立医師会評議会(CNOM)は3月、被告が「医療行為をできないように」すべきだったとして、「深い遺憾の意を表明する」とした。同評議会は被告を相手に訴訟を起こしている。

同評議会は声明で、「この事態は、医師会評議会のさまざまな組織の間のコミュニケーション不足を浮き彫りにしたもので、深く反省している」とした。

追加取材:マリアンヌ・ベズネ(ヴァンヌ)

(英語記事 French paedophile surgeon who abused hundreds sentenced to 20 years in jail

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c15n7qwpv37o


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