
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は28日、イスラム武装組織ハマスのガザ地区幹部、ムハンマド・シンワル氏(49)をイスラエル軍が「排除した」と述べた。シンワル氏は、ハマスの前最高指導者ヤヒヤ・シンワル氏の弟で、イスラエルが最重要指名手配者の一人として追っていた。
イスラエル軍は、13日に南部ハンユニスにあるヨーロピアン病院の中庭および周辺地域に対して大規模な空爆を実施し、ハマスの「地下インフラ」を破壊したと発表している。この攻撃が、ムハンマド氏を標的としたものだったとされる。
一方、ハマスが運営するガザの民間防衛隊は、この空爆によって28人が殺されたと発表した。ハマス側はムハンマド氏の死亡について、現時点で肯定も否定もしていない。
ヤヒヤ氏は、2023年10月7日のハマスによるイスラエル襲撃を主導したとされ、昨年10月にイスラエル軍によって殺害された。
イスラエルは、600日前に発生した前例のない越境攻撃への報復として、ガザ地区で軍事作戦を開始した。この攻撃では約1200人が殺され、251人が人質として連れ去られた。
ハマスが運営するガザの保健省によると、それ以降、少なくとも5万4084人がガザで殺害された。
2023年の攻撃計画にも関与か
ムハンマド氏は1980年代後半、設立された直後のハマスに参加し、ハマス軍事部門カッサム旅団の一員となった。
その後、組織内で昇進を重ね、2005年まではハンユニス旅団の司令官を務めていた。
2006年に起きたイスラエル兵ギラド・シャリート氏の拉致事件では、作戦の首謀者の一人とみられている。シャリート氏は5年間の拘束後、イスラエルの刑務所に収監されていたパレスチナ人1000人以上との交換で解放されたが、この時にヤヒヤ氏も釈放された。
ムハンマド氏はまた、カッサム旅団のモハメド・デイフ司令官(故人)と近い関係にあったとされ、2023年10月7日の攻撃の計画にも関与していたとされている。
ネタニヤフ首相は、野党の要請によって開かれた特別議会討論の中で、ムハンマド氏が死亡したと発表した。この討論は、野党側が「全人質の帰還とハマスの壊滅という戦争の目的がまったく達成されていない」として、政府の失敗を追及するために開いた。
こうした批判に対し、ネタニヤフ首相はイスラエルの成果を列挙した。
「『復活の戦争』の600日間で、我々は中東の様相を確かに変えた」と、ネタニヤフ氏は説明。
「テロリストを自国領から排除し、ガザ地区に侵攻し、数万人のテロリストを排除した。モハメド・デイフ、(ハマス政治部門の元最高指導者イスマイル・)ハニヤ、ヤヒヤ・シンワル、ムハンマド・シンワルを排除した」と語った。
イスラエル当局はこれまで、ムハンマド氏の安否について確定的な発言を避けていた。
イスラエル軍は、5月13日に実施した空爆について「ヨーロピアン病院の地下にあるテロ組織のインフラに指揮統制センターが設置されており、そこで活動していたハマスのテロリストを標的とした」ものだと説明しており、ムハンマド氏には言及していなかった。ただし、イスラエルのメディアは、同氏が攻撃の標的だったと報じていた。
その5日後、イスラエルのヨアヴ・ガラント国防相は議会で、公式な確認はないとしながらも、イスラエルの情報機関からの「あらゆる示唆」が、同氏の死亡を示していると述べた。
ヨーロピアン病院は、2週間前の攻撃以降、機能を停止している。
監視カメラの映像には、爆発が発生する直前、病院の中庭を子どもや女性、男性が歩いている様子が映っている。また、爆発の煙が晴れると、大きなクレーターが形成され始める様子が確認できる。
医療関係者は、イスラエル当局から事前の警告は一切なかったと話している。また、この病院は、イスラエル軍が3月18日にハマスへの攻勢を再開して以降に発令した避難命令の対象にも含まれていなかった。
国連のフォルカー・テュルク人権高等弁務官は、民間人の殺害について「悲劇的であると同時に、極めて忌まわしい」と非難し、たとえ地下施設の破壊が明確な軍事的利益をもたらすとイスラエルが考えていたとしても、国際法に基づき、民間人の生命を守る義務があると指摘した。
人質20人が「現在も生存」とネタニヤフ氏
ネタニヤフ首相は28日、ハマスによる拘束が続く人質58人の問題についても言及した。
「私は、生存者も戦死者も含め、すべての人質を取り戻すという任務に完全に集中している」とネタニヤフ氏は述べ、「現在得られている情報によれば、生存が確認されている人質は20人であり、これには議論の余地がない。さらに、死亡したとみられる人質は最大で38人に上る」と語った。
今月初め、ネタニヤフ首相は、これまで生存が確認されていた24人の人質のうち3人については「状況が不確かだ」と述べていた。
その数日後、イスラエル系アメリカ人の人質イダン・アレクサンダー氏が解放された。ハマス側は、アレクサンダー氏の解放は、新たな停戦および人質解放合意の仲介を試みているドナルド・トランプ米大統領への善意の表明だとしている。
ネタニヤフ首相はさらに、過去2日間で「ガザにおける食料配給の管理を掌握した」ことにより、「ハマスの完全な敗北に向けて劇的な転換が起きた」と宣言した。
これは、アメリカとイスラエルの支援を受けて設立された「ガザ人道財団(GHF)」による新たな支援物資配給システムを指す。GHFはアメリカの民間警備会社を活用し、国連を介さずに運用されている。国連はこの方式について、「基本的な人道原則に反する」と批判している。
イスラエルの人質と行方不明者の家族を代表する「人質・行方不明者家族フォーラム」は、ムハンマド・シンワル氏に関する首相の発表を歓迎した一方、「真の国家的勝利を達成すべき時が来た。それはすべての人質の帰還と、イスラエル社会の再建を含むものでなければならない」と訴えた。
(英語記事 Israel PM says Hamas's Gaza chief Mohammed Sinwar has been killed)